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1年
ギルド訓練場1
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学園祭終了の翌日である今日と明日は、本当の意味での休日だ。僕たち1年は学園祭開始からずーっと休日みたいなものだけど、先輩たちはきっとかなり疲れただろうね。まあ、来年は僕もグッタリしてるだろうけど。
「今日はどうする?」
「学園の外もお祭りなんでしょ? 行ってみたいな」
「いろんな屋台も出てるって話だし、ひやかすだけでも楽しいかもな」
「うん!」
後期になってから、僕もマシューに付き合って早朝ランニングしてるんだよ。放課後は大図書館に行くのが日課になってるから朝だけ。大図書館では最初は前世以降の歴史なんかの書物を読んでたけど、今はいろんな書物に目を通してる。内容的には1年生が読むには難しいものばかりだから、司書さんにはしっかり顔も名前も覚えられちゃったし。
身体を動かした後の朝ごはんは美味しいよね。おかげで最近は僕も食べる量が増えたんだ。でもマシューには負ける。マシューの食欲ってすごいんだもん。それなのに身長が僕と同じくらいってのが信じられないんだよねぇ。
今僕たちがいるのは寮の食堂だ。休日は午前中いっぱいを朝食時間にしてくれてるので、寝坊しても食いっぱぐれることは無いよ。だから安心して寝坊できるってワケ。あ、でも僕たちはいつも通りの時間だよ。
「ついでに冒険者ギルドへ行っても良い? 魔石を買いたいんだ」
「魔石? まさか雷の陣を刻まないよな?」
「雷のは既にあるからいらないよ。今度は土魔法の陣を刻もうかと思って」
「土魔法の? 嗚呼!」
「あの陣は結構複雑だからね、毎回描くのは面倒だから、魔石を利用することにしたの」
「オブジェ作成かぁ。いつまで続くのやら」
「飽きるまで! せめてまともなものが作れるまでは続けたいと思ってるよ」
「ハハ、先は長いな」
「むう……」
頑張って上手くなって、絶対にオブジェ作成コンテストに出るんだもん。
きっと僕のことだから、ある程度までやったら止めちゃうと思うけど、それまでは地道にやるつもりだよ。僕の中の『ある程度』は、まあまあ納得できるレベルのオブジェが作れるようになった頃かな。飽きっぽいところはあるものの、納得するまではしつこく続けるのが僕の性格なんだ。
まあそんなこんなで、朝食後は部屋で魔力制御の修行なんかをしてから出かけた。ちなみにマシューの方は『構え』の練習をしてた。これも立派な剣の修行のひとつなんだ。基礎なんだって。
◇◇◇ ◇◇◇
学園の門を出て暫く歩くと大きな広場があるんだ。広場の真ん中は花壇になっていて、今日も色とりどりの花が咲いてた。ここは憩いの場で、花壇の手入れはボランティアの人たちがやってるんだって。広場の周りにはベンチと屋台があるんだ。今日はお祭りだからか、以前見かけた時より屋台の数が多いような気がするかな。
「椅子と楽器を持った人が集まってくるな」
「演奏会とかするのかな? もしかして有名な楽団だったりして」
「どう見てもここら辺に住んでる人だろう」
「うーん……。エンダル市民楽団とかそんな名前だったりして」
「かもな」
僕たちが広場の様子を見ながら話してると、親切な人がいろいろ教えてくれた。今準備してる人たちは、このエンダル学園都市で活動している素人楽団なんだって。楽器が好きな人たちが集まって練習して、年に一度発表会とかをしてたそうだよ。それが今ではイベントに呼ばれるくらいにまでなったんだってさ。学園祭の魔法科がやったショーでも演奏してたんだって。この人たちだったんだー!と、改めて思った。
「マシューは楽器の演奏とか出来るの?」
「無理。前世では一通り教育を受けたが、それで判明したのはオレには音楽の才能は無いってことだった」
「へえ~。マシューって料理以外にもダメなものがあったんだね」
マシューの料理の腕は前々世から知ってるからね。あれはあれで一種の才能だと思うよ。どうやったらあそこまで酷くなるのか、本当に不思議なんだ。
「音楽の教師がな、親父に進言したんだよ。『殿下は楽器よりも剣に触れてる時間を増やした方が、より良い結果を生むことになるでしょう』ってな。それから続けて『その方が殿下も私も幸せかと……』だってさ。
親父とおふくろは、溜息をつきながらその教師の申し出を了承してたぞ。でもな、その場にはオレもいたんだよ。おかげでかなり落ち込んだ」
笑いそうになったのを、意思の力で何とか堪えた。せめてマシューがいない場所でやれば良かったのにね。ちょっと可哀想かも。マシューは身体能力が高くリズム感もあるのにね、もしかしたら別の人に習ってたら違ったのかも。まあ今は前世じゃないから、そんなことを考えても仕方ないけど。
「セインの方はどうなんだ?」
「一度も習ったことが無いから分かんないな」
「習いたいと思ったことは?」
「無いなぁ。でも聞くのはキライじゃないよ」
他愛もない話をしてる間に準備が整ったらしく、指揮者の合図で演奏が始まった。お祭りに相応しく、演奏してる音楽は聞いてるだけでウキウキしてくるような明るいものだった。
演奏が始まって直ぐ、広場の隅でそれぞれ寛いでいた人々が三々五々中央の方へ向かい、それから楽しそうに踊り始めたんだ。僕たちに楽団のことを教えてくれた人も、お相手の方と手を取り合って踊りに行ったよ。きっと彼らは、演奏が始まるのを楽しみに待ってたんだろうね。広場にいた人たちのカップル率が高いのはそのせいだったみたい。もちろん男性同士のカップルもいたよ。残念ながらそれは少数だったけど。
「オレたちも踊るか?」
「ヤメとく。今の僕たちはチビだから、踊ってる彼らの目に入らないと思うんだ。だから押されちゃう可能性が高いよ」
楽しそうにクルクル回ったりしてるんだよね。そんなところにチビな僕たちが入ったら、かなり危険だと思うんだ。せっかくのお祭りで転んだりケガしたりとかはイヤだからね、それに見てるだけでも楽しいよ。
「あっちの隅では子供が踊ってるぞ」
「うわあ、かわいいねぇ。お父さんにしがみつきながら、楽しそうにヨチヨチしてる」
二歳くらいの子じゃないかな? すっごく可愛いよ。直ぐ側で見てるのはお母さんだと思う。ああ言うのも良いなって、ほのぼのしながら眺めちゃった。楽しくて幸せになる光景って、きっとこんなのを言うんだろうね。広場に来てみて良かったな。
暫く楽しそうな様子を眺めてから広場を後にして、雑貨とかのお店が多い路地へ移動した。お祭りの日は商品が安くなってたりするそうなんだ。だから良さそうなものがあったら買おうかって話してたんだよ。そんな僕たちの思惑と同じような人が沢山いたらしく、向かった路地は広場以上の賑わいだった。
マシューとふたりでいろんな商品を物色し、値段と予算の間でかなり悩んで、結果大満足な物を買うことが出来た。買ったのは室内履き。とっても暖かそうで、これからの季節に大活躍すること間違い無しってワケ。お店の人もお祭りだからって安くしてくれたおかげで、最初に選んだやつより良いものを買うことが出来たんだ。お祭りってすごいね。来年もお祭りになったら、またこの店に来ようと思ったよ。
「今日はどうする?」
「学園の外もお祭りなんでしょ? 行ってみたいな」
「いろんな屋台も出てるって話だし、ひやかすだけでも楽しいかもな」
「うん!」
後期になってから、僕もマシューに付き合って早朝ランニングしてるんだよ。放課後は大図書館に行くのが日課になってるから朝だけ。大図書館では最初は前世以降の歴史なんかの書物を読んでたけど、今はいろんな書物に目を通してる。内容的には1年生が読むには難しいものばかりだから、司書さんにはしっかり顔も名前も覚えられちゃったし。
身体を動かした後の朝ごはんは美味しいよね。おかげで最近は僕も食べる量が増えたんだ。でもマシューには負ける。マシューの食欲ってすごいんだもん。それなのに身長が僕と同じくらいってのが信じられないんだよねぇ。
今僕たちがいるのは寮の食堂だ。休日は午前中いっぱいを朝食時間にしてくれてるので、寝坊しても食いっぱぐれることは無いよ。だから安心して寝坊できるってワケ。あ、でも僕たちはいつも通りの時間だよ。
「ついでに冒険者ギルドへ行っても良い? 魔石を買いたいんだ」
「魔石? まさか雷の陣を刻まないよな?」
「雷のは既にあるからいらないよ。今度は土魔法の陣を刻もうかと思って」
「土魔法の? 嗚呼!」
「あの陣は結構複雑だからね、毎回描くのは面倒だから、魔石を利用することにしたの」
「オブジェ作成かぁ。いつまで続くのやら」
「飽きるまで! せめてまともなものが作れるまでは続けたいと思ってるよ」
「ハハ、先は長いな」
「むう……」
頑張って上手くなって、絶対にオブジェ作成コンテストに出るんだもん。
きっと僕のことだから、ある程度までやったら止めちゃうと思うけど、それまでは地道にやるつもりだよ。僕の中の『ある程度』は、まあまあ納得できるレベルのオブジェが作れるようになった頃かな。飽きっぽいところはあるものの、納得するまではしつこく続けるのが僕の性格なんだ。
まあそんなこんなで、朝食後は部屋で魔力制御の修行なんかをしてから出かけた。ちなみにマシューの方は『構え』の練習をしてた。これも立派な剣の修行のひとつなんだ。基礎なんだって。
◇◇◇ ◇◇◇
学園の門を出て暫く歩くと大きな広場があるんだ。広場の真ん中は花壇になっていて、今日も色とりどりの花が咲いてた。ここは憩いの場で、花壇の手入れはボランティアの人たちがやってるんだって。広場の周りにはベンチと屋台があるんだ。今日はお祭りだからか、以前見かけた時より屋台の数が多いような気がするかな。
「椅子と楽器を持った人が集まってくるな」
「演奏会とかするのかな? もしかして有名な楽団だったりして」
「どう見てもここら辺に住んでる人だろう」
「うーん……。エンダル市民楽団とかそんな名前だったりして」
「かもな」
僕たちが広場の様子を見ながら話してると、親切な人がいろいろ教えてくれた。今準備してる人たちは、このエンダル学園都市で活動している素人楽団なんだって。楽器が好きな人たちが集まって練習して、年に一度発表会とかをしてたそうだよ。それが今ではイベントに呼ばれるくらいにまでなったんだってさ。学園祭の魔法科がやったショーでも演奏してたんだって。この人たちだったんだー!と、改めて思った。
「マシューは楽器の演奏とか出来るの?」
「無理。前世では一通り教育を受けたが、それで判明したのはオレには音楽の才能は無いってことだった」
「へえ~。マシューって料理以外にもダメなものがあったんだね」
マシューの料理の腕は前々世から知ってるからね。あれはあれで一種の才能だと思うよ。どうやったらあそこまで酷くなるのか、本当に不思議なんだ。
「音楽の教師がな、親父に進言したんだよ。『殿下は楽器よりも剣に触れてる時間を増やした方が、より良い結果を生むことになるでしょう』ってな。それから続けて『その方が殿下も私も幸せかと……』だってさ。
親父とおふくろは、溜息をつきながらその教師の申し出を了承してたぞ。でもな、その場にはオレもいたんだよ。おかげでかなり落ち込んだ」
笑いそうになったのを、意思の力で何とか堪えた。せめてマシューがいない場所でやれば良かったのにね。ちょっと可哀想かも。マシューは身体能力が高くリズム感もあるのにね、もしかしたら別の人に習ってたら違ったのかも。まあ今は前世じゃないから、そんなことを考えても仕方ないけど。
「セインの方はどうなんだ?」
「一度も習ったことが無いから分かんないな」
「習いたいと思ったことは?」
「無いなぁ。でも聞くのはキライじゃないよ」
他愛もない話をしてる間に準備が整ったらしく、指揮者の合図で演奏が始まった。お祭りに相応しく、演奏してる音楽は聞いてるだけでウキウキしてくるような明るいものだった。
演奏が始まって直ぐ、広場の隅でそれぞれ寛いでいた人々が三々五々中央の方へ向かい、それから楽しそうに踊り始めたんだ。僕たちに楽団のことを教えてくれた人も、お相手の方と手を取り合って踊りに行ったよ。きっと彼らは、演奏が始まるのを楽しみに待ってたんだろうね。広場にいた人たちのカップル率が高いのはそのせいだったみたい。もちろん男性同士のカップルもいたよ。残念ながらそれは少数だったけど。
「オレたちも踊るか?」
「ヤメとく。今の僕たちはチビだから、踊ってる彼らの目に入らないと思うんだ。だから押されちゃう可能性が高いよ」
楽しそうにクルクル回ったりしてるんだよね。そんなところにチビな僕たちが入ったら、かなり危険だと思うんだ。せっかくのお祭りで転んだりケガしたりとかはイヤだからね、それに見てるだけでも楽しいよ。
「あっちの隅では子供が踊ってるぞ」
「うわあ、かわいいねぇ。お父さんにしがみつきながら、楽しそうにヨチヨチしてる」
二歳くらいの子じゃないかな? すっごく可愛いよ。直ぐ側で見てるのはお母さんだと思う。ああ言うのも良いなって、ほのぼのしながら眺めちゃった。楽しくて幸せになる光景って、きっとこんなのを言うんだろうね。広場に来てみて良かったな。
暫く楽しそうな様子を眺めてから広場を後にして、雑貨とかのお店が多い路地へ移動した。お祭りの日は商品が安くなってたりするそうなんだ。だから良さそうなものがあったら買おうかって話してたんだよ。そんな僕たちの思惑と同じような人が沢山いたらしく、向かった路地は広場以上の賑わいだった。
マシューとふたりでいろんな商品を物色し、値段と予算の間でかなり悩んで、結果大満足な物を買うことが出来た。買ったのは室内履き。とっても暖かそうで、これからの季節に大活躍すること間違い無しってワケ。お店の人もお祭りだからって安くしてくれたおかげで、最初に選んだやつより良いものを買うことが出来たんだ。お祭りってすごいね。来年もお祭りになったら、またこの店に来ようと思ったよ。
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