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1年
ギルド訓練場4
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土魔法が使えるお兄さんの次に行ったミンツさんの試合は、ミンツさんの辛勝だった。どちらも剣だけで戦っていて、最初はほぼ互角、それから徐々にミンツさんが押されてるような展開だった。このままだとミンツさんの負けになるかもと心配したんだけど、最後の最後でミンツさんが魔道具を使用、そして勝ちとなった。魔道具からは炎球が飛び出していって、相手が怯んだ隙に首元に剣を突き付けたってカンジかな。
冒険者同士のこの試合は魔道具の使用を認められてるから、きっとミンツさんは使うタイミングを狙ってたんだと思う。炎球は小さいものだったしスピードも普通だったから、ミンツさんのは牽制を目的とした魔道具なんだろうね。
「ミンツ、てめぇ何で魔道具なんか使うんだ」
「オレたちは『刃の光』だぞ。魔法は無い」
「何で勝つかな。オレはお前の負けに賭けたんだ。くそぉ。」
勝ってニコニコしながら僕たちのところへやって来たミンツさんに、仲間の皆は酷かった。しかもリロイさんなんてミンツさんの負けに賭けてるし……。さすがのミンツさんも少し顔が強張ってたよ。でもリロイさんの賭けはいつも外れるらしいから、これも一種の激励だったのかもしれない。
「ミンツさん、こんにちは」
「お疲れ様でした。おめでとうございます」
「セイン君とマシュー君じゃないか。来てたんだね。うん、ありがとう。君たちのおかげで、落ち込まないで済みそうだよ」
ウチの仲間は薄情だよなぁとボヤきながらも、ミンツさんは僕たちの頭を撫でてくれた。リロイさんたちも口では酷いことを言ってるけど、その顔はミンツさんの勝ちを喜んでるみたいだった。仲間だもんね。
ミンツさんの次の試合は、ひとつ前の土魔法の彼とだった。直前の試合をミンツさんも見てたから落とし穴を警戒してたけど、結局は穴に足を取られて負けちゃった。彼は今度はミンツさんの後ろに穴を開けたんだ。さすがにそれには身体が反応できなくて、尻もちついた時に首元に剣を突き付けられてたよ。
そんな土魔法の彼は、その次の試合では負けちゃった。相手は魔法は使えないけど、勘と反射神経がものすごく良いんだと思う。地面に穴が開いてもしっかり反応できてたんだ。すごいよね。上には上がいるってことだね。
「よーしよし、負けたミンツ君を激励する為、今から特訓するぞー。クラスティ、第五訓練場が空いてたと思うんだ。借りてきてくれないか?」
「うぃーっす」
ある程度試合を見た後、突然リロイさんがそんなことを言い出した。ちょっとビックリだよ。リロイさんとウィードさんはニヤニヤしてて、ミンツさんはものすごく嫌そうな顔をしてる。
「今から特訓するんですか?」
「ミンツを鍛え直すってのもあるけどな、試合を観てるだけだとこう……不完全燃焼になっちゃうんだよ。だからオレたちも身体を動かそうってワケだ。一応ここまでの流れが毎年のオレたちだな。君たちも来るかい? ついでだから少しだけ剣を教えてあげよう」
「良いんですか!」
「良いぞ。お祭り特価で無料だ」
あは。リロイさんの申し出に、マシューがすごく嬉しそうだ。
「セイン君もどうだい?」
「えーっと、僕は見学で……」
「そうなのかい? 無理強いはしないが、上級生になったら魔物の森に行くんだろう? なら少しは剣を扱えるようになっておいた方が良いぞ」
「うーん……」
「セインも一緒にやろうぜ。今から習ったら絶対上達するって」
「うーん……」
結局、マシューの言葉に僕も剣を習うことになった。もちろん2年になったら選択科目で剣の授業はとるつもりでいたけど、才能が無いからリロイさんたちに習うのが申し訳ないと思っちゃったんだ。でもせっかくの善意だしね、僕も受けることにしたよ。
「第四訓練場が空いてた。これが鍵」
「ありがとさん。こいつらも参加することになったから、木剣も借りるぞ」
「へぇ~、練習熱心だねぇ」
「オレたちに扱かれたくて堪らないらしい」
「なんとまあ命知らずな」
チラリと僕たちを見たクラスティさんの目つきに、もしかしたら僕たちは大変なことになるのかもって思った。だってものすごーく含みのある眼差しだったんだよ。マシューも心なしか顔が強張ってたし。
「ねぇマシュー、僕たちちゃんと寮へ戻れるかな?」
「戻れることを祈ろう。いや、今から反省文を書く心構えをしておいた方が良いかも」
「うわあ……」
当たり前だけど、学園の寮は無断外泊禁止だ。門限破りも厳禁。もしやっちゃった場合は先生たちに叱られて、その後に反省文を提出することになってるんだ。しかも下手な反省文だと何度もダメ出しされるんだって。と言うか、深い反省を促す為、最低でも反省文は二回以上は提出させるみたい。もし本当に帰れなかったら、遠慮なくリロイさんたちの名前を出そう。僕はそう決意したよ。たとえ恩を仇で返すことになっても、僕は我が身が可愛いから。
第四訓練場はこじんまりとした訓練場ではあったものの、大人八人くらいが普通に訓練できる程度の広さはあった。隅の方には水場もあって、何と冷蔵庫まで置いてあったんだ。さっきの訓練場に冷蔵庫は見当たらなかったから、きっと有料訓練場のみの特典だろうね。
「最初は素振りだな。ここの木剣は大人用だから少々重いが、まあ何とかなるだろう。素振りはできるだけゆっくりな」
リロイさんの言葉に僕とマシューは素振りを始めた。普段学校で手にする木剣よりかなり重くて、素振りすると腕がプルプルしちゃうんだ。しかもゆっくりだから、かなりキツイ。
「おらおらっ、ミンツ、どうした!」
「ほれっ! クラスティばっか気にしてると痛い目に合うぞ」
「うわっ、ちょっ、ふたりがかりなんて卑怯っす」
「愛の鞭だ」
「じゃあリロイも参加させるか?」
「おっ、何だオレにも加わって欲しいのか。ほらほらっ、オレは後ろからいっちゃうぞー」
「ぅひぃ~」
僕たちが素振りしてる向こうでは、ミンツさんが皆に攻められてたよ。ミンツさん以外の三人が、ものすごく楽しそうなんだ。短い付き合いの中で彼らの笑った顔は見たことあるけど、こんなに楽しそうな顔は初めて見たような気がする。本当に楽しそうだ。
「……すごいな」
素振りをしながら彼らを見たマシューが、ぼそりと呟いた。隣にいるから小さい声でも聞こえるんだよ。
「それは、どう言う意味のスゴイなの?」
「あの三人だ。ミンツさんが反応できるギリギリのところで攻めてるんだ。あれに食らいついていければ、ミンツさんはもっと上達できるってこと」
「つまりリロイさんたちの剣の腕とか、相手の力量を見極める目とかがスゴイってこと?」
「そう言うこと。遊びのように見えて、その実しっかり指導できてるんだよ。あの人たち、かなりのレベルの冒険者だと思うぜ」
偶然だけど、僕たちはスゴイ冒険者さんと知り合ったみたいだ。最初は学園の行事の引率だったけど、次に僕が依頼をした関係で、ちょっとだけ個人的な付き合いになったと思うんだ。剣を教えてもらうのも、きっとその縁だよね? 偶然の出会いに感謝かもしれない。
冒険者同士のこの試合は魔道具の使用を認められてるから、きっとミンツさんは使うタイミングを狙ってたんだと思う。炎球は小さいものだったしスピードも普通だったから、ミンツさんのは牽制を目的とした魔道具なんだろうね。
「ミンツ、てめぇ何で魔道具なんか使うんだ」
「オレたちは『刃の光』だぞ。魔法は無い」
「何で勝つかな。オレはお前の負けに賭けたんだ。くそぉ。」
勝ってニコニコしながら僕たちのところへやって来たミンツさんに、仲間の皆は酷かった。しかもリロイさんなんてミンツさんの負けに賭けてるし……。さすがのミンツさんも少し顔が強張ってたよ。でもリロイさんの賭けはいつも外れるらしいから、これも一種の激励だったのかもしれない。
「ミンツさん、こんにちは」
「お疲れ様でした。おめでとうございます」
「セイン君とマシュー君じゃないか。来てたんだね。うん、ありがとう。君たちのおかげで、落ち込まないで済みそうだよ」
ウチの仲間は薄情だよなぁとボヤきながらも、ミンツさんは僕たちの頭を撫でてくれた。リロイさんたちも口では酷いことを言ってるけど、その顔はミンツさんの勝ちを喜んでるみたいだった。仲間だもんね。
ミンツさんの次の試合は、ひとつ前の土魔法の彼とだった。直前の試合をミンツさんも見てたから落とし穴を警戒してたけど、結局は穴に足を取られて負けちゃった。彼は今度はミンツさんの後ろに穴を開けたんだ。さすがにそれには身体が反応できなくて、尻もちついた時に首元に剣を突き付けられてたよ。
そんな土魔法の彼は、その次の試合では負けちゃった。相手は魔法は使えないけど、勘と反射神経がものすごく良いんだと思う。地面に穴が開いてもしっかり反応できてたんだ。すごいよね。上には上がいるってことだね。
「よーしよし、負けたミンツ君を激励する為、今から特訓するぞー。クラスティ、第五訓練場が空いてたと思うんだ。借りてきてくれないか?」
「うぃーっす」
ある程度試合を見た後、突然リロイさんがそんなことを言い出した。ちょっとビックリだよ。リロイさんとウィードさんはニヤニヤしてて、ミンツさんはものすごく嫌そうな顔をしてる。
「今から特訓するんですか?」
「ミンツを鍛え直すってのもあるけどな、試合を観てるだけだとこう……不完全燃焼になっちゃうんだよ。だからオレたちも身体を動かそうってワケだ。一応ここまでの流れが毎年のオレたちだな。君たちも来るかい? ついでだから少しだけ剣を教えてあげよう」
「良いんですか!」
「良いぞ。お祭り特価で無料だ」
あは。リロイさんの申し出に、マシューがすごく嬉しそうだ。
「セイン君もどうだい?」
「えーっと、僕は見学で……」
「そうなのかい? 無理強いはしないが、上級生になったら魔物の森に行くんだろう? なら少しは剣を扱えるようになっておいた方が良いぞ」
「うーん……」
「セインも一緒にやろうぜ。今から習ったら絶対上達するって」
「うーん……」
結局、マシューの言葉に僕も剣を習うことになった。もちろん2年になったら選択科目で剣の授業はとるつもりでいたけど、才能が無いからリロイさんたちに習うのが申し訳ないと思っちゃったんだ。でもせっかくの善意だしね、僕も受けることにしたよ。
「第四訓練場が空いてた。これが鍵」
「ありがとさん。こいつらも参加することになったから、木剣も借りるぞ」
「へぇ~、練習熱心だねぇ」
「オレたちに扱かれたくて堪らないらしい」
「なんとまあ命知らずな」
チラリと僕たちを見たクラスティさんの目つきに、もしかしたら僕たちは大変なことになるのかもって思った。だってものすごーく含みのある眼差しだったんだよ。マシューも心なしか顔が強張ってたし。
「ねぇマシュー、僕たちちゃんと寮へ戻れるかな?」
「戻れることを祈ろう。いや、今から反省文を書く心構えをしておいた方が良いかも」
「うわあ……」
当たり前だけど、学園の寮は無断外泊禁止だ。門限破りも厳禁。もしやっちゃった場合は先生たちに叱られて、その後に反省文を提出することになってるんだ。しかも下手な反省文だと何度もダメ出しされるんだって。と言うか、深い反省を促す為、最低でも反省文は二回以上は提出させるみたい。もし本当に帰れなかったら、遠慮なくリロイさんたちの名前を出そう。僕はそう決意したよ。たとえ恩を仇で返すことになっても、僕は我が身が可愛いから。
第四訓練場はこじんまりとした訓練場ではあったものの、大人八人くらいが普通に訓練できる程度の広さはあった。隅の方には水場もあって、何と冷蔵庫まで置いてあったんだ。さっきの訓練場に冷蔵庫は見当たらなかったから、きっと有料訓練場のみの特典だろうね。
「最初は素振りだな。ここの木剣は大人用だから少々重いが、まあ何とかなるだろう。素振りはできるだけゆっくりな」
リロイさんの言葉に僕とマシューは素振りを始めた。普段学校で手にする木剣よりかなり重くて、素振りすると腕がプルプルしちゃうんだ。しかもゆっくりだから、かなりキツイ。
「おらおらっ、ミンツ、どうした!」
「ほれっ! クラスティばっか気にしてると痛い目に合うぞ」
「うわっ、ちょっ、ふたりがかりなんて卑怯っす」
「愛の鞭だ」
「じゃあリロイも参加させるか?」
「おっ、何だオレにも加わって欲しいのか。ほらほらっ、オレは後ろからいっちゃうぞー」
「ぅひぃ~」
僕たちが素振りしてる向こうでは、ミンツさんが皆に攻められてたよ。ミンツさん以外の三人が、ものすごく楽しそうなんだ。短い付き合いの中で彼らの笑った顔は見たことあるけど、こんなに楽しそうな顔は初めて見たような気がする。本当に楽しそうだ。
「……すごいな」
素振りをしながら彼らを見たマシューが、ぼそりと呟いた。隣にいるから小さい声でも聞こえるんだよ。
「それは、どう言う意味のスゴイなの?」
「あの三人だ。ミンツさんが反応できるギリギリのところで攻めてるんだ。あれに食らいついていければ、ミンツさんはもっと上達できるってこと」
「つまりリロイさんたちの剣の腕とか、相手の力量を見極める目とかがスゴイってこと?」
「そう言うこと。遊びのように見えて、その実しっかり指導できてるんだよ。あの人たち、かなりのレベルの冒険者だと思うぜ」
偶然だけど、僕たちはスゴイ冒険者さんと知り合ったみたいだ。最初は学園の行事の引率だったけど、次に僕が依頼をした関係で、ちょっとだけ個人的な付き合いになったと思うんだ。剣を教えてもらうのも、きっとその縁だよね? 偶然の出会いに感謝かもしれない。
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