目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

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1年

モーグ狩りへ行こう4

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 あたりが薄暗くなった頃、ようやっと野営場所へ到着した。と言うよりも、薄暗くなり始めたのでこれ以上進むのを諦めたってのが正解かな。特に目的地があるわけじゃないしね。目的はモーグだし。

「まあ、何とかギリギリか。モーグはこの辺りから奥の方でよく狩られるんだ」
「へぇ~。モーグってそんなに奥にいるんだ」
「何だ、知らなかったのか?」
「もっと森の浅い場所にも出没すると思ってた」
「さすがにそれは無いなぁ。オレたちも、本来ならこんな浅い場所でモーグを狩れるとは思って無いぞ」
「でも狩る気満々じゃん」
「セイン君がいるからな。もしかしたら……と思ったワケだ」
「二泊するから、どっちかで狩れると思うぜ。保障する」
「根拠の無い保障だなぁ。まったく、生意気なガキだぜ」
「そのガキの口車に乗せられてここまで来たんだからな。まったく、単純なおっさんだぜ」
「ぐっ……」

 リロイさんとマシューの会話が、なかなか凄いことになってるような……。

「おらおら。しゃべってないで野営の準備するぞ」
「僕、野草採ってきたいな。向こうの方に行って来ても良い?」
「じゃあ、オレが付いてってやろう」
「ありがとうございます」

 野営の準備と言っても大したことは無いんだ。火をおこして、あとは小石をどけるくらいかな。寝袋の下に小石があると寝心地が悪いから、野営場所では必ずやることだ。たまに魔石を見つけることもあったよ。たぶん今回も真剣に下を見ながら歩いたら、数個くらいは魔石を見つけることができたるかも。

「な~んて考えてたら、魔石発見!」
「お、結構大きいな。ギルドに出したら良い値で引き取ってくれるぞ」
「やりませんよ。大きい魔石は何個あっても困りませんから」

 クラスティさんがニヤニヤしてたので慌てて魔石を隠したら、大きな声で笑われてしまった。いいじゃないか、魔導師には魔石は必要な便利アイテムなんだから。魔力を溜めておけるし陣も刻める。それに、マシューへのお仕置きアイテムも魔石だし。

「そう言えば、クラスティさんは好き嫌いとかありますか?」
「うーん……。不味いものはあまり好きじゃないが、冒険者なんかやってたら不味くても食べるからなぁ」
「誰でも不味いものは好きじゃないと思いますよ」
「そうか? 冒険者って味オンチが多いんだぜ。と言うか、徐々に味覚がおかしくなってくるんだ」
「そうなんですか?」
「ダンジョン内で食えるものなんて、たかが知れてるからな。あんな状況にいると、普段は不味くて食べたくない携帯食がごちそうに感じるんだ。で、そんなのが続くとだんだん麻痺してくる」
「うわあ。僕も将来そうなっちゃうのかなぁ」
「なるんじゃないか? まあ、なった方が幸せかもしれないぞ」

 そんな会話をしつつも僕の目は野草を探し、手にはしっかりと見つけた野草を握っている。ついでに良いものを見つけたので、是非そっちも今夜のメニューに使おうと思う。
 実は今夜の食事は僕が作るって申し出てあるんだ。今の冒険者って野営時に料理なんかせず、携帯食のみで済ます人がほとんどなんだって。料理する場合でも、スープ用の携帯食を使って即完成ってカンジみたい。水と一緒に鍋に入れて煮込んだら、美味しいスープになるらしいよ。具は乾燥した肉と豆なんかを一つに固めてあって、二、三種類くらいしか無いんだ。一番高額なのには粉末にしたハーブが加えられてるって聞いてる。便利だと思うけど、具や味のバリエーションが少ないのが残念だよね。野草を加えれば、簡単にいろんな味付けが出来るのにさ。

「セイン君、こんなカンジで良いかな?」
「完璧です! ありがとうございます」
「以前作ってくれたスープは美味かったからな。期待してるよ」
「はーい」

 野営地に戻ると、焚火とその周りの準備も終わっていた。焚火の脇も雑草を抜いておいてもらったんだ。六人もいるから鍋一個じゃ足りないからね、焚火の脇に保温スペースを作るんだよ。と言っても土魔法で鍋置き台を作って、その下に小ぶりな炎球を置くだけだ。

「セイン、スープにキノコは禁止だからな。絶対やるなよ」
「えー、分かってるよぉ。ほらっ、キノコなんて入ってないでしょ?」
「……入ってはなさそうだな」
「入れるワケないじゃん」

 僕がスープを作り始めた途端、マシューが近づいてきた。マシューは前世の経験が強く記憶に残ってるせいか、じっくりとスープの具を確認してるよ。スープにキノコって美味しいよね。味に深みが増すから僕は大好きなんだけど、まあ仕方ない。スープには入れないよ、スープには。

「そんなに真剣に見られると、僕としては作り難いんだけど」
「絶対キノコは入れないよな?」
「絶対入れないから信用して? スープには入れません!」
「……よし」

 尚も僕の作業をじっくりと見て、そこにキノコが無いことを確認して、ようやく僕は放免された。まったくさぁ、僕の言葉を信じて欲しいな。

「セイン君、マシュー君てキノコが嫌いなのかい?」
「特定のキノコを拒否するだけです。嫌いでは無いはずですが……」
「ふうん。セイン君はキノコは詳しいんだよね? 前もかなり珍しいキノコを見つけてたし」
「詳しいですよ。自慢できるくらい詳しいです」
「そっか……。ちなみに、このキノコは大丈夫だよね?」
「これはとっても美味しいキノコなので、楽しみにしててください」

 にっこりした僕を見たウィードさんは、とりあえずは安心したみたいだった。スープにキノコは入れないけど、キノコを食べないとは言ってないよ、僕は。だってこのキノコはとっても美味しいんだもの。スープじゃなくても食べ方はあるしね。一応マシュー対策として、キノコは細かく刻んて使う予定だ。
 今夜のメニューは具沢山のスープと薄パンだよ。スープはリロイさんたちがお腹いっぱいになるように、鍋二つでたっぷり作った。と言っても持ってきた鍋は小ぶりだから、二つ作らないと足りないんだ。薄パンは、上に野草と餡を乗っけて巻いて食べるんだ。餡は三つ目の鍋で作ったよ。ダダンの乾燥肉とキノコ、それから加熱してもシャキシャキした歯ごたえのある野草なんかを使ってね。ちょっと濃いめの味付けで、薄パンで包んで食べたら美味しいと思うんだ。こう言う料理は今世では初めてだけど、しっかり覚えてるもんだね。

「完成しましたー」

 僕がそう言うと、全員が集まって来た。マシューはリロイさんに素振りの確認をしてもらってたみたい。重心のかけ方とか、微妙なところをチェックしてもらってたようだよ。ウィードさん、クラスティさん、ミンツさんは、雑談しつつ明日の予定を話し合ってたみたいだ。何の問題もなければ、明日もここで野営する予定なんだ。そう言えば、明日は何するんだろう?

「二品も作ったのか。すごいな」
「こんな場所で短時間で作ったにしては豪勢だな。女だったら将来良い嫁になれるぞ」
「今は男の嫁も珍しくないぜ」
「大丈夫だ。セインの嫁ぎ先はもう決まってるから」

 最後のセリフはマシューだ。リロイさんたちの視線が生暖かい。やっぱり僕たちのことは、バレてるっぽい。

「食べますよ。と言うか、食べてください」

 そう言いながら僕は顔を伏せ、スープに口をつけた。

 僕が作った晩ごはんは概ね好評だった。と言うか、まだ食べてる最中だ。薄パンに合わせた餡も気に入ったらしく、二枚目は全員結構な量をパンに乗せてたよ。気に入ってもらえて僕も満足だ。

 そろそろ皆が食べ終わる頃なので、僕はリュックから陣が刻まれた魔石を取り出して結界を起動させた。

「あれっ、まだ結界は早いぞ」
「今くらいで丁度良いと思います。万が一魔物が現れたら、焚火があっても危ないですから」
「セイン君は意外と怖がりなのかい? ここら辺は魔物が出ても、オレたちなら直ぐ対処できるレベルだ」
「あー……、普段はそうでしょう、ね。でも今は結界があった方が、全員安心だと思う、かな?」

 そう言った途端、薄パンを食べてたマシューが僕の方を見た。

「セイン……、なあ、確認したいんだが……な。もしかしてこの薄パンと一緒に食べてるやつ、……入ってるのか?」
「ふふっ。もちろん入ってるよ。ダダンの肉だけじゃ、ここまで美味しくできないもん」
「げっ! どこに隠してたんだよー。オレは入れるなって言ったじゃんか」
「入れてないよ。スープには、ね」

 ガックリとするマシュー。そんな僕らを、ポカンとした顔で見てるリロイさんたち。まあ不思議に思うのは仕方ないよね。

「あー、全員覚悟しろよ。セインがパンの具に入れたのは、痺れ茸だからな。死にはしないが全身痺れる」
「大丈夫大丈夫。痺れるって言っても、そんなに辛くないから。それにこのキノコは一度痺れたら免疫が出来るんです。次からは何の問題も無く、美味しいキノコを堪能できますよ。それと、寝る前には痺れも無くなるはずだから、夜はぐっすり眠れます」

 その後全員からたっぷりお叱りの言葉と、マシューから頭に拳骨を貰ったけど、僕は後悔も反省もしてないよ。野営では是非食べておきたかったんだ。痺れ茸は僕の大好物だし、この場所はそんなに危なくないから、今がチャンスだったってワケ。僕だって時と場所は弁えてるよ。

 痺れは二時間位かな。僕とマシューは前世で経験があるから静かに座ってたけど、リロイさんたちは悲壮な顔をしてた。全身がチクチクする程度だから、そんなに大変じゃないハズなんだけどね。変なの。




※※※
セインと野営と言ったら、痺れだけは外せないアイテムです。
薄パンのはトルティーヤをイメージしていただければ。食べ方としては、ブリート(ブリトー)をイメージすれば分かりやすいと思います。
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