目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

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1年

モーグ狩りへ行こう7

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 そんなワケで、少々遅めの朝食後のお茶の時間。今日の朝食は、携帯食を使った簡単スープだ。これは前世でアルさんに教えてもらったやつのアレンジだよ。当時に比べると今の携帯食の方が断然美味しいからね、スープにしてもやっぱり美味しく出来た。ついでに昨日の食べ残しの餡も入れたけど、誰も何も言わなかったし痺れた人もいなかった。僕も何も言わなかったから、気付いた人はいないだろうな。それとも、今後のために教えておくべきだったかなぁ。

 モーグは血抜きと解体が済んだ時点で凍らせたよ。聞いてみたら、モーグを狩りに来る人は凍らす為の魔道具を持つのが普通なんだって。リロイさんたちもちゃっかり借りてきてたので、今回はそれを使わせてもらった。
 その後は後始末と言うことで、解体後の残りに雷魔法を撃ち込んで、それから回復魔法で『浄化』しておいた。モーグも魔物だからね。魔物の血が流れた場所は、やっぱり『浄化』しておいた方が良いと思ったんだ。リロイさんたちは、またまた口をあんぐりと開けながら見てたよ。驚き過ぎ。さすがにそろそろ慣れて欲しいな。

「まだ午前中だけどさぁ……、すっげぇ疲れた」
「だよな。精神的な疲れだけどさ、ぐったりだ」
「あー、オレも同じ」
「オレも……」

 マシューは、と見ると、リロイさんたちを呆れた目で見てた。気持ちは分かるけど、とりあえず今は抑えようよ。彼らだって全てが初めての経験なんだからさ。そう思いながら、そっとマシューの手を握ったら、苦笑いと共に表情を隠してくれた。

「それで、これからどうする? 野営場所は変更しないんだろう?」
「これ以上奥へ行ったら、明日中に森を出れなくなるしな。場所を移動するつもりは無い」
「なら僕、薬草摘みがしたいな。ついでに魔石も探したいし」
「帰るのは明日だから、今日摘んでも萎れちまうぞ。状態が悪すぎると、ギルドでも拒否される」
「それは大丈夫です。ちゃんと保存の魔法をかけるから」
「えっ、そんなのがあるのか?」
「あれー、伝わってないのかなぁ……」
「セイン、おっさんたちは魔法が使えないから、知らないのは変じゃないぞ」
「あ、そっか。摘んだ薬草の状態を保つ魔法があるんです。だから大丈夫」

 保存の魔法は二種類あるんだ。簡単なのは『浄化』と結界の組み合わせ。パンなんかも数日は美味しいままで保存できるんだ。でもこれは短期的なもので、長期に渡って保存したい場合は古代魔法を利用するんだよ。お城や魔術塔には古代魔法で昔の書物を保存してる部屋があるんだ。これは前世の話だけど、きっと今もそのままだと思う。と言うことで、明日まで保存するなら簡単な方だね。薬草も高額で引き取ってくれるやつしか採取しないつもりだから、保存もそんなに手間じゃないよ。むしろ、薬草を探す方が手間だ。

 でも結局、薬草採取は却下になっちゃった。せっかく魔物の森に来たんだから、魔物を探そう……だって。リロイさんたちがモーグの次に楽しみにしてたらしいんだ。彼らは学園の契約冒険者グループで、生徒の付き添いでダンジョンに入ってるんだ。そこで魔物に遭遇するのはよくあるけど、基本的に倒すのは生徒で、リロイさんたちは本当に危険になったときのみサポートするくらいなんだと。普段はそれで良いけど、せっかく仕事以外で魔物の森に入るなら、自分たちも魔物を倒したいんだってさ。つまり、サポートばかりで欲求不満になっちゃったってことだね。

「子供かよ」
「男ってのは大人になってもそんなもんだ。マシューも大人になったら分かる」
「多少は分かるけどな。だからと言って、目をキラキラさせて言われてもなぁ。気持ち悪いだけだぜ」
「ぐっ……」
「じゃあ行くならとっとと行こうぜ。ここに引き返してくる時間も必要なんだし」
「そ、そうだな。……てか、なんでおまえが仕切ってんだよ」
「おっさんが不甲斐ないから? まあいいじゃないか」
「良く無いわいっ!」

 マシューとリロイさんて精神年齢が一緒なのかな? それもそうだけど、リロイさんを相手にするときのマシューが、すっごい毒舌なような気がする。でも目は楽しそうなんだよね。

「とりあえずアホ共はほっといて、先に行こうか」
「良いんですか?」
「良いんじゃね」
「そうそう。行くよー」

 優しい?僕たちは、マシューとリロイさんをその場に残して移動していった。楽しそうだからね、思う存分じゃれ合ってくださいって配慮だよ。

「ここらへんて、魔物はいるんですか?」
「ほとんどいない。でも全くいないワケじゃないよ。運が良かったらってカンジかなぁ……。できれば遭遇したいね。実戦兼ねて日頃の鬱憤をさぁ……」
「ここ最近は微妙なグループを担当することが多かったですからねぇ。見てるだけって、やっぱストレスだわ」
「そうなんですか?」
「そうそう。もどかしいと言うかさ。学生だから経験も浅いし、グループだって長くても三年くらいだからね、連携とか甘いんだわ」
「そうじゃねぇだろ!って思うこともしばしば。でも指摘しちゃいかんの。アドバイスや感想を求められた場合のみ、オレたちは言うことができるんだわ」

 それもそうかと思った。彼らは僕やマシューに付き合って遊んでくれたりするけれど、実際はベテラン冒険者なんだよね。学園の契約冒険者になる前は生活の糧として冒険者稼業をずっとやってたワケだから、仕事中は常に危険と背中合わせだったんじゃないかと思う。学生の付き添いも安全ってワケじゃないけど、きっと危険の度合いが違うんだろうね。
 グループ内の連携については、僕もマシューも見ててもどかしく思うのかもしれない。目だけは肥えてるからね。じゃあお前がやってみろって言われると困るけど、いつか、前世と同じくらいのレベルになりたいな。

「本当に魔物を倒したいのなら、僕が探してきましょうか?」
「探す? またまたぁ~。いくらセイン君だって、そんなこと出来るワケ……出来るのか?」

 僕の申し出にクラスティさんが食いついてきた。信じられないけど、いろいろ見たからあり得るかもって思ったみたい。

「僕ひとりなら、広範囲で探せますよ」
「それって、もしかして魔法で?」
「さすがにそれはムリ。だから実際に広範囲を移動しながら探します」
「いくらオレたちでも、移動範囲には限度があるぞ」
「そうですね。……うん。じゃあ、実際に探してきますね。クラスティさんたちは、方向を変えずに真っ直ぐ進んできてください」
「えっ、ちょっ、セイン君!」

 説明するのも面倒だし僕もちょっと動きたかったから、そのまま風魔法を使って木の枝に飛び乗った。あとは木の枝から木の枝へ、風魔法を上手くコントロールして移動するだけだ。今世では初めてでドキドキものだけど、出来る!って気持ちでやればきっと出来るハズ。
 そう言えば、マシューとリロイさんはまだ合流してなかったね。あの場にマシューがいたら絶対反対されてたんだろうな。もしかしたら戻ったときに怒られるかも。大丈夫だと言っても、すっごく心配しちゃうんだよね。頭で分かってても、心配するのはやめられないんだって。

「うはっ! 落ちるかと思った~。まだまだ制御が甘いなぁ」

 何でもそうだけど、慣れたと思った頃が一番危ないよね。問題無く移動出来てたから、少し気を抜いてたみたいだ。ちょっとだけ制御が甘くなって、ギリギリ次の枝に届かないくらいの移動になっちゃったんだ。慌てて手を伸ばして事なきを得たけど、その代わり手のひらを擦りむいちゃった。もちろんこれは回復魔法で証拠隠滅だよ。マシューにバレたらお説教コースだ。

 そんなカンジで移動してったら、ようやく魔物発見! ぎりぎり中型と言えるサイズのが数体、同じ方向に移動してる。と言うことは、あの向こうには魔素溜まりがあるってことだ。魔素溜まりがら生まれたばかりの魔物は、全て同じ方向に移動していく習性があるんだよ。ある程度移動した後は違うっぽいけどね。そこから考えると、まだ生まれて間もないんじゃないかと思うな。昨日より前ではないと思う。

 どうしようか?
 リロイさんたちをここまで案内するのが良いんだろうか? でもきっと僕たちが到着した頃には、魔物はいなくなってると思う。だとしたら、やっぱり……。

「これしかないよねぇ」

 そう言いながら僕は、魔物の目の前に降り立った。




※※※
基本的に魔物は一体、二体と数えます。が、モーグだけは例外で、一頭、二頭と数えます。
この数え方は前作を踏襲しています。
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