目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

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1年

モーグ狩りへ行こう8

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 魔物は人間を見たら問答無用で襲ってくる。それは今も昔も変わらない。地面に降りた僕を見た途端にやつらは突進してきた。全部で五体。かなり早い速度で向かってこられたから、すっごく怖い。慌てて風魔法で距離を取り、水平に浮かべたシールドの上に逃げた。魔物たちには僕が見えてるけど、飛び跳ねても届かない高さだ。
 その後また風魔法で離れた位置に移動して、空中に浮かべたシールドに乗る。魔物の意識が僕以外に向かないように気を付けながら誘導していった。そうしないと、僕が見えなくなった途端に意識が他に向いちゃうからね。今やってることが無駄にならないように、そこだけは気を付けた。

「マシューの拳骨確定だなぁ……」

 シールドの上で、思わずボヤいてしまった。
 そもそも魔物とは見つけ次第殲滅するが当たり前で、唯一の例外が魔物の森だ。と言っても、遭遇してしまったらやっぱり殲滅だよ。なのに僕は魔物を誘導して、リロイさんたちの方へ向かわせてる。これって本当は拙いんじゃないのかな?
 とは言ってもこれらを僕一人で殲滅したら、きっとリロイさんたちはスネると思うんだ。ついでにマシューはものすごく怒ると思う。だとしたら、やっぱりこのまま連れてった方が良いよね?

「あー、もう考えるのはヤメよう」

 ここまで来たんだから、やるしかないよね。と言うことで先ほどと同じことを繰り返し、リロイさんたちのいる方へ。そろそろ合流できるハズ。

「いた!」

 木があるせいでちょっと見えにくいけど、遠くの方にリロイさんたちが見えた。彼らも気配を感じたらしく、既に全員剣を手に臨戦態勢だ。

「魔物を連れてきましたー! マシュー、両手を上げて!」

 風魔法でリロイさんたちに近付きながら叫び、それから、両手を上げたマシューにしがみ付いた状態で大きく移動した。離れた位置に到着したと同時に結界を展開。これで僕とマシューは安全だ。魔物は希望通りリロイさんたちが倒してくれるだろう。

「あの魔物は?」
「かなり離れたところで見つけたの」
「魔素溜まりは?」
「それよりもっと向こうだと思う。少なくとも、僕が魔物を見付けた場所の近くではないよ」
「ふうん……」
「イタッ!」
「何か言うことは?」
「うー、危ないことしてごめんなさい」

 魔物相手に戦ってるリロイさんたちのそばの結界の中で、僕はマシューにがっつりとお説教されてしまった。皆から離れてひとりで魔物を探しに行ったのもダメだし、魔物を引連れて戻ってきたのも尚悪い。特に後者はものすごく危険なことで、下手したら僕自身が魔物に襲われちゃうからね。そしてそれを分かっててやったことが、いっそうマシューを怒らせることになったんだ。危ないと分かっててやるのはどうなんだって……。何ひとつ反論できず黙って聞いてたよ。そのうちに魔物の一体が結界に張り付いたけど、そんなものは無視だ。他を倒したリロイさんたちが何とかしてくれるだろう。

「しかし本当にセインはなぁ……。魔物を引連れてるときに他の冒険者がいたらどうしたんだ? 下手したらそいつらが襲われる可能性もあったんだぜ」
「うん、そうだね。ごめんなさい」
「おっさんたちだって、魔物が見つからなかったら見つからなかったでいいかって思ってたんだぜ。つか、あいつら楽しそうだな」
「ダンジョンの引率で、かなりストレスが溜まってたらしいよ。さっき聞いたの」
「嗚呼、それはオレも聞いた」
「気持ちは分かると思った」
「そうだな。だからと言って、セインの行動は肯定しないぞ」
「ごめんなさい」
「じゃあ、おっさんたちが魔物を片付け終わるまで、セインは正座してようか」
「……ハイ」

 拳骨だけじゃなく、正座もさせられちゃった。正座は脚が痺れるからイヤなんだ。しかも、回復魔法禁止って言われるんだよ。きっと今回もそうだろうなぁ……。
 リロイさんたちは最初は各自一体ずつ対峙してたけど、今は先に倒した人がまだの人をサポートし始めた。やっぱり一番苦戦してるのがミンツさんだった。結界に張り付いてた魔物は、クラスティさんにあっさり倒されてたよ。

「終わったようだな。魔物の始末ははどうする?」
「一か所に纏めてもらってからかな。まだまだ余裕そうだから、大丈夫でしょう」
「そっか」
「……マシュー?」
「あー、仕方ないな。回復魔法を許可してやる」
「えへへ」

 脚が痺れて動けなかったんだ。許可してくれて助かった。

 その後は魔物を一か所に集めてもらい、モーグの時同様、雷魔法『浄化』の順で後始末をした。魔物の森では『浄化』しない場合も多いみたいだけど、僕がいるならやらないってことはあり得ない。魔物を倒したら必ず『浄化』だ。これは僕の中では徹底されてて、きっとマシューも同じ考えだと思う。

「まさか本当に魔物を見つけてくるとはなぁ」
「と言うか、連れてきたもんな」
「さすがに……。モーグの件以上に肝が冷えたぜ」
「セイン君の行動は予想がつかないな。マシュー以上に怖いわ」
「えー」
「言っとくが、全てセインの善意だからな。こいつは善意の方向とかいろいろズレることがあるから、気を付けろよ」
「嗚呼。全くもってその通りだ」
「激しく同意」
「ヒドイよ、マシュー。それって僕が変な人みたいじゃん」
「安心しろ。オレがいるから何とかなる」

 頭を撫でられると何も言えなくなるのは何故だろう? マシューの言葉は全然褒め言葉じゃないのにさ。でも結局丸め込まれちゃうんだ。

 その後は野営地に戻って晩ごはん。今日は僕じゃなくウィードさんが作ってくれた。味は……贅沢言わなければ問題無いよ。ただし何日も野営しなきゃいけない場合は、僕としては遠慮したいと思った。と言うか、感想聞かれて素直に口に出したら、ウィードさんに落ち込まれてしまった。おかげで僕は、今日二回目の拳骨をマシューがら貰ってしまったし。口は災いの元だね。

 モーグについては残念ながら翌日は来て無かった。上手く行けば二頭持ち帰れるかと思ったけど、さすがにそれはムリだったみたい。それでも一頭は狩ることが出来たから、僕たちがモーグのステーキを堪能できるのは確定だ。嬉しいね。想像するだけで、涎が落ちそう。

「ギルドでの換金とかは、オレたちでやっておく。もちろん一番美味い部位は出さないから安心しろよ。一応行きつけの店で焼いてもらうつもりだ。話はつけとく」
「分かりました」
「で、焼いてもらうのは明日で良いか? 明日までならオレたちもガマンして待てる」
「あは。分かりました。じゃあ、明日は美味しいモーグを食べましょう」
「おう。楽しみにしとけよー」

 リロイさんたちとは、魔物の森の入り口で解散だ。モーグの肉は、取り分けた分を除いてギルドに引き取ってもらうんだって。あれ一頭でかなりの金額になるらしく、六人で割ってもホクホクできるって言ってたよ。取り分けてもらった肉は、僕たちが食べる分と焼いてくれる店への謝礼分だそうだ。

「明日かぁ。楽しみだな」
「うん!」

 寮へと向かいながら、僕もマシューも明日食べるモーグのステーキを想像して、頬が緩んでたと思う。
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