ゴムよりだるいその距離で

信長三世

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ゴムよりだるい距離の向こうで

ゴムよりだるい距離の向こうで

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第三章 ゴムよりだるい距離の向こうで

画面越しに見るこむぎこの顔は、どこか遠く、そしてやけに近い。
「きりんさんさ、あのとき…私のこと、ほんとに“彼女”だと思ってた?」
冗談とも本気ともつかない問いかけに、きりんざむらいはしばらく黙った。

深夜、モノログのDMを通して再びやりとりを始めてから、二人の関係は微妙な位置に収まっていた。ペットとご主人様。恋人と元恋人。画面越しのセックスパートナー。そのどれでもあり、どれでもない。

「お前が泣いたときに、そう思ったよ。守らなきゃって思った」

返した自分の言葉が、滑稽に響く。でもそれが、あの瞬間の本音だった。ひらがなとのあれこれ、ふぁねるとるぴぴんの嘘、それに振り回されたこむぎこを見て、守りたいと思った。

でも、今のこむぎこは違う。守られたいだけの存在じゃない。

「じゃ、今は?」

「今は…距離を保って、ただお前のことを知りたいと思ってる」
「ふーん…」

いつものように気のないふり。でも声のトーンが一段落ちたのは、気づいた。

モノログで晒され、ユダを探し、疑心暗鬼になって、グループをLINEに移して。
そんな日々の中でも、二人の関係だけはなぜか残り続けた。ぬるくて、だるくて、でもやめられない。
“距離”の正体は、おそらくそこにある。

こむぎこが言う。「きりんさん、今日さ…ひとりで寝たくない」
その言葉はまるで、旧式の携帯で届く留守電のようだった。少しかすれて、どこか真に迫る。

「じゃあ、声だけでもつないどこうか」
「うん……ていうか、きりんさんさ、たまに甘やかしてくれるじゃん?あれ、ズルい」
「お前が、甘えてくるからだろ」

ささやかな、でも確かに温かいやりとりが、夜をまたぐ。

そのあと、言葉は次第に少なくなった。
ただ、こむぎこの吐息と、浅く切るような声が、マイク越しに伝わる。
ほんの短い、ため息のような喘ぎが、息継ぎのように流れ込む。
「ん……んっ……、は……ぁ……」

それを聞きながら、きりんざむらいは何も言わなかった。
画面の向こうにいるこむぎこを思い浮かべながら、心のどこかが空洞になるのを感じていた。
快楽の先に、どうしようもない孤独があることを、どちらも知っていた。

「きりんさん……もう、だめ……」
「いいよ、ゆっくり……泣いてもいい」
「んっ……ぅ……バカ、なんでそんな優しいの……」

そのとき、こむぎこの涙声が混ざった。「ゴムより、だるいね」
それが何を意味していたのかはわからない。でもたぶん、お互いにとって“やめられない”関係の重みとだるさ、そして愛しさが、すべて詰まっていた。



画面が切れたあとも、きりんざむらいはしばらく動けなかった。
「終わらせない」のではなく、「終わらせられない」のだ。

この距離感が、二人の「今」であり、「いつか」の形かもしれない。



(完)
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