4種族9人の主人公の運命が絡み合い、凍える大陸を目覚めさせる!王道ファンタジー『オルダニアの春』

武濤大洋@鴻鵠ブラザーズ

文字の大きさ
56 / 60
第4章 オルダニアの春

第13話 再会

しおりを挟む
 一瞬にして覚醒した四人は、互いに背を預けて一つに固まった。
 どのくらい眠ってしまったのだろうか。そして目の前にいる、馬上の連中は何者なのか。

 フードの奥の顔は見えないが、いきなり襲いかかってこないということは、盗賊ではないようだ。話し合いの余地がある。そう思ったウォルターは、思い切って粉をかけた。

「あ、あなた方は、どなたですか?」

 自分らを囲んだ相手に言うには丁寧すぎるが、向こうもそれで警戒を解いたようだった。
 先頭の男が雪に紛れるほど真っ白な馬から降りると、スッとフードに手をかけ、それを外した。

 スラリと高い背、寒風になびく黄金の髪、透き通るアイスグリーンの瞳、先のとんがった三角形の耳。

「エ、エルフ!」

 アーノルドとルートが同時に声を上げた。

「いかにも」
と、返事をした男の声は、白樺のように凛として、張り上げたわけでもないのに、雪原の向こうにまで届きそうだった。
「私はイシリベール。『白鷹の森』の奥に棲まうエルフ族の代表として、そこにおられるヒルドリア女王をお迎えに上がりました」

「ヒルドリア?」
「女王?」
 四人の声が二つに分かれた。

「それが、私の名前……?」

 目の前で起きていることが現実に思えない。ヒルダはただ目を丸くして、イシリベールの顔を見ていた。
 よく見れば、どうしようもなく懐かしい気がしてくる。
 視線を感じて、彼は微笑んだ。

「よくぞ人間族の世界からお戻りになられた。詳しい話は私の兄、あなたの父上からお聞きになるがよい。さあ、エルフの古き友、ギアルヌの青年たちよ。あなた方も馬へ乗って。ロバ殿も。我々はあなた方を歓迎します」

 四人ともいきなり殴られたかのような衝撃に混乱しながら、エルフの集団に導かれて雪原を渡った。

 距離の計れなかった雪原も、彼らの馬なら一跨ぎのようだった。そして森の中は木々に守られて、心なしか暖かいような気がした。下生えも、霜に覆われてはいない。

「しかしここも、今にも冬に侵略されようとしていました」
と、こちらの心を読んだのか、イシリベールが言った。

「それというのも、我が兄、イシオルドの具合が芳しくなく」
「父が?」

 思わず口を挟んでしまったヒルダに、叔父は悲しげな顔を向けた。

 深い森の切れ目から眩い光が差し込んできた。一瞬目が眩んだ後に彼らが見たものは、まるで桃源郷だった。
 象牙の塔のように白く輝く屋敷が、優美な曲線を作りながら連なり、その背後には滝が落ちていた。行く手の道には北の果てとは思えない七色の花が咲き乱れ、木々が生い茂る。暖かい空気に、馬上のエルフたちはフードを外し、ウォルターたちも外套を脱いだ。

 さっそく屋敷に案内されると、待っていたのは大広間での手厚い歓待だった。アルベールとルートは飛びついたが、ヒルダはイシリベールに呼ばれ、父の待つ執務室を訪ねることになった。

「ウォルター……」
と、不安げに振り返ると、ウォルターはイシリベールを見上げ、彼は許可を与えるように一つ頷いた。

 回廊は明るく、流れ落ちる清涼な滝の様子が見えた。流れ落ちる水が虹を作り、ついさっきまで雪原を渡ってきたことを忘れさせる。深い森の奥だというのに、どうしてこんなに光が溢れているのだろう。

「春だ……」
と、ウォルターが呟くのを、イシリベールが優しく微笑んで返した。

 案内された先も大きな飾り窓から柔らかい明かりがいっぱいに取り込まれていた。一枚岩の縦長の机に揃いの椅子が設えてあり、その奥に、少し離れて一際立派な装飾が施された、背もたれの縦に長い椅子が置かれ、彼は、そこにいた。

 ちょうど椅子の後ろにも窓があって、まるで後光がさすように設計されている。しかしそのため部屋に入った時には逆光で、顔ははっきりと見えなかった。

 バタンと、ヒルダとウォルターの背中で扉が閉まった。

 一瞬の静寂の後、「こちらへ」と呼びかけてきた声は、容態が芳しくないとは思えない若々しいものだった。

 怖気づくヒルダの後ろから、ウォルターが促して、二人は歩調を合わせてテーブルの前へ歩みでた。

「もっと、こっちへ」

 手が、彼の目の前を指す。

 イシリベールはスタスタと兄の横へついた。

 ヒルダも、覚悟を決めて足を進める。

 そして、彼を見た。

 黄金の髪は艶を失い、肌は岩山のようにシワを刻んでいる。しかし目はヒルダと同じく赤い、燃え盛る炎のような色をしていた。

 その瞳が、激しく揺れ動いた。

「おお……」と、感嘆と共に、弱々しく両手が差し出される。「娘よ……」

 ヒルダは迷わずその手を取った。

「お父さん……!」

 何の証明をせずとも、ヒルダにはわかった。彼は父だ。間違いない。『崖の町』で暮らしていた頃の疑問や迷いは一切浮かばなかった。本物だ。心がそう確信するのだ。

「お父さん。ただいま戻りました」
「よく戻った。ヒルダ。ヒルドリア。私の娘。もっとよく顔を見せてくれ」

 しかし父の目には涙が溢れ、その姿をはっきりと捉えることはできなかっただろう。

 長くこの時を待っていたのは父だけではない。イシリベールも涙していた。ウォルターももらい涙を滲ませている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

処理中です...