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初めての異世界
魔族と魔獣
しおりを挟む「魔族は現在この世界に5人しかいない」
え……たった5人!?
絶滅危惧種じゃないの?
人族と敵対してるって言うけど、人数差が圧倒的過ぎるよね。
もしかしたら人族との戦で魔族の多くが命を落とした結果なのかな。
それとも全く別の理由?
「人族は人型の魔獣すべてを魔族と呼ぶから、奴らからすればもっと数は多い計算になるな」
ゼスさんはそう言って、何も知らない私に魔族と魔獣に関する詳しい説明をしてくれた。
魔族と魔獣は実は生まれは同じものだという。
彼らは双方とも森の深い場所で魔素を蓄え、濃縮された魔素からいきなり成体の状態で生まれるそうだ。
その姿はレメイアに生息する生物の姿を模していて、それらとは体色の違いで見分けられる。
生まれた後の体の組成は、魔素とも元になった生物とも全く違う独自の構成成分で成り立っており、解明されていない部分が多い。
人族にとっての魔獣とは、その中でも動植物の姿を模した個体のことで、体色は総じて赤黒い。
人族を見つけると我を忘れて襲ってくるので、森に入ったり近くを横切る時は護衛を雇うのが常識なのだとか。
腕に覚えのある者は自ら森に分け入り魔獣を討伐し、人々から英雄視されているそうだ。
次に魔族と呼ばれる者だが、人族にとっての魔族は人のカタチを模して生まれた魔獣すべてを指し、魔族という呼称は魔獣と区別するためにつけられたに過ぎず、どちらも人族の敵という意味では彼らにとって大差ないのかもしれない。
魔族の特徴のひとつとして紅い瞳が挙げられる。
髪色や肌色はそれぞれ個体ごとに異なるのだが、瞳だけは総じて紅い。これは魔眼と呼ばれ、瞳に映した相手の悪意や敵意、嘘を看破する。
体は頑強で、その生まれからか魔法を得意とする者が多い。
<森の衣>と呼ばれる魔素でできた深い緑色の長衣を纏った状態で生まれてくる。
そして魔族も魔獣も魔素をエネルギー源としている。
「ふぅ……………」
私は食材庫の隣の大型キッチン……調理場?で水を飲みながら一息ついていた。……脳が休息を欲していたからである。
2人分のコップに注がれているのは私が魔法で出した《恵みの水》だ。
ゼスさんが魔法で出したお湯で紅茶を淹れようかと言ってくれたのだが、そこで魔法で出した水……すなわち《恵みの水》のことを思い出してしまったのだ。
訊けば普通に飲めるはずと返ってきたので思いきって魔法を使ってみた。
一度に生み出せるのはコップ1杯分程度の水の玉。
これは魔力が多かろうが変わらないそうだ。
ぷかぷか浮かんだ水の玉の真下でコップを構えておき、コップが水の玉に触れた瞬間玉は形を無くしてコップの中に収まった。
それを2人して恐る恐る飲んでみた。
味は普通のミネラルウォーターとあまり変わらない。
飲んで暫くすると体に力が漲ってきた気がした。
ゼスさんに訊くと、体の変化は特にないそう。
思えば私って病み上がりで体力が落ちていたのかもしれない。
この水は疲労回復効果でもあるのかな。
ゼスさんの説明では、《恵みの水》は大昔に大干ばつで人族が水不足にあえいでいた時に最低限の水を魔法で生み出せるようにと女神様が与えたものだとか。
また、《浄化の光》も似たような経緯で人族に齎されたそうだ。
遥か昔に人族の間で疫病が蔓延し、劣悪な衛生環境が原因のひとつだったことから女神様が………と、簡潔に言うとそんな理由だって。
人族に対する女神様のやさしさ、というより過保護感がすごい。
話は戻って《恵みの水》を使った感想。何時でも飲めるミネラルウォーターと考えれば普通に便利だと思う。
一度に生み出せる量は少ないが、何度でも使えるから問題ないのかな。
でも、望んだ量の水を指定した温度で生み出せるゼスさんの水魔法の方が使い勝手は良さそうだね。
こうして小休憩を挟んだ後は魔族についての話の続きだ。
「あとは魔族にとっての魔族の定義についてだな」と言って説明を再開した。
この世界に人型の魔獣はそれなりの数いるそうだが、自らを魔族と名乗っているのはその中でもたったの5人しかいない。
魔族とそうでないものの違いは何か。それは<自我>と<高度な知性>の有無だと言う。
多くの人型には自我が無く、大半が森やその周辺をあてもなく彷徨い、ひとたび人族に遭遇すると脇目もふらずに襲いかかるのだという。
本能的に魔法を使える個体も多く、人族にとっては油断できない相手のようだ。
その他には、<自我>を獲得したもののあまり複雑な思考はできない、という個体が存在する。
ゼスさんによると彼らはいずれ魔族に至る存在……将来的な魔族だという。
<自我>を獲得したことで自分の意思で行きたい場所へ向かい、やりたいことをしようとするようになった彼らだが、知性はまだ十分に育っておらず、そのため興味本位で人里に姿を見せて人族にフルボッコにされたり、心の赴くままに川に飛び込んで溺れたりと問題行動もみせるようになる。
その一方で拙いながらも言語を話したり、道具を上手く使って生活を便利にしようと行動する個体もいるそうだ。
彼らが長い年月を経て多くの経験を積み、高度な知性を獲得した時、新しい魔族として迎え入れられるのだという。
魔族の数は時代により増減はあるものの、魔族に至るには長い年月を必要とするので、絶対数が多くなることはそうそう起こらないという。
まず、魔獣に比べて人型が生まれる数は遥かに少ない。
そして、ひとたび人族達に遭遇すると、たとえその場では勝利しようとも逃げ延びた者から情報が広まり、討伐隊が差し向けられ、結局殺されてしまうというパターンが多いそうだ。
その他の生き延びられない要素もあるが、人族に出合わないという運の要素が多分に必要になる。
それ故になかなか魔族が増えないようだ。
こうした理由から、この世界には魔族はたった5人しかいないという。
それぞれが個人で活動していて、所在地もバラバラ。
魔獣と魔族の領分である深い森のある場所にそれぞれ暮らしている。
私達のいるこの屋敷も、森のかなり深い場所に建てられているそうだ。
ゼスさんと初めて出逢った場所から結構距離があるのかな。
バラバラの場所で暮らす魔族達は考え方もバラバラ。
趣味に生きる者、<自我>を獲得した人型達を集めて教育を試みる者、そして人族を根絶やしにしようと目論む者等々。
考え方はバラバラだが、ちゃんと同族意識はあるらしい。
ちなみに、ゼスさんは魔法の研究をしつつこれからものんびり暮らしていきたいそうだ。
いいですね、スローライフ。
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