悪役令嬢は間違えない

スノウ

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波乱の王立学園

この選択を間違いにはしない




 わたくしは目の前で所在なさげに座るメアリー様をじっと見つめた。

 メアリー様。
 わたくしの大切な友人。……友人だと思っていた女性。
 

「どうしたの?早くしなさいよ」

「……」


 一向に動き出そうとしないわたくしに焦れたのか、メアリー様がわたくしを急かす。

 わたくしはしばらく彼女を見つめた後、メアリー様の処遇について決断した。
 わたくしは静かに話し出す。


「メアリー様」

「っ、何よ」

「わたくし、いつかバーガンディ公爵家を継ぐ立場ですの」

「だから偉いんだ、って?そんなの知ってるわよ」

「わたくしがバーガンディ公爵になれば、バリミーアの経営もわたくしの一存で決められるようになるでしょう」

「……」

「そこでメアリー様にお願いがあるのですが、ミルズ伯爵家にはバリミーアの支店で扱うドレスをおまかせしたいのです。考えてみてはもらえませんか?」

「なっ……!?」


 絶句するメアリー様。
 対するわたくしの表情は大真面目だ。


「お店で扱う布地はすべてミルズ伯爵領に発注することにしましょう。ドレスを仕立てるお針子さん達も伯爵領で雇ってくださっても構いません」

「何を考えてるのよ。そんなことをすれば、ミルズ伯爵家がバリミーアを乗っとるかもしれないわよ」

「……乗っ取れるものなら乗っ取ってみなさい」

「!!」


 わたくしの強い口調にメアリー様が怯む。
 バリミーアはスージーあってのお店だ。簡単に乗っ取れるとは思わないでほしいわね。


「公爵領にある本店を除き、すべての支店のドレスをあなたのところに任せようと思います。どうか前向きに検討していただけないかしら」

「……どうして?」

「メアリー様?」

「わたくしはあなたを殺そうとしたのよ?どうしてこんな」

「……」


 どうして、か。


「……わたくしはね、過去にたくさんの間違いを犯してきたの」

「……?」


 よくわからないといった表情のメアリー様。

 それも当然だろう。わたくしが言っているのは一度目の人生のことなのだから。

 過去のわたくしは数えきれないほどの過ちを犯した。
 横暴な態度、暴力。恋に溺れて突っ走り、両親を悲しませたりもした。学園では成績をお金で買い、挙げ句の果てにはリリー様への殺人未遂だ。

 本当にひどい女だったのよ、わたくしは。

 だからこそ、今回の人生ではまっとうに生きることを誓った。慎重に、選択肢を間違えないように生きてきたつもりだ。

 それでも、今回の事が起きてしまった。

 ミルズ伯爵領が追い詰められたのはバリミーアが主な原因だという。バリミーアは前回の人生ではなかったはずのお店だ。

 つまり、今回の人生でわたくしが以前と違う行動を取ったことが、ミルズ伯爵領に悪い影響をもたらしたことになる。

 わたくしは選択肢を間違えたのだろうか。

 今のままであればそうだろう。
 友人を不幸にしたのだから、バリミーアを開店したことは間違いだったと言うほかない。
 
 でも、そういった間違いはこれから先も起こりうることだ。わたくしが取った行動が原因で、誰かを不幸にすることもあるかもしれない。でも───


「わたくしは、もう間違えたくないの」


 だから、わたくしは今回のことを間違いではなかったと言えるように行動しようと思ったのだ。

 メアリー様の過ちを赦し、伯爵領を救う。
 わたくしは今度こそ間違えたりしない。
 

「だからお願い、わたくしの提案を受け入れて」

「ジゼット様……」


 わたくしとメアリー様は長い間見つめあった。
 メアリー様は、罪を犯した自分がわたくしに甘えていいものかと葛藤していたようだが、長い間悩んだ末にわたくしの提案を受け入れた。


「……よろしくお願いいたします」

「良かった。受け入れてくれるのね」

「はい。詳しいお話は領主である父にお願い致します」

「わかっているわ。わたくしもお父様に話を通しておきます」


 わたくしが公爵になる前提で話を進めていたけれど、ミルズ伯爵家を救うためにはそんな悠長なことを言っていられない。
 ここはお父様にお願いするのが最善だろう。


「ありがとうございます、ジゼット様」


 ようやく話がまとまり部屋の空気が緩んだ頃、それまでダリルの部屋に連れていかれていたバーバラ様が戻ってきた。
 バーバラ様はなにやら興奮気味だ。


「ジゼット様!!ついに、ついに想いが通じあったのですね!!」

「あ」

「おめでとうございます、ジゼット様。お兄様のあんなお顔、初めて見ましたわ」

「……どんな顔だったの?」

「何といいますか、雰囲気が柔らかい気がいたしましたわ。幸せいっぱいです!というお顔でした」

「ふふ、それはわたくしも見たかったわ」

「これからはいつでも見られますよ」

「まあ!」

「……あの、おふたりとも」

「「あ」」


 そうだった。メアリー様はわたくしとダリルの関係を知らなかったのよね。
 それどころか、ここにダリルがいることすら聞かされていなかったのかもしれないわ。

 わたくしは慌ててメアリー様に事情を説明する。


「まあ、そうでしたの。ジゼット様、おめでとうございます」

「ありがとう、メアリー様」


 それからしばらくわたくし達は和やかに会話を続けた。時間が経ち、ふたりが王都の公爵邸をあとにする。

 メアリー様は帰り際、わたくしに深々と頭を下げた。バーバラ様がいたので言葉はなかったが、その行動で彼女の言いたいことは伝わった。

 謝罪と感謝。

 メアリー様、あなたの気持ちはちゃんと受けとりましたよ。





 バリミーアの支店のドレスをミルズ伯爵家に任せる案は両親に受け入れられた。

 わたくしとしては友人であるメアリー様を助けたいという気持ちが強かったのだが、両親の目から見れば、ミルズ伯爵家と手を組むことはこちらにとってもメリットがあることのようだった。

 ミルズ伯爵家には長年培ったドレスの知識と経営のノウハウがあるからね。
 バーガンディ公爵家とはいいパートナーになりそうだとお父様は言っていた。

 わたくしとしてもひと安心だわ。



 
 
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