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波乱の王立学園
【最終話】間違えなかった悪役令嬢と間違えまくったヒロインの結末
それから数日が経ち、わたくしは卒業の日を迎えた。
以前から話し合っていた通り、わたくしとダリルは卒業パーティーを欠席した。
わたくしの怪我は、もうほとんど治っていると言っていいくらいだが、まだ少し赤みが残っている。念のため、欠席するのが妥当な判断だろう。
それに、わたくしのパートナーであるダリルが欠席するのだから、わたくしひとりが出席しても意味がないわよね。
この日のためのドレスをデザインしてくれていたスージーは落ち込んでいたようだが、ドレスはまた別の機会に披露すればいい。
卒業後はパーティーに招待されることも増えていくでしょうから。
コンコン
ダリルの部屋の前でノックをする。
「ダリル、わたくしよ」
「今開けます」
「いいわよ、自分で開けるから。ダリルは寝ていて」
ガチャリ、と音を立ててドアを開ける。
ダリルはドアを開けようとしていたのか、ドアの前に立っていた。
「寝てないとダメじゃない」
「傷ならもう平気ですよ。痛みもほとんどないですし」
「そうなの……?」
「はい。これ以上ベッドで寝ていたら身体が鈍ってしまいそうです」
「ふふ。ダリルが元気になったのなら良かったわ。お医者様はなんて?」
「……あと数日は寝ていなさい、と」
「……ダリル?」
「申し訳ありません」
「まったくもう……」
少し傷が良くなってきたからあちこち動きたくなる気持ちはわかるのよ。だけど、そのせいで怪我の治りが遅くなっては本末転倒だと思うわ。
ここはお医者様の言葉に従って、もう少しだけ安静にしていてね、ダリル。
ダリルをベッドに戻し、わたくしはベッドの脇に置かれた椅子に座る。
ふと視線を動かすと、テーブルの上に男物の礼服が広げられていた。これはまさか…
「ダリル、これは卒業パーティーの……?」
わたくしの視線から言葉の意味を察したダリルが歯切れの悪い答えを返す。
「……まあ、そんなところです」
「そう、ちゃんと準備していたのね」
「当たり前ですよ。卒業パーティーでジゼット様をエスコートすることが俺の目標だったんですから」
「そうだったのね……」
「ジゼット様を他の男がエスコートするなんて耐えられなかったんです。まあ結局はパーティーを欠席してしまいましたが」
わたくしはダリルのために仕立てられた礼服に指を滑らせる。
「これを着たダリルは、きっと素敵なのでしょうね」
「なっ!?」
「わたくしね、今少しホッとしているの」
「……何故ですか?」
「だって、正装したダリルを誰にも見られずに済んだのだから。もしあなたがパーティーに出席していれば、ご令嬢達から熱い視線を向けられていたわよ、絶対に」
「そんなわけが……」
「あるのよ。ダリル、あなたはとても素敵な男性なの。わたくしが目を離せなくなるくらい」
「う……」
「だから、他の女性に奪われてしまうんじゃないかと心配になるの。ふふ、わたくしって嫉妬深い性分なのかしらね」
「……嫉妬なら」
「ダリル?」
「嫉妬なら俺のほうがひどいですよ。本当はジゼット様を部屋に閉じ込めて、誰にも会えないようにしたいとさえ思っているんですから」
「!!」
思わぬ告白に言葉を失うわたくし。
ダリルはわたくしの表情を窺っている。
「……俺のことが、怖い?」
「あ……」
ダメね、わたくし。
大切なひとを不安にさせてしまうなんて。
わたくしはダリルの顔をそっと両手で挟んだ。吃驚した表情でこちらを見ているダリルと至近距離で目を合わせる。
そして、ただひと言「怖くないわ」と言った。
ふたりは至近距離で見つめ合う。
わたくしの頬にダリルの長い指が添えられ、お互いの距離が近づく。
「ジゼット様、あいしてる」
わたくしも、という返事は口に出すことができなかった。わたくしのくちびるは、ダリルによってふさがれてしまったから。
ダリル、わたくしも愛しているわ
わたくしは心の中でそう言って、そっと目を閉じた。
卒業パーティーは滞りなく終わった──かに思えたが、そうはいかなかったらしい。
なにしろ、アルフレッド様が出席していたのだから。
彼は入学式をメチャクチャにした前科がある。今度は卒業パーティーをメチャクチャにしたとしてもわたくしは驚かない。
話によると、アルフレッド様はリリー様との婚約を許されなかったものの、卒業パーティーにはリリー様と出席する予定だったらしい。
しかしここで問題が発生する。
なんと、リリー様が卒業試験に合格できなかったのだ。つまり、留年である。
留年は貴族にとって恥。
リリー様の両親はその知らせを聞き、リリー様を自主退学させることに決めたそうだ。
恥を晒してもう一年学園に通うより、どこかの家に嫁にやったほうがいいと思ったのかもしれない。
つまり、リリー様はもう学園の生徒ではなくなってしまったわけである。
にもかかわらず、アルフレッド様はリリー様をエスコートして卒業パーティーに出席してしまったのだ。
卒業パーティーのパートナーにできるのは、同じ学園の生徒、もしくは親族、あるいは婚約者だけと規則で決められている。
前述の通り、リリー様はもう学園の生徒ではない。もちろんアルフレッド様の親族でもないし、婚約者でもない。
まあ、当然入り口で揉めるわよね。
会場に入れろ!許可できません!の応酬が繰り広げられ、卒業パーティーはメチャクチャになったそうだ。
アルフレッド様は会場入りを阻んでいたスタッフに暴行を加え、学園の教師達に取り押さえられたのだという。
暴行って……
もう、ならず者と大差ないわね。嘆かわしい。
……って、わたくしが言えた事ではなかったわね。
以前のわたくしも、周りから見ればこんな感じだったのかしら。
わたくしのことはさておき、アルフレッド様は現在王城の自室で謹慎中である。
今回のことにはさすがの王妃陛下もお怒りのようで、もしかすると近いうちにアルフレッド様は王籍を剥奪されるのでは?などと噂されているそうだ。
……完全に自業自得よね。同情の余地もないわ。
残されたリリー様がどうなったのかはわからない。
きっと今頃実家に返されているわよね……なんて考えていたら、屋敷の外から聞き覚えのあるわめき声が聞こえてきた。
「ジゼット!出てきなさいよ、この悪役令嬢!!」
「……はぁ」
思わずため息が出てしまう。
コレ、リリー様の声よね。あの娘、以前もわたくしのことを悪役令嬢と言っていたもの。間違いないわ。間違いであってほしかったけれどね。
本来であればわたくしは今ごろ公爵領に戻っているはずだったのだが、ダリルの怪我がまだ治りきっていなかったため、大事をとって王都の屋敷に留まっていた。
今回はそれが裏目に出てしまったようだ。
そばに控えていたアンナがわたくしに問う。
「お嬢様、いかが致しますか?」
「わたくしが出ます。……きっと、リリー様と会うのはこれが最後になるでしょうから」
わたくしを止めようとするアンナをなんとかなだめ、わたくしは屋敷の外に出た。そのまま門まで歩いていく。
リリー様は門衛に阻まれ、敷地内に入ってこられなかったようだ。わたくしは門衛に礼を言い、しばらく下がっているように伝えた。
彼女はわたくしに気づくとこちらを指差し、わたくしがさも悪者であるかのように語りだした。
「ジゼット!どうして今までアタシに会おうとしなかったのよ。アンタが逃げ回るせいでアタシは聖女になれなかったんだからね!」
「……」
「アルフレッドはどこかに連れていかれたし、アタシは退学よ!全部アンタのせいだから」
「……ひどい言いがかりですこと」
「なんですってぇ!?」
これが最後だからとリリー様の話を聞いてみたけれど、時間の無駄だったようね。
わたくしがリリー様に見切りをつけ、話を切り上げようとした時、屋敷のほうからこちらに走ってくる人影があった。
「ジゼット様!!」
「ダリル……」
ダリルはわたくしを背に庇い、リリー様と対峙した。どうやら、ダリルはわたくしが心配で屋敷から出てきてしまったらしい。
怪我が治りきっていないダリルに無理はさせられないわ。もう帰りましょう。
わたくしがそう決意した時、リリー様がダリルに視線を向けた。
「あーーー!この人、入学式で見た隠しキャラだ!」
「……」
またおかしなことを言い出したわね。
「ちょっと、ジゼット!この人をアタシに紹介しなさいよ!」
「───は?」
「アンタみたいな悪役令嬢よりヒロインのアタシのほうがいいに決まってるでしょ。さあ早く!」
その瞬間、わたくしの中の何かがブチキレる音がした。
わたくしはリリー様に顔を近づけ、至近距離で言い放った。
「お断りよ」
そのままわたくしはリリー様に背を向け、屋敷に向かって歩いていく。
わたくしの背中にリリー様のわめき声がぶつかる。
「なによ。最後くらいアタシの思い通りに動きなさいよ、この悪役令嬢!」
わたくしは一度だけ立ち止まり、リリー様を振り返る。そしてひと言。
「わたくし、悪役令嬢はもう卒業いたしましたの。ごめんあそばせ」
「なっ……!?」
それだけを言い残し、わたくしはダリルと共に屋敷に戻った。
リリー様はなおもわめき続けていたようだが、しばらくすると静かになった。きっと門衛に連れていかれたのだろう。
その日を最後にリリー様と会うことは二度となかった。彼女がどうなったのかはわからない。リリー様と関わるつもりはもうないから。
暖かな陽気が心地良いある日の午後。わたくしは木陰でのんびりと読書をしている。
「ジゼット様!」
ああ、ダリルがわたくしを呼んでいるわ。
わたくしの顔に自然と笑みが浮かぶ。
「ダリル、今行くわ」
わたくしは読んでいた本にエトルレの花で作ったしおりを挟み、愛するひとのもとへと歩いていった。
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最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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面白い作品ありがとうございます。(o^-^o)
感想ありがとうございます!
メアリー様、やってることはえげつないですが、同情できる部分もありますよね。
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さてさて、ジゼットはどのような選択をしたのか、続きは本編で!