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2.龍の髭を狙って毟れ!
烏の門番
しおりを挟むトンビの強制アップデートにより会長のデータが新規登録されたため、かなりスムーズにC棟まで辿り着くことが出来た。
何度かエンカウントしそうになったが、どこかに隠れたり遠回りすることで何とかなった。トンビ様様である。
最終決戦の舞台として選んだここは、本校舎から少し遠い所に独立して建っている二階建ての建物だ。この棟は一階が正面入り口以外全て立ち入り禁止となっている。
というのも、C棟の一階は化学室や化学準備室が並ぶエリアで、授業で使用する薬物や器具が大量にあるからだ。
しかし、二階は講義室しかない為解放されている。その為、正面入り口すぐで一階部分の廊下は防火用の扉が閉められており、強制的に二階へ続く階段を上らされることになる。
二階にある出入口は非常階段だけ。そこもあくまで非常用なので使用は禁止されているし、使用した時点で感知されて失格だ。
要するに、事実上袋小路なのだ。だからここに逃げてくる生徒は殆ど居ないし、見張りも出入り口に一人置くだけで事足りる。
そして、トンビのおまけの情報通り、今回の親睦会で見張りを任されているのが。
「クソッ、なんでまだ生き残ってんだよ……」
憎々し気に俺たちを睨む烏丸だ。ビスクドールのようなご尊顔を思い切り歪め、スマホに伸ばされる手を慌てて掴んで止める。
勿論烏丸はトロいから簡単に抑え込めてしまう。見張りとして失格すぎるだろ。まあ、だからこんな誰も来ないような砦に配置されているんだろうが。
「離せよ!」
「離したら会長に連絡するだろうが!」
「当たり前だろなんで僕がここに居ると思ってんだ!」
「頼む、ここには篤志だけが来たって言ってくれないか!」
「はあ?」
蝶木と別れた後、ちょこちょこ俺達と遠く離れた場所で篤志の声真似をしたまま逃げ回ってもらった。俺たちはなるべく人目を避けてここまでやって来たから、会長の耳には『前野篤志は一人で逃げている』という情報が多く入っているはずだ。
目が多いのは相手にとって有利ではあるが、こちらとしては逆に多くの人間に虚偽のアリバイを証明出来る利点がある。「あそこで前野篤志を見た」という人間が複数人居れば、会長はそれを信じざるを得なくなるだろう。アタリをばら撒き続ければ、逆にどれが本物か分からなくなる。相手が集団だからこそ出来る作戦だ。
篤志が一人で居ると思ってやって来た会長を、後ろから俺が捕まえる。残り時間はあと僅か、例え捕まえられずともこの一方通行に誘い込めれば勝ちだ。
リカルド先輩もあと少しでここに辿り着くはずだ。俺が会長を捕まえる、或いは俺につられている間に、リカルドが篤志を捕まえてくれれば全部が終わる。
会長は用心深い人間だが、人を見る目はある。烏丸の振舞を見るに、この少年はずっと健気に尽くし続けてきたのだろう。そんな忠誠を誓うコイツの言葉ならば、会長だってきっと信じるに違いない。
「烏丸、俺は宣言通りここまで生き残ってる。会長を捕まえるって夢みたいな話も、お前の協力次第では現実になるはずだ。なあ烏丸、お願いだ。お前だって夢見たいだろ」
お前には無理だって鼻で笑われたようなことだって、実現できるかもしれない。俺の必死な懇願に烏丸はたじろぐ。
「……まずいよ宗介、リカルド先輩の行先に気づいたのか、会長もこっちに向かい出した。ルート的に多分会長の方が早く着く。隠れるなら早く校舎に入らないと」
「……そう、だな」
黙り込んだままの烏丸。僅かの沈黙を切り裂くように、烏丸のスマホから甲高いコール音が鳴り響いた。
「……会長だ」
目で促されて、ゆるゆると手を外す。烏丸はすぐにスマホの通話ボタンをスライドさせた。俺は目線だけで篤志に先に行くように促す。
「はい、烏丸です」
『俺だ。リカルドがC棟に向かっているという情報が入った。残りの時間的にも合流地点をそこにしているんだろうな。なら、篤志がそっちに向かってるはずだ。篤志は来たか?』
やっぱりバレている。息を潜めながら盗み聞きをする俺を一瞥したあと、烏丸は目を閉じて言う。
「はい、今しがた校舎の中へと入っていきました。追いかけましたが、僕の脚では追い付かず……。申し訳ありません」
「……」
『いや、そこまでは望んでいない。お前の役目はあくまで見張りだ、よくやった。迎えの奴を寄越すから俺が到着次第離脱しろ。――で、篤志は一人だったか? 蝶木か後田は一緒に居たか』
「――いいえ。前野は一人の様子でした。合流の為に後からやってくる恐れもありますが……」
「……!」
『……そうか、わかった。ありがとう』
プツ、と音を立てて通話が途切れる。俺は止めていた息をようやく吐き出して、目を丸めながら恐る恐る声をかける。
「お前、なんで……」
「勘違いするなよ。お前は僕が通話を切った後にやって来た。だから会長の報告には間に合わなかった。そうだろ」
「……! そう、そうだな。後からやって来た俺はお前を脅して口止めをした。お前は完全なる被害者だ」
「会長に嘘を吐いておいてそこまで庇われるつもりはないけど……。でも、まあ。僕にこんなことさせたんだ、せいぜい会長を楽しませろよ」
「最大限努力する」
烏丸の薄っぺらい背中を大きく叩いて、二人揃って校舎の中へ向かって走り出す。
大丈夫、きっと上手くいく。俺一人にそんな強大な力はないけれど、俺に力を貸してくれた奴らはすごい人ばかりだ。だからきっと上手くいく。
どれ程無力な蟻だって、集って力を合わせればきっと龍さえも倒せる。それを今、あの龍相手に証明して見せるのだ。
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