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1巻
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第一章 私と継母の馴れ初め
これは父親に捨てられた私と、
夫に逃げられた継母の、これまでとこれからの物語――
*
『人生で最も楽しい時期は高校生の時である』と、誰かが言った。
客観的に見て確かにその通りだな、と高校二年生の橋坂由依は思う。
義務教育時代もそれなりに楽しかったけれど、世界は狭くて制限もかなりあった。
でも高校生になった途端、生活範囲も自由に使えるお金も、ぐんと広がった。メイクもできるし、買い食いだってできるし、髪形だって金髪にまでしなければアレンジはやりたい放題。
だから、毎日が楽しくて楽しくて堪らない。
……そう。一般的な高校二年生は、楽しいことと好きなことだけで頭の中が埋め尽くされている。
そりゃあ学生なんだから、ちょっとは勉強もしなければいけないけれど、テスト前になったら集中してすればいい。つまり、それほど気にしなくてもいいということだ。
とにかく高校二年生は、人生で一番楽しい時間。
どっか遠くの国で凶悪な事件があっても、総理大臣が変わっても、お偉いさんが悪いことをして逮捕されても、「マジヤバい」の一言で終わらせて、流行のスイーツとか、ファッションとか、芸能人がどうのこうのとか、そっちを優先しても許されると思っている。
ビバ、高校二年生。面倒なことは全部後回しにできる、限られた期間。
そんな時がずっと、ずっと、ずぅーっと続けば……
「あ、もうタイムセール始まってるじゃん!」
学校帰りのルーティン。夕飯の買い物のために行きつけのスーパー山上に向かっていた由依は、秋風にパタパタとはためく蛍光色の旗が見えた途端、思考がバチンと切り替わった。
*
タイムセール中の旗に煽られるように駆け足で店内に入れば、案の定、お買い得品を求める客でごった返していた。
由依も気合を入れて買い物カゴを持ったけれど、すぐに足を止めてふぅっと息を吐く。
「あー……涼し」
ガラス扉を挟んだこちら側は別世界。エアコンの涼しい風が心地よくて、肩まで伸びた髪を片手で持ち上げる。指先がうなじに触れた途端、ぬるっとした感触につい顔を顰めてしまう。
不機嫌になった由依の姿が、入り口の壁に設置されている鏡に映る。百五十六センチの身体は、健康的であるが少し瘦せ気味だ。艶のある黒髪は肩に触れる位置で内巻きにして、飾り気のないヘアピンを耳の上に留めている。
汗の不快感で薄い唇を歪めた表情は愛らしいものではないが、ぱっちりとした二重の瞳とつんとした小さな鼻は、可愛くなる努力をしなくても誰もが可愛いと評する容姿である。
けれども、由依には十代が持つ溌溂さはなかった。といっても、やつれているわけでも、何日も風呂に入っていないような不衛生さがあるわけでもない。この年齢では到底得られない陰というか、生活疲れが見え隠れしているのだ。
そんな年不相応なものを持つ由依は、駅からたった五分歩いただけなのに汗まみれになっている。十月で衣替えも終わったというのに、今年は残暑が厳しい。特に今日は夏が忘れ物を取りに戻ったような異常な暑さだ。
そのせいか今日のスーパーの店内温度は、真夏と同じくらいキンキンに冷えている。
「気化熱、やっば」
うなじの不快感はエアコンの風であっという間に消えてくれたけれど、身体も芯まで冷えてしまい由依はぶるりと身を震わせた。
だが気持ちはすでに買い物モードに入っている由依は、動けば温かくなると自分に言い聞かせ、スタスタと目的地に向かった。
店内は秋の食材が所狭しと並んでいるが、過ぎた季節を思い出してしまうこんな日は、どうしたって夏の食べ物が頭にチラついてしまう。
――今日は絶対に、冷やし中華が食べたい。
三時間目の古文の授業でふと思って、それからずっと口の中が冷やし中華を求めている。それ以外はもう食べたくないと言いたくなるほどに。
とはいえ、季節は秋だ。店内の温度は気軽に変えることができるけれど、さすがに陳列されている食材は簡単に変更できない。
かれこれ十年近くここで買い物をしていれば、経済とか流通とかそういう学問的なことで理解できなくても、身体でわかっている。
でも、しつこいが今日はどうしてもどうしても、冷やし中華が食べたい。
そんな固い決意で麺類売り場に足を向けたが、ちょっと前まで冷やし中華で埋め尽くされていた場所には、つけ麺とか色んな味のラーメンしか置いていなかった。
「……やっぱ、そうだよね」
予想してたとはいえ、あっけなく撃沈してしまった由依は、言葉とは裏腹にがっくり肩を落とす。
しかし落ち込んだままでいるわけにはいかない。さっさと夕飯のメニューを考えなければならない。
せめて、冷たい麺類だけは食べたい。なら素麺にするか。今年の夏に生み出した、隠し味にちょっと醤油を入れたコンソメベースのつゆは我ながら改心の出来だった。
オシャレに冷製パスタという案も捨てがたいが、作るのは自分だ。情けないが第一希望の冷やし中華を凌駕できるほど美味しく作れる自信がない。
ならば、蕎麦か、うどんか、素麺か。この三択に絞られる。
正直言って、第一希望の冷やし中華がないなら大差ない。結局、どれも茹でなきゃいけないし。合わせる具材だって、もうお惣菜でいいや。
そんなふうに投げやりな気持ちになった由依だが、どうしても諦めきれず見切り品コーナーに向かう。
その判断は正解だった。いつもはスルーするそこに、半額シールが貼られた冷やし中華が申し訳なさそうな感じで一つだけ売れ残っていた。
「あ……あ、あった!」
思わず大きな声を出した途端、周囲の客から一斉に視線を向けられてしまった。ほとんどが主婦っぽい人たちだった。
子供の扱いに慣れているのだろうか。名も知らぬ主婦らしき一人が、露骨に噴き出した。続けて「よかったわねー」と声を掛けられる。
そこに悪意は感じられなかったけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
由依は極度の人見知りというわけじゃないけれど、目立ちたがり屋でもない。
自分の不注意で注目を集めてしまった結果、乾ききったはずのうなじに、再びじんわりと汗が滲みだす。
――馬鹿だな、私……これくらい別に大したことじゃないのに。
俯きながら自分に言い聞かせても、身体は素直に反応してしまう。人前で失敗することに慣れていない自分に苦笑するものの、でも仕方ないじゃんと開き直る自分もいる。
――そもそも私、一人っ子だし、親にすらロクに構ってもらったことがないんだから。学校の友達の前じゃこんなヘマはしない。最大限に気を引き締めているもん。
そんな言い訳がどんどん胸の中から溢れてくる。
ふと、見切り品コーナーに新たに物色に来た客の気配を感じて、由依ははっと顔を上げる。誰も自分のことなんて見ていなかった。
それにほっとするよりも先に、一つだけ残っている大事な冷やし中華を慌ててカゴの中に入れた。
メインの料理が決まれば、後の買い物は簡単だ。由依は次々に食材をカゴに放り込む。
キュウリ、トマト、ハム。お刺身コーナーでボイル海老も見つけてそれも迷いなく入れる。
特殊な家庭事情で、食費の余りが由依の毎月のお小遣いとなる。
でもお菓子は、基本コンビニで買うのが由依のこだわりだ。新作が一番早く棚に並ぶから。買い損ねたものだけスーパーで買う。
そんなわけでお菓子売り場はスルーしたのだが、足早に店内を回る由依の足がピタリと止まった。レジの前に長蛇の列ができていたからだ。
長年の経験でベテランのおばちゃんは大抵お喋り好きで、レジを打つのは速いけれど顔見知りの人と会えば無駄に遅くなる。その列に並んでしまうと、最悪だ。
由依は五つのレジを吟味して、ここだと思う最後尾に素早く並んだ。
会計を終えた由依は、学校指定の鞄を肩から下げて、反対側の手に食材の入ったマイバッグを持って外に出る。
「……あー、だっさ」
つい愚痴が出てしまうのは仕方がない。
今頃、友達はカラオケに行ったりファストフード店でお喋りしたり、駅前のショッピングモールで買い物を楽しんでいるのだろう。
なのに自分は、もう十年近くこんな主婦みたいなことばかりしている。
理不尽極まりないと思うけれど、投げ出すわけにはいかない。だってこれが自分の生活なのだから。
橋坂由依。高校二年生。
小学校一年生の秋からシングルファーザーの家庭で育ち、昨冬の終わりに父親が再婚。
しかしたった三か月で父親は蒸発。現在は、三十二歳の継母と二人暮らしだったりする。
*
スーパーを出た由依は荷物を抱えて自宅へと急ぐ。
同居している継母こと琴子は三十二歳だけれど、スラリとしていて、そこそこ美人。実年齢より五歳は若く見える。
頭もよくて、ファイナンシャルプランナーという難しい資格を持ってバリバリ働く、所謂キャリアウーマンだ。
でも水曜日だけは早く帰ってくる。琴子が勤めている会社には、ノー残業デーというものがあるらしい。
読んで字のごとく残業をしてはいけない日なので、おのずと自宅に戻って来る時間も早くなる。
大人にとっては週の真ん中にあるちょっとした休憩かもしれないけれど、食事担当の由依にとっては、慌ただしい日でしかない。
ふと、いつも立ち寄るコンビニが視界に入るが、由依は駆け込みたい衝動を抑える。
「くぅ……今日は諦めるか」
コンビニは逃げないし、明日にしようと自分に言い聞かせて由依は家路を急ぐ。
そりゃあ今日は冷やし中華だから調理時間はそんなにかからない。五分くらい道草したところで、定刻通り夕食を出すことなんて朝飯前だ。
――でも、このクソ暑い中を帰宅した琴子さんはビール飲むよね? おつまみも用意したら喜んでくれるかもしれない。
そんなことを考えると、コンビニに寄れない苛立ちより、さっきよりも早く帰りたくなる自分を不思議に思う。
由依と琴子は血の繋がりなんてない他人だ。それに、まだ一年も一緒に住んでいない。
実のところ由依は同じ屋根の下で暮らしていても、琴子のいいところも悪いところも、まだよく分かっていない。
とはいえ、一つだけ確信をもって言えることがある。それは、琴子には男を見る目がないということ。そもそも親ガチャでハズレを引いてしまった由依が言えることじゃないけれど。
スマホに表示されている時刻は十七時三十分。あと一時間もしないうちに、琴子が帰ってきてしまう。
幸い今日は、お米を炊く必要はない。いつも通り準備をすれば間に合うはずだ。
――まずは錦糸卵を作って、それからきゅうりとハムを刻んで……あ、その前に琴子さんの晩酌用のつまみも用意しないと。
慣れ親しんだ道を駆け抜けながら、由依は冷蔵庫の中身を一生懸命思い出す。冷凍庫の中に枝豆があったことを思い出して、ちょっとだけほっとした。
……でも、安堵したのは一瞬で、自宅マンションの前に到着した途端、由依の顔は青ざめた。
登校前に間違いなく消したはずのリビングの電気が、窓越しに灯っているのが見えたのだ。
「……え? 消し忘れってことは……ない……うん、絶対にない。間違いなく消した」
登校前の記憶を辿った由依の足がピタリと止まった。
「こんなに早く帰って来るなんて……聞いてないよ」
恨み言なのか泣き言なのかわからない言葉を吐く由依は、これまで一度も琴子より遅く帰って来たことはなかった。そうしないように、ずっと気を付けてきたのだ。額に手を当てて天を仰ぎたくなる。
だって、ご飯当番は自分だから。働いている琴子を待たせちゃ悪いから。素行の悪い子だって思われたくないから。いい子でいないと嫌われちゃうから。
「……やっちゃった……どうしよう」
別に寄り道をしたわけでも、補習を受けていたわけでもない。いつも通りの水曜日を粛々と過ごしてたのだから、どうしようもなかったのはわかっている。
でも強気な気持ちとは裏腹に、琴子が怒っていたら……と考えると、放課後に職員室に呼び出されたような憂鬱な気持ちになってしまう。それでも逃げるわけにはいかない。逃げたところで行く宛などない。
由依は制服の上着のポケットからスマホを取り出す。時刻は十七時三十七分。いつもより八分早い。その現実に僅かな安堵を覚え、由依は駆け足でマンションの中へと入った。
*
共有部分の廊下までは駆け足だった由依だが、玄関扉の前に立つと急に弱気になる。そっと扉を開けて、音を立てぬよう靴を脱いでリビングの扉を開けた途端――
「あ、おかえりー」
朗らかな琴子の声が飛んできて、由依は拍子抜けしてしまった。
「あ……ただいま……です。琴子さん、早かったですね」
「うん! 今日は直帰したの」
あっけらかんと答えた琴子は、ブラウスとスカート姿でビールを飲んでいる。ソファにはジャケットが投げ出されたまま。
おそらく帰宅してすぐ、ビール片手にクールダウンしているのだろう。
「ねえ、由依ちゃん」
「な……なんですか?」
後ろめたいことがあるから、つい由依は身構えてしまう。
「エアコン、タイマー予約しといてくれてありがとね。あと、ビールの補充もサンキュ。ねえ、今日は暑かったし一本……じゃなくって二本、多く飲んでもいいよね?」
そんなの好きにすればいいじゃん。ビール代は琴子さんが出してるんだし。
由依はつい可愛げのないことを言いそうになった。でも、あまりに琴子が屈託なく笑いかけるものだから、違う言葉がするりと出てしまう。
「うん、いいと思う。あの……急いでおつまみ作りますね」
「嬉しい! いつもありがとね」
子供みたいにはしゃぐ琴子は、おつまみを作っている間、一度も由依の帰宅時間について触れることはなかった。
そのことにほっとしつつ、キッチンに入った由依は、冷凍庫に入っていた枝豆を流水で解凍して小皿に盛る。作り置きしておいたポテトサラダに砕いた秋限定の濃厚チーズ味のポテトチップスを軽くあえて、それもお皿に盛った。
二品が完成するまで、わずか五分。長年キッチンに立つことを余儀なくされた由依は、ベテラン主婦並みに手際がいい。
ちなみに琴子はまったく料理ができない。レンチン料理すら、時々失敗する。
「こんなのしかないけど、どうぞ」
「ううん、ごちそうじゃん。ありがと。美味しそー」
たったこれだけで目を輝かせてくれる琴子に何だか申し訳ない気がして、由依はキャンディチーズも追加する。
更に喜ぶ琴子に、由依はくすぐったい気持ちを超えて居心地悪さすら覚えてしまう。
「あの……夕飯、急ぎますね」
「いいよ、いいよ。それよりこっちで涼んだら?」
「あ、大丈夫です」
ポンポンとソファを叩いて座ってと命じる琴子に首を横に振って、由依はキッチンに戻る。すぐに背後から琴子の声が追いかけてきた。
「由依ちゃーん、今日の夕飯は何かな?」
「……あ、冷やし中華を」
「うそ!? 冷やし中華!?」
――ガタッ、ガタン!
琴子の大声に被せるように、物音が響いた。
冷蔵庫から卵を取り出そうとしていた由依は、慌てて振り返る。すぐに「痛ててっ」と、顔を顰めながら脛をさする琴子が視界に入る。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん、平気平気。ってか、びっくりだよ。今日さ暑かったから、実は冷やし中華が食べたかったんだよね」
「そうなんですか」
「そうなの! だから嬉しくって脛ぶつけちゃったぁ」
「……湿布いります?」
「いいよー、これぐらいほっとけば治る治る。でも痛い……あははっ」
琴子は酒豪で、ビール一本程度では酔わない。
なのに、このハイテンション……本当に冷やし中華が食べたかったんだなと由依は思う。
ここだけの話、琴子の好物が冷やし中華だということを由依は知っている。
知っているから、きっと今日は食べたいだろうなと思ったりもした。もちろん自分が食べたかったのが一番だけれど。
でも、由依はそれを言葉にして伝えることはしない。
琴子と自分は家族じゃないから。同居しているだけだし、「あなたのために」的な押し付けだと勘違いされて重たい子だと思われたくないのだ。
「じゃあ、やっぱり急いで作ります」
「うん! 待ってる。私は着替えてくるね」
スキップしそうなほどウキウキした足取りで自室に向かう琴子を見送って、由依は調理に取り掛かる。
溶き卵を作りながら、スーパーで恥ずかしい思いをしたことなんて、さっきの琴子の笑顔でチャラになったなと、一人笑いながら。
ダイニングテーブルの上に、二人分の冷やし中華と、魚型のお皿に四個ずつ載せた蟹シュウマイ。それと長芋の唐揚げと、琴子が大好きな奈良漬けも忘れずに並べる。
「おおっ、待ってました!」
「琴子さん、ビールもう一本飲みます?」
「うーん、飲んじゃおっかな」
「じゃ、持ってきます」
由依は小走りにキッチンに戻る。素早く自分用のお茶と缶ビールを手にしてテーブルに着席すれば、琴子は箸を付けずに待っていてくれた。
「よし! じゃあ、いっただきまーす」
「……いただきます」
行儀よく手を合わせて冷やし中華を食べ始める琴子は、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
――無理しなくてもいいのに。
向かい合わせに座っている由依は、ついそんなことを思ってしまい苦い気持ちになる。
我ながら嫌な子だ。せっかく琴子が楽しい雰囲気を作ってくれているのに、それに乗っからないなんて。
由依の心情とは裏腹に、リビングからは点けっぱなしにしたテレビから笑い声が聞こえてくる。
それに合わせて琴子も「長芋の唐揚げほくほくして美味しいー」とか「冷やし中華と海老って相性いいよね」とか「マヨネーズかけるのって、どこの地域だっけ」とか、当たり障りのない話題を振ってくれる。
これは父親に捨てられた私と、
夫に逃げられた継母の、これまでとこれからの物語――
*
『人生で最も楽しい時期は高校生の時である』と、誰かが言った。
客観的に見て確かにその通りだな、と高校二年生の橋坂由依は思う。
義務教育時代もそれなりに楽しかったけれど、世界は狭くて制限もかなりあった。
でも高校生になった途端、生活範囲も自由に使えるお金も、ぐんと広がった。メイクもできるし、買い食いだってできるし、髪形だって金髪にまでしなければアレンジはやりたい放題。
だから、毎日が楽しくて楽しくて堪らない。
……そう。一般的な高校二年生は、楽しいことと好きなことだけで頭の中が埋め尽くされている。
そりゃあ学生なんだから、ちょっとは勉強もしなければいけないけれど、テスト前になったら集中してすればいい。つまり、それほど気にしなくてもいいということだ。
とにかく高校二年生は、人生で一番楽しい時間。
どっか遠くの国で凶悪な事件があっても、総理大臣が変わっても、お偉いさんが悪いことをして逮捕されても、「マジヤバい」の一言で終わらせて、流行のスイーツとか、ファッションとか、芸能人がどうのこうのとか、そっちを優先しても許されると思っている。
ビバ、高校二年生。面倒なことは全部後回しにできる、限られた期間。
そんな時がずっと、ずっと、ずぅーっと続けば……
「あ、もうタイムセール始まってるじゃん!」
学校帰りのルーティン。夕飯の買い物のために行きつけのスーパー山上に向かっていた由依は、秋風にパタパタとはためく蛍光色の旗が見えた途端、思考がバチンと切り替わった。
*
タイムセール中の旗に煽られるように駆け足で店内に入れば、案の定、お買い得品を求める客でごった返していた。
由依も気合を入れて買い物カゴを持ったけれど、すぐに足を止めてふぅっと息を吐く。
「あー……涼し」
ガラス扉を挟んだこちら側は別世界。エアコンの涼しい風が心地よくて、肩まで伸びた髪を片手で持ち上げる。指先がうなじに触れた途端、ぬるっとした感触につい顔を顰めてしまう。
不機嫌になった由依の姿が、入り口の壁に設置されている鏡に映る。百五十六センチの身体は、健康的であるが少し瘦せ気味だ。艶のある黒髪は肩に触れる位置で内巻きにして、飾り気のないヘアピンを耳の上に留めている。
汗の不快感で薄い唇を歪めた表情は愛らしいものではないが、ぱっちりとした二重の瞳とつんとした小さな鼻は、可愛くなる努力をしなくても誰もが可愛いと評する容姿である。
けれども、由依には十代が持つ溌溂さはなかった。といっても、やつれているわけでも、何日も風呂に入っていないような不衛生さがあるわけでもない。この年齢では到底得られない陰というか、生活疲れが見え隠れしているのだ。
そんな年不相応なものを持つ由依は、駅からたった五分歩いただけなのに汗まみれになっている。十月で衣替えも終わったというのに、今年は残暑が厳しい。特に今日は夏が忘れ物を取りに戻ったような異常な暑さだ。
そのせいか今日のスーパーの店内温度は、真夏と同じくらいキンキンに冷えている。
「気化熱、やっば」
うなじの不快感はエアコンの風であっという間に消えてくれたけれど、身体も芯まで冷えてしまい由依はぶるりと身を震わせた。
だが気持ちはすでに買い物モードに入っている由依は、動けば温かくなると自分に言い聞かせ、スタスタと目的地に向かった。
店内は秋の食材が所狭しと並んでいるが、過ぎた季節を思い出してしまうこんな日は、どうしたって夏の食べ物が頭にチラついてしまう。
――今日は絶対に、冷やし中華が食べたい。
三時間目の古文の授業でふと思って、それからずっと口の中が冷やし中華を求めている。それ以外はもう食べたくないと言いたくなるほどに。
とはいえ、季節は秋だ。店内の温度は気軽に変えることができるけれど、さすがに陳列されている食材は簡単に変更できない。
かれこれ十年近くここで買い物をしていれば、経済とか流通とかそういう学問的なことで理解できなくても、身体でわかっている。
でも、しつこいが今日はどうしてもどうしても、冷やし中華が食べたい。
そんな固い決意で麺類売り場に足を向けたが、ちょっと前まで冷やし中華で埋め尽くされていた場所には、つけ麺とか色んな味のラーメンしか置いていなかった。
「……やっぱ、そうだよね」
予想してたとはいえ、あっけなく撃沈してしまった由依は、言葉とは裏腹にがっくり肩を落とす。
しかし落ち込んだままでいるわけにはいかない。さっさと夕飯のメニューを考えなければならない。
せめて、冷たい麺類だけは食べたい。なら素麺にするか。今年の夏に生み出した、隠し味にちょっと醤油を入れたコンソメベースのつゆは我ながら改心の出来だった。
オシャレに冷製パスタという案も捨てがたいが、作るのは自分だ。情けないが第一希望の冷やし中華を凌駕できるほど美味しく作れる自信がない。
ならば、蕎麦か、うどんか、素麺か。この三択に絞られる。
正直言って、第一希望の冷やし中華がないなら大差ない。結局、どれも茹でなきゃいけないし。合わせる具材だって、もうお惣菜でいいや。
そんなふうに投げやりな気持ちになった由依だが、どうしても諦めきれず見切り品コーナーに向かう。
その判断は正解だった。いつもはスルーするそこに、半額シールが貼られた冷やし中華が申し訳なさそうな感じで一つだけ売れ残っていた。
「あ……あ、あった!」
思わず大きな声を出した途端、周囲の客から一斉に視線を向けられてしまった。ほとんどが主婦っぽい人たちだった。
子供の扱いに慣れているのだろうか。名も知らぬ主婦らしき一人が、露骨に噴き出した。続けて「よかったわねー」と声を掛けられる。
そこに悪意は感じられなかったけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
由依は極度の人見知りというわけじゃないけれど、目立ちたがり屋でもない。
自分の不注意で注目を集めてしまった結果、乾ききったはずのうなじに、再びじんわりと汗が滲みだす。
――馬鹿だな、私……これくらい別に大したことじゃないのに。
俯きながら自分に言い聞かせても、身体は素直に反応してしまう。人前で失敗することに慣れていない自分に苦笑するものの、でも仕方ないじゃんと開き直る自分もいる。
――そもそも私、一人っ子だし、親にすらロクに構ってもらったことがないんだから。学校の友達の前じゃこんなヘマはしない。最大限に気を引き締めているもん。
そんな言い訳がどんどん胸の中から溢れてくる。
ふと、見切り品コーナーに新たに物色に来た客の気配を感じて、由依ははっと顔を上げる。誰も自分のことなんて見ていなかった。
それにほっとするよりも先に、一つだけ残っている大事な冷やし中華を慌ててカゴの中に入れた。
メインの料理が決まれば、後の買い物は簡単だ。由依は次々に食材をカゴに放り込む。
キュウリ、トマト、ハム。お刺身コーナーでボイル海老も見つけてそれも迷いなく入れる。
特殊な家庭事情で、食費の余りが由依の毎月のお小遣いとなる。
でもお菓子は、基本コンビニで買うのが由依のこだわりだ。新作が一番早く棚に並ぶから。買い損ねたものだけスーパーで買う。
そんなわけでお菓子売り場はスルーしたのだが、足早に店内を回る由依の足がピタリと止まった。レジの前に長蛇の列ができていたからだ。
長年の経験でベテランのおばちゃんは大抵お喋り好きで、レジを打つのは速いけれど顔見知りの人と会えば無駄に遅くなる。その列に並んでしまうと、最悪だ。
由依は五つのレジを吟味して、ここだと思う最後尾に素早く並んだ。
会計を終えた由依は、学校指定の鞄を肩から下げて、反対側の手に食材の入ったマイバッグを持って外に出る。
「……あー、だっさ」
つい愚痴が出てしまうのは仕方がない。
今頃、友達はカラオケに行ったりファストフード店でお喋りしたり、駅前のショッピングモールで買い物を楽しんでいるのだろう。
なのに自分は、もう十年近くこんな主婦みたいなことばかりしている。
理不尽極まりないと思うけれど、投げ出すわけにはいかない。だってこれが自分の生活なのだから。
橋坂由依。高校二年生。
小学校一年生の秋からシングルファーザーの家庭で育ち、昨冬の終わりに父親が再婚。
しかしたった三か月で父親は蒸発。現在は、三十二歳の継母と二人暮らしだったりする。
*
スーパーを出た由依は荷物を抱えて自宅へと急ぐ。
同居している継母こと琴子は三十二歳だけれど、スラリとしていて、そこそこ美人。実年齢より五歳は若く見える。
頭もよくて、ファイナンシャルプランナーという難しい資格を持ってバリバリ働く、所謂キャリアウーマンだ。
でも水曜日だけは早く帰ってくる。琴子が勤めている会社には、ノー残業デーというものがあるらしい。
読んで字のごとく残業をしてはいけない日なので、おのずと自宅に戻って来る時間も早くなる。
大人にとっては週の真ん中にあるちょっとした休憩かもしれないけれど、食事担当の由依にとっては、慌ただしい日でしかない。
ふと、いつも立ち寄るコンビニが視界に入るが、由依は駆け込みたい衝動を抑える。
「くぅ……今日は諦めるか」
コンビニは逃げないし、明日にしようと自分に言い聞かせて由依は家路を急ぐ。
そりゃあ今日は冷やし中華だから調理時間はそんなにかからない。五分くらい道草したところで、定刻通り夕食を出すことなんて朝飯前だ。
――でも、このクソ暑い中を帰宅した琴子さんはビール飲むよね? おつまみも用意したら喜んでくれるかもしれない。
そんなことを考えると、コンビニに寄れない苛立ちより、さっきよりも早く帰りたくなる自分を不思議に思う。
由依と琴子は血の繋がりなんてない他人だ。それに、まだ一年も一緒に住んでいない。
実のところ由依は同じ屋根の下で暮らしていても、琴子のいいところも悪いところも、まだよく分かっていない。
とはいえ、一つだけ確信をもって言えることがある。それは、琴子には男を見る目がないということ。そもそも親ガチャでハズレを引いてしまった由依が言えることじゃないけれど。
スマホに表示されている時刻は十七時三十分。あと一時間もしないうちに、琴子が帰ってきてしまう。
幸い今日は、お米を炊く必要はない。いつも通り準備をすれば間に合うはずだ。
――まずは錦糸卵を作って、それからきゅうりとハムを刻んで……あ、その前に琴子さんの晩酌用のつまみも用意しないと。
慣れ親しんだ道を駆け抜けながら、由依は冷蔵庫の中身を一生懸命思い出す。冷凍庫の中に枝豆があったことを思い出して、ちょっとだけほっとした。
……でも、安堵したのは一瞬で、自宅マンションの前に到着した途端、由依の顔は青ざめた。
登校前に間違いなく消したはずのリビングの電気が、窓越しに灯っているのが見えたのだ。
「……え? 消し忘れってことは……ない……うん、絶対にない。間違いなく消した」
登校前の記憶を辿った由依の足がピタリと止まった。
「こんなに早く帰って来るなんて……聞いてないよ」
恨み言なのか泣き言なのかわからない言葉を吐く由依は、これまで一度も琴子より遅く帰って来たことはなかった。そうしないように、ずっと気を付けてきたのだ。額に手を当てて天を仰ぎたくなる。
だって、ご飯当番は自分だから。働いている琴子を待たせちゃ悪いから。素行の悪い子だって思われたくないから。いい子でいないと嫌われちゃうから。
「……やっちゃった……どうしよう」
別に寄り道をしたわけでも、補習を受けていたわけでもない。いつも通りの水曜日を粛々と過ごしてたのだから、どうしようもなかったのはわかっている。
でも強気な気持ちとは裏腹に、琴子が怒っていたら……と考えると、放課後に職員室に呼び出されたような憂鬱な気持ちになってしまう。それでも逃げるわけにはいかない。逃げたところで行く宛などない。
由依は制服の上着のポケットからスマホを取り出す。時刻は十七時三十七分。いつもより八分早い。その現実に僅かな安堵を覚え、由依は駆け足でマンションの中へと入った。
*
共有部分の廊下までは駆け足だった由依だが、玄関扉の前に立つと急に弱気になる。そっと扉を開けて、音を立てぬよう靴を脱いでリビングの扉を開けた途端――
「あ、おかえりー」
朗らかな琴子の声が飛んできて、由依は拍子抜けしてしまった。
「あ……ただいま……です。琴子さん、早かったですね」
「うん! 今日は直帰したの」
あっけらかんと答えた琴子は、ブラウスとスカート姿でビールを飲んでいる。ソファにはジャケットが投げ出されたまま。
おそらく帰宅してすぐ、ビール片手にクールダウンしているのだろう。
「ねえ、由依ちゃん」
「な……なんですか?」
後ろめたいことがあるから、つい由依は身構えてしまう。
「エアコン、タイマー予約しといてくれてありがとね。あと、ビールの補充もサンキュ。ねえ、今日は暑かったし一本……じゃなくって二本、多く飲んでもいいよね?」
そんなの好きにすればいいじゃん。ビール代は琴子さんが出してるんだし。
由依はつい可愛げのないことを言いそうになった。でも、あまりに琴子が屈託なく笑いかけるものだから、違う言葉がするりと出てしまう。
「うん、いいと思う。あの……急いでおつまみ作りますね」
「嬉しい! いつもありがとね」
子供みたいにはしゃぐ琴子は、おつまみを作っている間、一度も由依の帰宅時間について触れることはなかった。
そのことにほっとしつつ、キッチンに入った由依は、冷凍庫に入っていた枝豆を流水で解凍して小皿に盛る。作り置きしておいたポテトサラダに砕いた秋限定の濃厚チーズ味のポテトチップスを軽くあえて、それもお皿に盛った。
二品が完成するまで、わずか五分。長年キッチンに立つことを余儀なくされた由依は、ベテラン主婦並みに手際がいい。
ちなみに琴子はまったく料理ができない。レンチン料理すら、時々失敗する。
「こんなのしかないけど、どうぞ」
「ううん、ごちそうじゃん。ありがと。美味しそー」
たったこれだけで目を輝かせてくれる琴子に何だか申し訳ない気がして、由依はキャンディチーズも追加する。
更に喜ぶ琴子に、由依はくすぐったい気持ちを超えて居心地悪さすら覚えてしまう。
「あの……夕飯、急ぎますね」
「いいよ、いいよ。それよりこっちで涼んだら?」
「あ、大丈夫です」
ポンポンとソファを叩いて座ってと命じる琴子に首を横に振って、由依はキッチンに戻る。すぐに背後から琴子の声が追いかけてきた。
「由依ちゃーん、今日の夕飯は何かな?」
「……あ、冷やし中華を」
「うそ!? 冷やし中華!?」
――ガタッ、ガタン!
琴子の大声に被せるように、物音が響いた。
冷蔵庫から卵を取り出そうとしていた由依は、慌てて振り返る。すぐに「痛ててっ」と、顔を顰めながら脛をさする琴子が視界に入る。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん、平気平気。ってか、びっくりだよ。今日さ暑かったから、実は冷やし中華が食べたかったんだよね」
「そうなんですか」
「そうなの! だから嬉しくって脛ぶつけちゃったぁ」
「……湿布いります?」
「いいよー、これぐらいほっとけば治る治る。でも痛い……あははっ」
琴子は酒豪で、ビール一本程度では酔わない。
なのに、このハイテンション……本当に冷やし中華が食べたかったんだなと由依は思う。
ここだけの話、琴子の好物が冷やし中華だということを由依は知っている。
知っているから、きっと今日は食べたいだろうなと思ったりもした。もちろん自分が食べたかったのが一番だけれど。
でも、由依はそれを言葉にして伝えることはしない。
琴子と自分は家族じゃないから。同居しているだけだし、「あなたのために」的な押し付けだと勘違いされて重たい子だと思われたくないのだ。
「じゃあ、やっぱり急いで作ります」
「うん! 待ってる。私は着替えてくるね」
スキップしそうなほどウキウキした足取りで自室に向かう琴子を見送って、由依は調理に取り掛かる。
溶き卵を作りながら、スーパーで恥ずかしい思いをしたことなんて、さっきの琴子の笑顔でチャラになったなと、一人笑いながら。
ダイニングテーブルの上に、二人分の冷やし中華と、魚型のお皿に四個ずつ載せた蟹シュウマイ。それと長芋の唐揚げと、琴子が大好きな奈良漬けも忘れずに並べる。
「おおっ、待ってました!」
「琴子さん、ビールもう一本飲みます?」
「うーん、飲んじゃおっかな」
「じゃ、持ってきます」
由依は小走りにキッチンに戻る。素早く自分用のお茶と缶ビールを手にしてテーブルに着席すれば、琴子は箸を付けずに待っていてくれた。
「よし! じゃあ、いっただきまーす」
「……いただきます」
行儀よく手を合わせて冷やし中華を食べ始める琴子は、とても幸せそうな笑みを浮かべている。
――無理しなくてもいいのに。
向かい合わせに座っている由依は、ついそんなことを思ってしまい苦い気持ちになる。
我ながら嫌な子だ。せっかく琴子が楽しい雰囲気を作ってくれているのに、それに乗っからないなんて。
由依の心情とは裏腹に、リビングからは点けっぱなしにしたテレビから笑い声が聞こえてくる。
それに合わせて琴子も「長芋の唐揚げほくほくして美味しいー」とか「冷やし中華と海老って相性いいよね」とか「マヨネーズかけるのって、どこの地域だっけ」とか、当たり障りのない話題を振ってくれる。
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