もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜

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復讐を誓った夕暮れ

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「─── あ、そうそう。聞いてくれよイルア。俺、とうとう身を固めなくっちゃいけなくなったんだ」

 情事の余韻を残した口調でそう言ったフレデリックに、イルアは無言のまま固まった。

 彼が何を言っているのかわからなかった。

(身を固めなくっちゃいけない?……それって、つまり)

「俺、婚約したんだ」

 頭の中で紡いでいた言葉を読んだかのように、フレデリックはさらりと言った。

「……結婚するのですか?」
「ま、そうだろうな」

 ようやっと絞り出したイルアの言葉に、フレデリックは肩をすくめながら答えた。彼の茶褐色の髪も、同時に揺れる。

 今は、夕暮れ時。そしてオレンジ色に染まった室内で、フレデリックは半裸の身体を惜しげもなくさらしている。
 
 イルアもフレデリックと同様に半裸の状態だ。つまり二人は、結婚を誓い合った恋人以上の関係をしていた。

 ただ二人は、恋人同士ではない。

 フレデリックはイルアが住まうルティア領の領主の息子。爵位持ちで、伯爵令息と呼ばれる存在。対してイルアは平民の、しかも未亡人だ。

 しかしながらイルアは、まだ二十歳を少し過ぎた頃。少女と呼ぶには成熟しているが、稲穂のような黄金色の髪と澄んだ空色の瞳を持つ彼女は、とても愛らしい容姿をしていた。

 けれど今、人形のように整った顔は痛々しいほど青ざめている。

 無理もない。今、イルアはフレデリックから別れを告げられたのだから。

(……こんな……こんな終わり方が来るなんて)

 もちろんこの関係がずっと続くとは思っていなかった。

 相手は雲の上の存在。彼の妻になるなんて、願うだけでおこがましい。

 だから近い将来、彼の口から別れを告げる時が来るのは覚悟していた。そして、笑って「さよなら」を言うつもりだった。

 イルアはフレデリックのことを愛していた。

 そしてフレデリックも、イルアに向け愛していると口にした。何度も、何度も。時には、結婚しようと言ってくれたことすらあった。

 互いに想い合う気持ちは本物だと信じて疑わなかった。

 なのに、フレデリックはあっさりと別れを告げた。

 しかも、身体を重ねた後に。ついでといった感じで。そこには恋人に別れを告げる罪悪感も、悲しさも、侘しさも、苦しさも、何一つ感じられなかった。

 とどのつまり、フレデリックは本気では無かったのだ。 

 そのことに気付いたイルアは、無言のままじっとフレデリックを見つめる。もしかしたら彼が「ごめん」と言ってくれるかもしれないと期待して。

 今、イルアは彼から謝罪の言葉を欲していた。嘘でも義理でも良いから、とにかく欲しかった。

 1年以上続いたこの関係を奇麗に終わらせたかったから。
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