交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~

当麻月菜

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三角関係にもならない新婚生活

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 神レベルのイケメンが、我が家にやってきた。
 大財閥の御曹司と娘が、知らぬ間に結婚していた。
 
 どちらも早波家にとって、大事件である。

 朝食中だったリビングを兼ねた和室は、目にも止まらぬ速さで片づけられ、来客用のふかふか座布団が用意された。

 卓袱台には、滅多なことでは使わないブランドの茶器に淹れられたコーヒーが置かれ、康子と孝美は「ちょっとお待ちを」と言い残して、化粧直しのために寝室に消えた。

 ジャージ姿だった哲司と恭司も、着替えのために席を外している。

 二階から、バタバタと騒がしい音が聞こえてくる。片づけたとはいえ、さっきまで朝食中だった和室には焼き鮭と味噌汁の残り香がある。

 どう取り繕っても、大財閥の御曹司からしたら居心地が悪い空間のはずなのに、真澄は静かに正座をしている。

 軽蔑することも、物珍し気に眺めることもせず、そういうものだという感じで、穏やかな表情を浮かべ続けている。

 その姿は、古い友人の家に顔を出した青年にしか見えなかった。

「絶対にあり得ないと思うんですけど、柊木社長ってうちの兄と友達だったりします?」
「絶対にあり得ないとわかっているのに、なぜわざわざ訊くんだ?」
「ですよねー」

 馬鹿を見る目で見られた菜穂子は、あははっと誤魔化し笑いをする。

「まぁ、今の質問に他意はないんで忘れてください。それよりも、ごめんなさい!出勤前にわざわざうちに来てくれたのに、お待たせしちゃって……」

 なんとなく真澄を一人にさせるのは悪いような気がして、菜穂子は彼の隣に正座している。

 一日経った今でも、皺ひとつないスーツに身を包む真澄はイケメンだ。

「いや、早朝に尋ねたこちらが悪い」
「……でも」
「いいから」

 もっと早起きして、簡潔明瞭に結婚した旨を家族に報告しておけば、ここまで見苦しい光景を見せることはなかったと、菜穂子は寝坊した自分を責める。

 とはいえ、結婚届を区役所に提出したあと、真澄はすぐに菜穂子を解放してはくれなかった。

 会員制のジュエリーショップに連れていかれ、婚約指輪と結婚指輪を選ばされたのだ。
 
 どんなデザインがお好みで?何カラットのダイヤをご希望で?指輪の裏には何を掘りましょう?と、グイグイ店員に詰め寄られ、菜穂子は目を白黒させることしかできなかった。

 最初はそんな菜穂子を面白がって、好きなものを選べと更に追い詰めた真澄だが、埒が明かないと判断したのだろう。最終的には、彼が決めた。どうせ一年後には外すのに、随分と真剣に悩んでいた。

「……指輪を間に合わせたかったが残念だ……親御さんが気を悪くしなければいいが……」 

 真澄の呟きを耳にした菜穂子は、ギョッとする。

「うちの親、そんなこと気にしませんよ?っていうか、私も兄も孝美さんも気にしません。多分、気にしてるの柊木社長だけですよ」   

 コソッと菜穂子が囁いても、真澄は首を横に振る。

「相手が気にしないから、こちらも適当な態度でいいという理由にはならない。まずは結婚のあいさつの前に謝罪からだな」
「まぁ、そうしたいなら……止めませんけど。あ、ついでに交際ゼロ日で結婚した理由も考えてもらえると助かります」

 ちゃっかり難題を押しつけた菜穂子に、真澄は物言いたげな視線を送る。
 
「柊木社長が昨日遅くまで私を帰してくれなかったから寝不足なんですよ、私」
 
 ジュエリーショップを出たのは、22時過ぎ。それから自宅近くまで真澄の愛車で送ってもらったが、菜穂子は明け方まで眠れなかった。

 三年間の恋に終止符を打っただけでも眠れない理由になるのに、その流れで初対面の男と結婚したのだ。

 眠れないのを通り越して、目がギンギンになるのも無理はない。

「うちの父と兄は見ての通り癖があるから、まずは母とお義姉さんを手懐けてください。それが最速で最短で最善の攻略方法です」

 菜穂子が手短にアドバイスをすれば、真澄は神妙な顔で「わかった」と頷いた。
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