交際ゼロ日からの、契約結婚 ~夫が抱える25の嘘~

当麻月菜

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華麗なる一族と、自称婚約者

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 目についた椅子を近くまで引き寄せた菜穂子は、瑞穂に「座って食べたら?」と提案する。

 けれども瑞穂は、なかなか座ろうとはしない。

「……うちがここで、こんなん食べてること気にならないの?」

 上目づかいで尋ねた瑞穂に、菜穂子は苦笑する。

「答える人が嫌な気持ちになることは質問したりしないよ、私」
「ふぅーん……純玲すみれさんとは違うんだ」

 純玲さん?誰それ。と尋ねたくなった菜穂子だが、大体は見当がつく。

「純玲さんさぁ、パパとママのお気に入りだから、わざと呼ばれてないの。でもいつもさ、宴会の途中で来るんだ。私はいつでも来ていい人なのよって顔して。きっと今日も、あんたに──」
「私の名前は菜穂子。あんたじゃないよ」

 ぴしゃりと菜穂子が注意をすれば、瑞穂は露骨にムッとする。でも、すぐにカップラーメンを持ったまま、モジモジし始めた。

「……その……ごめん」
「ううん、いいよ。ただ立って食べるより、座った方が落ち着いて食べれるんじゃない?」
「……なほ姉は、変な人だね。お行儀悪いとか言わないし」

 あんた呼ばわりの次は、なほ姉ときた。距離の縮め方が豪快だなと思ったが、悪い気はしない。

「行儀作法にうるさい人は、卵とチーズを入れたカップラーメンを勧めたりなんかしないよ」
「ははっ、それはそうかも」

 笑いながら納得した瑞穂は、菜穂子が進めた椅子に座って再びカップラーメンを食べ始めた。    

「──ところで、なほ姉……どうしてこんなところにいるの?」

 カップラーメンを半分ほど食べた瑞穂は、おもむろに箸を置いて菜穂子を見た。

「実は……お手洗いを借りたら、帰り道がわかんなくなっちゃって」
「ウケる。っていうか、スマホですみ兄にヘルプ出せば良かったじゃん」
「すぐに戻るつもりだったから、スマホ持って来なかったんだよねぇ」
「トロいね」
「……ははは」

 容赦ない瑞穂の評価に、菜穂子は乾いた笑い声を上げることしかできない。

「っていうか、いいの?ずっと、こんなところにいて」
「うん、まぁ……瑞穂ちゃんが食べ終わるまではここにいるよ」
「どうして?」
「だって一人で食べてると、味が半減しちゃうじゃん」

 当たり前のことを言っただけなのに、瑞穂は大きく目を見開いた。

「……瑞穂ちゃん?」
「なほ姉……あのね」
「うん」
「私……ね、聞いてほしいことがあるの。すみ兄のことで……」
「うん」

 瑞穂は今、必死に勇気をかき集めて何かを伝えようとしてくれている。

 それがわかった菜穂子は、急かすことなく瑞穂が次に放つ言葉を待つ。

「あのね、すみ兄は──」
「ちょっと、瑞穂さん!やっと見つけたわ。あなた、こんなところで何を食べてるのっ。意地汚い!」

 瑞穂の掠れ声を掻き消したのは、子供の入学式に着ていきそうなスーツ姿の中年女性だった。

 宴に招かれた一人であり、ついさっき菜穂子と真澄に祝いの言葉を送った女性でもある。

「……あの人、ママのお姉さん」
「うん、知ってる」

 こそっと囁かれた瑞穂の声音から深い憎悪が感じられ、二人の関係が良好とは言い難いことを菜穂子は察してしまった。
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