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絡まる想い
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「……え、江上……君……?」
縋るような眼差しを航平に向けているように見える菜穂子だが、内心、彼の取った行動に「なんてことをしてくれるんだ!」と苛立つ気持ちが少なからずある。
自分が招かれざる客を演じてさっさと退場すれば、この場は丸く収まったのに。
所長には後でちょっと迷惑をかけるかもしれないが、日ごろから「土下座はタダだ」と豪語しているから、きっと上手に先方に謝ってくれるだろう。
真澄個人に対しては、後で菜穂子が謝ればいい。怒らせるつもりはなかった。どうしても断れなかった。自らの意思で祝賀会に参加したわけじゃないと、必死に釈明すれば怒りを鎮めてくれるだろう。
それでも怒るなら、仕事とプライベートは分けるって言ったじゃん!と逆切れすればいい。ん?……あれ??
ここで菜穂子は、真澄が取った行動に違和感を覚えた。
しかしそれを深く考える間もなく、航平が口を開く。
「早波さんが嫌がってるのに、あんた何やってるんですか?」
「早波?」
あんた呼ばわりされたことより、菜穂子が旧姓で呼ばれたことに真澄は不快感をあらわにした。
それをどう受け止めたのかわからないが、航平は眉を吊り上げる。
「うちの事務所の大切なスタッフなんで、乱暴なことしないでくれますか?」
物怖じせず菜穂子を守ろうとする航平は、無駄にカッコイイ。
しかし状況が状況だけに、菜穂子はときめくどころか、嫌な汗しか出てこない。
「江上君、ちょっと落ち着こ……ね?」
「は?」
「は?」
火花を散らす真澄と航平をなだめようとしただけなのに、二人から睨まれてしまい、菜穂子は頭を抱えたくなる。
「菜穂ちゃん、来い」
「行く必要なんかないですよ、早波さん。俺と一緒にいましょう」
「は?お前、死にたいのか。菜穂ちゃんは俺の──」
「はい!行きましょう!!」
妻だ、と言いそうな勢いだった真澄を止めるべく、菜穂子は真澄の腕を掴んで会場の外へと歩き出した。
モーセが海を割ったように、菜穂子と真澄が歩き出すと招待客は無言で道を譲る。その中には、純玲と耀太もいた。
純玲は世界中の憎悪を凝縮した視線を菜穂子に向け、耀太は「え?は?え??」と言いたげに、菜穂子と真澄を交互に見つめている。
それらを横目で見ながら、菜穂子は足を止めずに真澄をチラッと見る。
「寒いけど、非常階段で話しできる?」
「……空いてる部屋があるからそこにしてくれ」
部屋番号を告げる真澄に、菜穂子は小さく頷いて会場の外へ出た。
エレベーターホールは閑散としていて、さっきまでのざわめきが嘘みたいだ。
真澄の腕を離した菜穂子はエレベーターのボタンを押して、到着を待つ。
「……ところでさ、私がその部屋行っていいの?」
「何が訊きたいんだ?」
質問を質問で返され、菜穂子は口をつぐむ。一応、気を遣ってあげたのに。
「別に行っていいなら、行くよ。一応確認したかっただけ」
「だから、なんの確認なんだ?」
しつこく尋ねてくる真澄に、菜穂子はイラッとする。
「部屋に女性がいたら、困るんじゃないかって思っただけ!」
こんなこと言いたくなかったのに、言わせたのは真澄の責任だ。全部、彼が悪い。
そう居直った菜穂子だが、真澄の顔を見て唇をかむ。
真澄は、酷く傷ついた顔をしていた。
縋るような眼差しを航平に向けているように見える菜穂子だが、内心、彼の取った行動に「なんてことをしてくれるんだ!」と苛立つ気持ちが少なからずある。
自分が招かれざる客を演じてさっさと退場すれば、この場は丸く収まったのに。
所長には後でちょっと迷惑をかけるかもしれないが、日ごろから「土下座はタダだ」と豪語しているから、きっと上手に先方に謝ってくれるだろう。
真澄個人に対しては、後で菜穂子が謝ればいい。怒らせるつもりはなかった。どうしても断れなかった。自らの意思で祝賀会に参加したわけじゃないと、必死に釈明すれば怒りを鎮めてくれるだろう。
それでも怒るなら、仕事とプライベートは分けるって言ったじゃん!と逆切れすればいい。ん?……あれ??
ここで菜穂子は、真澄が取った行動に違和感を覚えた。
しかしそれを深く考える間もなく、航平が口を開く。
「早波さんが嫌がってるのに、あんた何やってるんですか?」
「早波?」
あんた呼ばわりされたことより、菜穂子が旧姓で呼ばれたことに真澄は不快感をあらわにした。
それをどう受け止めたのかわからないが、航平は眉を吊り上げる。
「うちの事務所の大切なスタッフなんで、乱暴なことしないでくれますか?」
物怖じせず菜穂子を守ろうとする航平は、無駄にカッコイイ。
しかし状況が状況だけに、菜穂子はときめくどころか、嫌な汗しか出てこない。
「江上君、ちょっと落ち着こ……ね?」
「は?」
「は?」
火花を散らす真澄と航平をなだめようとしただけなのに、二人から睨まれてしまい、菜穂子は頭を抱えたくなる。
「菜穂ちゃん、来い」
「行く必要なんかないですよ、早波さん。俺と一緒にいましょう」
「は?お前、死にたいのか。菜穂ちゃんは俺の──」
「はい!行きましょう!!」
妻だ、と言いそうな勢いだった真澄を止めるべく、菜穂子は真澄の腕を掴んで会場の外へと歩き出した。
モーセが海を割ったように、菜穂子と真澄が歩き出すと招待客は無言で道を譲る。その中には、純玲と耀太もいた。
純玲は世界中の憎悪を凝縮した視線を菜穂子に向け、耀太は「え?は?え??」と言いたげに、菜穂子と真澄を交互に見つめている。
それらを横目で見ながら、菜穂子は足を止めずに真澄をチラッと見る。
「寒いけど、非常階段で話しできる?」
「……空いてる部屋があるからそこにしてくれ」
部屋番号を告げる真澄に、菜穂子は小さく頷いて会場の外へ出た。
エレベーターホールは閑散としていて、さっきまでのざわめきが嘘みたいだ。
真澄の腕を離した菜穂子はエレベーターのボタンを押して、到着を待つ。
「……ところでさ、私がその部屋行っていいの?」
「何が訊きたいんだ?」
質問を質問で返され、菜穂子は口をつぐむ。一応、気を遣ってあげたのに。
「別に行っていいなら、行くよ。一応確認したかっただけ」
「だから、なんの確認なんだ?」
しつこく尋ねてくる真澄に、菜穂子はイラッとする。
「部屋に女性がいたら、困るんじゃないかって思っただけ!」
こんなこと言いたくなかったのに、言わせたのは真澄の責任だ。全部、彼が悪い。
そう居直った菜穂子だが、真澄の顔を見て唇をかむ。
真澄は、酷く傷ついた顔をしていた。
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