私を殺して、幸せになろうだなんて思うなよ ~死に戻った令嬢が選ぶ、妹への復讐~

当麻月菜

文字の大きさ
16 / 25

彼女が選んだ復讐とは⑤

しおりを挟む
「やれやれ、君は被害者なのに、蚊帳の外にいるね。……やっぱり、二人っきりになれる場所に行った方が有意義な時間を過ごせたね」

 そっと囁いたラヴィエルの言葉は、甘い響きを持っていたけれど、その眼は物騒に光っていた。

 そんな彼に向かいフローレンスは薄く笑う。

「お見苦しいものを見せてしまって、お許しください。でも、こんなもの……いつものことですわ」

 フローレンスが父親からずっと優等生を求められていたのは、見栄と体裁だけじゃない。優秀でいてくれれば、その分リコッタに割く時間が増えるから。

 そして継母が血の繋がらない娘が優秀でいることに不満を持たなかったのは、平民出身の自分でもこれだけの娘を育てられたのだと吹聴できるから。

 要は、利己主義な両親にフローレンスはずっといいように使われていたのだ。

 けれどもそんな両親の手を焼かせ続けてきたリコッタは、髪を振り乱しながら金切り声を上げる。

 その内容は信じられないものだった。

「私は殺そうとしてなんかいないわよっ!あんたが私に頼んだんじゃないっ。背中を押してくれって」

 苦し紛れにも程があるその言葉に、ここにいる全員が目を丸くした。フローレンスさえ。

 それを手ごたえだと受け取ったリコッタは、言葉を続ける。

「あんたはラヴィエル様と結婚したくないって言ってたじゃないっ。怪我をすれば、それを理由に婚約破棄ができるって。私だってそんなことしたくなかったけれど、あんたに脅されてやったのよ!? 急に良い子ちゃんぶって、被害者面するのやめてよね!!」

 バンッと両手を床に叩きつけて、リコッタは一気にまくし立てた。

 そして、あまりに突拍子もないリコッタの発言に、居間は沈黙に包まれる。

「───……そ、そうなのか?」

 長い沈黙の後、最初に口を開いたのはアールベンだった。

「そうなの。お父様、酷いでしょ?……ねえ、お父様は私のこと信じてくださいますよね?」
「ああ、もちろんだ」
「嬉しいですわ。お父様ならそう言ってくれると思ってました。……お母様も、お父様と同じ気持ちですよね?」
「……ええ、まぁ……そうね」

 計算高いヴェラッザは、ちらりと公爵家嫡男を見てから曖昧に頷いた。自分の横にいるラヴィエルは今、どんな表情を浮かべているのかわからない。

「ねえ、酷いのはどっちよ。私を悪者にして、あんた何様なの? どう責任取ってくれるのよっ」

 二人の味方を得たリコッタは、フローレンスに向かって挑むような眼差しを向けた。

(……へぇ、なるほど。とことん、遣り合う気なのね)

 フローレンスは信じられないといった感じで大きく目を見開き、両手を口元に当てているが、内心、受けて立つ気満々だった。 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

処理中です...