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☆閑話☆ 共犯者からの有難くない忠告
3
イクセルの義母──リリーシェは、公爵夫人になるために己の名を捨て、たった半年で貴族作法を身に着けたガッツのある女性だ。
そしてハングリー精神が強く、実の息子を侯爵家の次期当主にさせようと、日々目論んでいる。
しかし、あの手この手を使ってイクセルからその座を奪おうとするが、全て空振りに終わっている。
「ったく……懲りない女だ」
やれやれと言いたげに肩をすくめたイクセルだが、アンジェリカの表情は深刻なままだ。
「心外ですね殿下。まさか私があの女にしてやられるとでも?」
「そうね……これまでだったら貴方と一緒になって笑っていられたけど、今回は……」
「あの女が、洒落にならないような真似をしようとしているってことですか?」
イクセルの問いに、アンジェリカは僅かに顎を引いた。
「失礼だけど貴方のお義母様は、目先の欲望を追うせいで考えが浅いわ。でも、やると決めたら、絶対に成し遂げる強さがある。そこはわたくしたちと同じ」
「同じじゃない」
食い気味に否定したイクセルに、アンジェリカは「はいはい、そうね」と雑な返事をしてから言葉を続ける。
「貴方とわたくしが婚約する可能性はゼロではないの。お父様は諦めているけれど、わたくしは、そろそろ本気で伴侶を決めなくてはならない年齢だわ。そしてとても嫌だけれど、貴方はわたくしの結婚相手として最有力候補のまま。だから貴方のお義母様は、貴方が執着している女性を排除しようと──」
「シアの身に危険が迫っているというのか?」
顔色を変えたイクセルに、アンジェリカは大きく頷いた。
「そう。しかも貴方のお義母様は、厄介な相手……リエンヌを殺した部族の残党と手を結んだわ」
「っ……!!」
驚きすぎて、イクセルは声が出なかった。
「非公開にしているけれど、リエンヌを殺した部族は全て排除できたわけじゃないんでしょ。わずかだけど、取り逃がしてしまったのよね」
「ええ。わが父の最大の失態だ」
「でも、その事実は闇に葬られてしまった。お父様も、混乱を恐れて闇に葬ることをお認めになってしまったから、アベンス卿に罪は問えないわ。ねえ、イクセル。貴方がこの砦を占拠してたのは、アベンス卿が成し遂げることができなかったリエンヌを殺した部族の残党を駆逐するためよね?でも、アベンス卿の雪辱を晴らすためじゃない。自分の方が実力があることを見せつけ、父親に隠居を迫るためでしょ?」
アンジェリカの問いに、イクセルは頷かない。けれど、否定をしないのが答えである。
「慰労会をするってことは、駆逐が成功したのよね。そして明後日開催する慰労会で、貴方は己の功績を大々的に公表をする。その場にリアンドがいれば、絶好の証人にもなるわ。当主交代を議会に申し立てた際に、有利に働くもの。そして貴方が当主になれば、誰と結婚しようが文句を言える者はいない。仮に言ったとしても、今より強大な権力があれば黙らせることができる。貴方が取った行動は、もっとも確実な方法で……正直羨ましいわ」
溜息を吐いたアンジェリカは、本当に悔しそうだ。
アンジェリカは王族であるが故に、自由がない。好きな男性を一目見たくても、相当な知恵と労力を必要とする。
なんでも持っているように見える王女だが、一番手に入れたいものは手中に収めることができない。
「そんな殿下のために、私がいるのです。殿下が動けない代わりに、私が動きます。喜んで手と足になりましょう。この協定は、私たち両名の目的が達成するまで続きます」
淡々とした口調で告げるイクセルに、アンジェリカは笑みを浮かべた。
「そうね、そうだったわ。ちょっと弱気になっただけ……イクセル。今のは、忘れなさい。命令よ」
「御意に」
「で、本題だけど……」
「残党を駆逐しきっていなかったということですね」
「正確には、部族を追放されたゴロツキと貴方のお義母様が手を組んだ、というのが正しいわ。ゴロツキとはいえ、未だ四大家門の力を欲しているはずよ。フェリシアは四大家門の唯一の令嬢で、貴方のお義母様にとって邪魔な存在……これまで無事だったのが奇跡。いつ攫われてもおかしくない状況ね」
「シアに目をつけるなんて怖いもの知らずだな。エイリットの母親じゃなければ、さっさと地中に埋めれるというのに。実に、厄介だ」
腕を組んで溜息を吐いたイクセルの表情は険しい。
フェリシアには、アベンス家直属の精鋭護衛をこっそり二十名以上つけているから、まず攫われることはない。彼女の身の安全だけは、絶対に大丈夫だと断言できる。
とはいえ四大家門にとってヨーシャ家長女リエンヌ誘拐殺害事件は、口にするのも憚られる痛ましい事件だ。
そんな触れてはいけない事柄に、よりにもよって四大家門のアベンス家が関与していたとなれば、大事件である。
フェリシアとの結婚以前の問題で、最悪、アベンス家は爵位を失いかねない。
捨て身の手段だとしても、あまりに危険なリリーシェの選択にイクセルは豪快に舌打ちした。
「このことを知ってる者はいかほどですか?殿下」
「わたくしと、貴方だけよ。貴方が不利になることは言わないわ」
つまりフリードリクと、リアンドには知られていないということだ。
「それは不幸中の幸いですね。だが色んな意味で、早急な対応をしないといけないな」
「ええ。でも慰労会を中止にする気はないんでしょ?」
「もちろん」
なぜなら、フェリシアとの契約は明後日で終了してしまうから。
これまで姑息な計算ばかりしてきたイクセルだが、それが無意味であることに気づいてしまった。だから、慰労会でフェリシアに真実を告げようと決めている。
それで更に嫌われても、諦めるつもりはない。また好きになってもらえるよう努力するだけだ。
「慰労会は明後日よ。早急に対応すると言っても、時間はないわ。大丈夫?」
「今から考えます」
自信たっぷりに言ったイクセルに、アンジェリカは「本当に?」と問い詰めようとしてやめた。
これまでイクセルは、惚れた女のことになれば、必ずどうにかしてきた。きっと今回もどうにかするだろう。
「じゃあ、伝えることは伝えたから、わたくしは休ませてもらうわ」
「そうしてください。ところで宿の手配は?」
「宿の手配?なぁにそれ」
キョトンとするアンジェリカに、イクセルはこっそり溜息を吐く。
「……そういうところだけ王族なのですね」
「なにかおっしゃった?」
「いえ。ここと、宿。どちらをご用意いたしましょう」
「任せるわ。お湯がいつでも使えて、部屋で食事が取れて、朝食にビスコットとジャムが5種類あって、身支度を整えてくれる侍女がいれば、どこでもいいわ」
そんなところ、この村にはない。
これだから王族は、と言いかけたイクセルだが、小言を吞みこみ机に置いてあるベルを鳴らした。
「かしこまりました。ではこの砦でお過ごしください」
むさくるしい男ばかりだが、客人の部屋を整えるぐらいはできる。身支度などの世話は、アベンス家の使用人を移動ゲートで呼び寄せようと決めたイクセルは、アンジェリカにお茶を淹れ直す。
「少しお時間をいただきますので、もう少しこちらでおくつろぎください」
「ありがとう……と、言いたいところだけれど、フリードリクのところに行くわ。あまりこの部屋にいると、誤解を招きそうだし」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「貴方に気を遣ってるんじゃないわ」
即答したアンジェリカは、スッと立ち上がると扉に近づく。イクセルは、アンジェリカの足を止めぬよう大股で近づくと、扉を開けた。
「迷わぬよう、案内を付けますか?」
「結構よ。部屋が整ったら、呼びに来てちょうだい……ねぇ、イクセル」
「なんでしょう?」
立ち止まったアンジェリカは、これ以上ないほど申し訳なさそうな顔をしていた。
「改めて、お詫びさせて。貴方の恋路を邪魔しちゃったこと。ごめんなさい……」
急にしおらしくなったアンジェリカに、イクセルはプッと噴き出した。
「王族がむやみに謝罪してはなりませんよ。それに貴女にそんな態度を取られたら、雨でも降りそうだ」
「ちょっと!」
ムッとしたアンジェリカに、イクセルは意味深な笑みを浮かべて、こう言った。
「雨はこりごりなんですよ。良からぬものを運んできますから」
そしてハングリー精神が強く、実の息子を侯爵家の次期当主にさせようと、日々目論んでいる。
しかし、あの手この手を使ってイクセルからその座を奪おうとするが、全て空振りに終わっている。
「ったく……懲りない女だ」
やれやれと言いたげに肩をすくめたイクセルだが、アンジェリカの表情は深刻なままだ。
「心外ですね殿下。まさか私があの女にしてやられるとでも?」
「そうね……これまでだったら貴方と一緒になって笑っていられたけど、今回は……」
「あの女が、洒落にならないような真似をしようとしているってことですか?」
イクセルの問いに、アンジェリカは僅かに顎を引いた。
「失礼だけど貴方のお義母様は、目先の欲望を追うせいで考えが浅いわ。でも、やると決めたら、絶対に成し遂げる強さがある。そこはわたくしたちと同じ」
「同じじゃない」
食い気味に否定したイクセルに、アンジェリカは「はいはい、そうね」と雑な返事をしてから言葉を続ける。
「貴方とわたくしが婚約する可能性はゼロではないの。お父様は諦めているけれど、わたくしは、そろそろ本気で伴侶を決めなくてはならない年齢だわ。そしてとても嫌だけれど、貴方はわたくしの結婚相手として最有力候補のまま。だから貴方のお義母様は、貴方が執着している女性を排除しようと──」
「シアの身に危険が迫っているというのか?」
顔色を変えたイクセルに、アンジェリカは大きく頷いた。
「そう。しかも貴方のお義母様は、厄介な相手……リエンヌを殺した部族の残党と手を結んだわ」
「っ……!!」
驚きすぎて、イクセルは声が出なかった。
「非公開にしているけれど、リエンヌを殺した部族は全て排除できたわけじゃないんでしょ。わずかだけど、取り逃がしてしまったのよね」
「ええ。わが父の最大の失態だ」
「でも、その事実は闇に葬られてしまった。お父様も、混乱を恐れて闇に葬ることをお認めになってしまったから、アベンス卿に罪は問えないわ。ねえ、イクセル。貴方がこの砦を占拠してたのは、アベンス卿が成し遂げることができなかったリエンヌを殺した部族の残党を駆逐するためよね?でも、アベンス卿の雪辱を晴らすためじゃない。自分の方が実力があることを見せつけ、父親に隠居を迫るためでしょ?」
アンジェリカの問いに、イクセルは頷かない。けれど、否定をしないのが答えである。
「慰労会をするってことは、駆逐が成功したのよね。そして明後日開催する慰労会で、貴方は己の功績を大々的に公表をする。その場にリアンドがいれば、絶好の証人にもなるわ。当主交代を議会に申し立てた際に、有利に働くもの。そして貴方が当主になれば、誰と結婚しようが文句を言える者はいない。仮に言ったとしても、今より強大な権力があれば黙らせることができる。貴方が取った行動は、もっとも確実な方法で……正直羨ましいわ」
溜息を吐いたアンジェリカは、本当に悔しそうだ。
アンジェリカは王族であるが故に、自由がない。好きな男性を一目見たくても、相当な知恵と労力を必要とする。
なんでも持っているように見える王女だが、一番手に入れたいものは手中に収めることができない。
「そんな殿下のために、私がいるのです。殿下が動けない代わりに、私が動きます。喜んで手と足になりましょう。この協定は、私たち両名の目的が達成するまで続きます」
淡々とした口調で告げるイクセルに、アンジェリカは笑みを浮かべた。
「そうね、そうだったわ。ちょっと弱気になっただけ……イクセル。今のは、忘れなさい。命令よ」
「御意に」
「で、本題だけど……」
「残党を駆逐しきっていなかったということですね」
「正確には、部族を追放されたゴロツキと貴方のお義母様が手を組んだ、というのが正しいわ。ゴロツキとはいえ、未だ四大家門の力を欲しているはずよ。フェリシアは四大家門の唯一の令嬢で、貴方のお義母様にとって邪魔な存在……これまで無事だったのが奇跡。いつ攫われてもおかしくない状況ね」
「シアに目をつけるなんて怖いもの知らずだな。エイリットの母親じゃなければ、さっさと地中に埋めれるというのに。実に、厄介だ」
腕を組んで溜息を吐いたイクセルの表情は険しい。
フェリシアには、アベンス家直属の精鋭護衛をこっそり二十名以上つけているから、まず攫われることはない。彼女の身の安全だけは、絶対に大丈夫だと断言できる。
とはいえ四大家門にとってヨーシャ家長女リエンヌ誘拐殺害事件は、口にするのも憚られる痛ましい事件だ。
そんな触れてはいけない事柄に、よりにもよって四大家門のアベンス家が関与していたとなれば、大事件である。
フェリシアとの結婚以前の問題で、最悪、アベンス家は爵位を失いかねない。
捨て身の手段だとしても、あまりに危険なリリーシェの選択にイクセルは豪快に舌打ちした。
「このことを知ってる者はいかほどですか?殿下」
「わたくしと、貴方だけよ。貴方が不利になることは言わないわ」
つまりフリードリクと、リアンドには知られていないということだ。
「それは不幸中の幸いですね。だが色んな意味で、早急な対応をしないといけないな」
「ええ。でも慰労会を中止にする気はないんでしょ?」
「もちろん」
なぜなら、フェリシアとの契約は明後日で終了してしまうから。
これまで姑息な計算ばかりしてきたイクセルだが、それが無意味であることに気づいてしまった。だから、慰労会でフェリシアに真実を告げようと決めている。
それで更に嫌われても、諦めるつもりはない。また好きになってもらえるよう努力するだけだ。
「慰労会は明後日よ。早急に対応すると言っても、時間はないわ。大丈夫?」
「今から考えます」
自信たっぷりに言ったイクセルに、アンジェリカは「本当に?」と問い詰めようとしてやめた。
これまでイクセルは、惚れた女のことになれば、必ずどうにかしてきた。きっと今回もどうにかするだろう。
「じゃあ、伝えることは伝えたから、わたくしは休ませてもらうわ」
「そうしてください。ところで宿の手配は?」
「宿の手配?なぁにそれ」
キョトンとするアンジェリカに、イクセルはこっそり溜息を吐く。
「……そういうところだけ王族なのですね」
「なにかおっしゃった?」
「いえ。ここと、宿。どちらをご用意いたしましょう」
「任せるわ。お湯がいつでも使えて、部屋で食事が取れて、朝食にビスコットとジャムが5種類あって、身支度を整えてくれる侍女がいれば、どこでもいいわ」
そんなところ、この村にはない。
これだから王族は、と言いかけたイクセルだが、小言を吞みこみ机に置いてあるベルを鳴らした。
「かしこまりました。ではこの砦でお過ごしください」
むさくるしい男ばかりだが、客人の部屋を整えるぐらいはできる。身支度などの世話は、アベンス家の使用人を移動ゲートで呼び寄せようと決めたイクセルは、アンジェリカにお茶を淹れ直す。
「少しお時間をいただきますので、もう少しこちらでおくつろぎください」
「ありがとう……と、言いたいところだけれど、フリードリクのところに行くわ。あまりこの部屋にいると、誤解を招きそうだし」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「貴方に気を遣ってるんじゃないわ」
即答したアンジェリカは、スッと立ち上がると扉に近づく。イクセルは、アンジェリカの足を止めぬよう大股で近づくと、扉を開けた。
「迷わぬよう、案内を付けますか?」
「結構よ。部屋が整ったら、呼びに来てちょうだい……ねぇ、イクセル」
「なんでしょう?」
立ち止まったアンジェリカは、これ以上ないほど申し訳なさそうな顔をしていた。
「改めて、お詫びさせて。貴方の恋路を邪魔しちゃったこと。ごめんなさい……」
急にしおらしくなったアンジェリカに、イクセルはプッと噴き出した。
「王族がむやみに謝罪してはなりませんよ。それに貴女にそんな態度を取られたら、雨でも降りそうだ」
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