前世の私が邪魔して、今世の貴方を好きにはなれません!

当麻月菜

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第3章 前世の私が邪魔して、今世の貴方の気持ちがわかりません

7

「貴方、自分が何を言ったか……わかってます……の?」

 少しの沈黙の後、フェリシアはかすれ声でイクセルに問いかけた。

「ああ、もちろんわかっている」

 キリッとした顔で言われてしまうと、返す言葉が見つからない。

「そ、そう。わかっている……わかっているのでしたら、別にいいんですけど……」

 歯切れ悪く答えるフェリシアの頬を、イクセルは再び撫で上げる。

 ぞわりと、不快ではない感情が暴れて、フェリシアはすすすっとイクセルから距離を取る。

「参ったな。これでは私が貴女を困らせているようだ」

 ため息交じりに肩をすくめるイクセルに、フェリシアは呆れ顔になった。

「困らせるも何も、困ってるんです。それに気づいていらっしゃるなら、そういうことはおやめになって」
「無理だと言ったら?」
「なん……!」
「この程度の触れ合いすら許してもらえないのは、かなり辛い」

 本気で刺されたかのように沈痛な表情を浮かべるイクセルに、フェリシアは頭を掻きむしりたくなる。

(ああ、もうっ!このすけこまし!!)

 どういうつもりで言っているのか問い詰めたくなるが、返ってくる答えが望むものではないのはわかっている。

 そして、望まない答えを冷静に受け止められるほど、フェリシアは強い女性じゃない。

「イクセル様、貴方はわたくしが嫌がることをなさるおつもり?」
「まさか」

 即答したイクセルに、フェリシアは畳みかけるように口を開く。

「では、これからわたくしが”やめて”と言ったら、絶対にやめてくださいませ。いいですね?」
「……わか、いやでも……ああ、わかった。わかった」
 
 渋々頷いたイクセルは、とても不満そうだったが、フェリシアはそれを無視して歩き出す。

「こんなやりとりだけで、今日を終わらせるおつもりですか?行きますわよ」

 主導権を握ったフェリシアが、ずんずんと広場に向かえば、イクセルは忠実な犬のように追いかける。

「待ってくれ」

 そう言ってスマートに手を繋ぐイクセルに、フェリシアは身を固くする。

「さっきは嫌と言わなかったから、これはいいはずだ」

 ああ……なぜあの時、強く拒まなかったのだろう。

 今日一日このまま手を繋いでいたら、心臓が壊れるかもしれない。いや、壊れるくらいならまだいいが、隠したい気持ちまでバレたら本気で死ぬ。

 そんな不安と後悔を抱えていても、やっぱりイクセルと手をつなげることが嬉しくて、フェリシアは、精一杯「まったく仕方がないわね」という顔をした。



 広場に到着した途端、イクセルの表情が厳しくなった。お仕事モードに入ったようだ。

「気になるところがありましたら、席を外しますわよ?」
「つまらない冗談はやめてくれ。ここに危険がないか確認していただけだ。貴女に何かあったら大変だからな」
「モネに怒られますものね」
「いや、私が耐えられない」
「あ、あー……そーですか」

 いっそお馬鹿な乙女になって、イクセルの言葉で一喜一憂したい。

 フェリシアは真っ青な空を見上げて、遠い目をする。入道雲が見事だこと。

「屋台をのぞくのは初めてだろう?なにか食べたいものはあるか?」

 尋ねられて辺りの店をぐるりと見渡す。当然、かき氷や、りんご飴などはない。

「おすすめのものはありますか?」
「んー……そうだなぁ……貴女の口に合いそうなものは……」

 空いてる方の手を顎に当てて考え込むイクセルは、本気で悩んでいるようだ。

(別に……適当に選んでくれればいいのに)

 憎まれ口を心の中で叩く反面、自分のために真剣になってくれるイクセルの優しさが嬉しくてたまらない。

(今のイクセルの頭の中は、わたくしだけがいる)
 
 この感情は、間違いなく独占欲だ。恋をしていると自覚した途端に、これだ。実らないとわかっているのに、どうしてこう厄介な感情を持ってしまうのだろう。

「イクセル様、あの、あちらが気になりますわ!」

 底なし沼にはまるような感覚にとらわれたフェリシアは、気を強く持つために適当な屋台を勢いよく指さした。

 すぐさまイクセルが怪訝な顔をする。

「え?あそこ……ですか?あれで、間違いないですか?」

 イクセルが二度聞きするのも無理はない。フェリシアが指さしたのは、豪快な肉を売る屋台だったのだ。

 女子力高めのスウィーツや、珍しい果実を売っている屋台だってたくさんあったのに、よりにもよってここなんて。

 己の適当さに嘆きたいけれど、屋台のいかつい店主は、肉串にたれを付けてフェリシアたちの到着を待っている。もう後には引けない。

「ええ、そう。間違いないわ。わたくし、あそこに行ってみたいですの!」

 やけくそになったフェリシアは、イクセルの手を引き歩き出す。

 屋台に近づけば近づくほど、食欲をそそる肉汁の香りが鼻孔をくすぐり、フェリシアのお腹がキュルルンと愛らしく鳴く。

「っ……!」
「ははっ。急ごう」

 紳士たるもの、こういう時は聞こえないふりをするべきなのに。

 弱みを握られたような気持ちになりつつも、幻滅しないイクセルに、フェリシアは心の底からほっとした。
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