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一部 別居中。戻る気なんて0ですが......何か?
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姿勢を元に戻したシダナは、改めてアルビスを見た。
雪が降っているのにも関わらずアルビスは軽装だった。人前に出るときに必ず羽織るローブも、身に付けていない。アルビスのすぐ傍にいるヴァーリも同じく軽装で。
よほど慌ててここまで飛んで来たのだろう。ヴァーリはアルビスの腕をつかんで止めようとして、一緒に付いてきたということか。
そんなふうに冷静に分析したシダナが口に出した言葉は、随分と意地の悪いものだった。
「陛下、このようなところで待ち伏せせずとも、いっそ城の中で待てばよろしかったのでは?」
わざと煽るようなことを言えば、アルビスは露骨に顔を顰めた。
「あそこは先代の護りがある。この寒空の下、水堀を泳げというのか?」
吐き捨てるように言ったアルビスの返しに、シダナは吹き出しそうになった。
この帝国で魔法が栄えていた頃、初代の聖皇后が余生を過ごしたトゥ・シェーナ城は、初代聖皇帝の強い魔力でどんな魔法も無効化する強い結界が張られていた。それは今でも力を失っていないらしい。
だがアルビスはこの国の皇帝だ。魔法を使って入城しなくても、堂々と開門を告げればいいだけだ。それなのに的はずれな言い訳をするということは、本当の理由を言いたくないのだろう。
そう結論付けたシダナは、もう一度丁寧に腰を折った。
「政務をおろそかにして申し訳ありませんでした。馬車の中に仕事を置いてきてますので、わたくしはそれを片付けながら戻ることにします。陛下はどうぞヴァーリと共にお戻りください」
シダナは遠回しに、ヴァーリを押し付けられたら困るとアルビスに訴えた。
なにせ馬車は狭いし、シダナが座る場所以外は書類で埋め尽くされている。大柄なヴァーリが座るところなどないし、仮に座れたとしても邪魔なだけだ。
けれどアルビスは、否とも是とも言わない。
空は完全に雲で覆われ、雪は絶え間なく降り続いている。
3人の髪と肩が、均等に白く染まり──さすがにシダナが寒さを覚えた頃、ようやっとアルビスが口を開いた。
「……あれは」
「は?」
「あれはどうしていた?少しは食事を取れるようになっていたか?」
アルビスが切なそうに見つめる場所は、トゥ・シェーナ城。
佳蓮はそこへ移る前から、ほとんど食事を取ることができなくなっていた。そのことは北方視察に戻ったアルビスの耳にも入っていた。
「あいにく食事を共にしたわけではございません……ですが、ずいぶんお痩せになられておりました」
言いにくいことではあるが、隠すべきことでもない。
ありのまま伝えたシダナだけれども、すぐに付け加える。
「ただ、わたくしにお茶をぶっかけるくらいの元気はありました」
「カレンに何をした」
途端に厳しい口調になったアルビスに対して、シダナは表情を変えずにさらりと答える。
「お戻りになるよう説得を……といっても、首を縦に振ってはもらえませんでしたが」
「余計なことをするな」
抑えきれない怒りの情が、燃えるようにアルビスの深紅の瞳を火照らせる。だがその瞳は、すぐに翳りを帯びた。
「そっとしておいてやれ……すべての非はこの私にあるのだから」
アルビスは懺悔をするように呟いた。
しかしその表情は、うっかりグラスを割ってしまいオロオロしている幼子みたいだ。
アルビスは己の罪を認めてはいるけれど、この後どうしていいのかわからず戸惑っている。そしてそこから目を背けようともしている。
(陛下、逃げることだけは許されません)
シダナはぐっと握りこぶしを作ると、アルビスへと一歩近付いた。
「陛下、わたくしは先程、カレンさまが元の世界に戻りたいと理由を伺ってきました」
「……聞かなくてもわかる。ここより向こうが良いだけの事だろう」
諦めの混ざった拒絶の言葉に、シダナはゆっくりと首を横に振った。
「カレンさまが今でも元の世界に戻りたいのは、どちらが良いとか悪いとかそういうことではないのです」
「……では、なんだというのだ?」
意外そうな顔をしながら尋ねるアルビスに、シダナは答えない。その代わり、アルビスが一番食いつきそうな言葉を口にした。
「そうそう陛下、わたくしトウマ殿の話も伺ってまいりました。カレンさまとどんな関係だったかも」
予想通りアルビスの眉がピクリと跳ねた。
それを逃すまいと、シダナは口調を早めてアルビスを引き留める。
「わたくしは陛下に、カレン様が戻りたいと願い続ける理由を知って欲しいと思っています。どうか少しのお時間で結構ですので、語る許可をお与えください」
「……ここは寒い。馬車の中で聞こう」
「ありがとう存じます」
深く頭を下げたシダナは、すぐに顔を上げると身体の向きを変えた。
「馬車までご案内します」
アルビスはシダナの言葉に頷き、歩き出す。
そんな中、馬車の外で護衛をする気でいるヴァーリは「なら、これ貸して」と、シダナのマントを引っ張った。
その図々しい態度に苛立ったシダナは、ヴァーリの手の甲をつねりながら有無を言わせぬ口調で、こう言い放つ。
「ヴァーリ、お前も一緒に聞くんだ。それと、車内の片付けも手伝ってもらうぞ」
すぐさま「うげっ」というヴァーリの非難の声が聞こえたけれど、シダナは無視して歩き出した。
雪が降っているのにも関わらずアルビスは軽装だった。人前に出るときに必ず羽織るローブも、身に付けていない。アルビスのすぐ傍にいるヴァーリも同じく軽装で。
よほど慌ててここまで飛んで来たのだろう。ヴァーリはアルビスの腕をつかんで止めようとして、一緒に付いてきたということか。
そんなふうに冷静に分析したシダナが口に出した言葉は、随分と意地の悪いものだった。
「陛下、このようなところで待ち伏せせずとも、いっそ城の中で待てばよろしかったのでは?」
わざと煽るようなことを言えば、アルビスは露骨に顔を顰めた。
「あそこは先代の護りがある。この寒空の下、水堀を泳げというのか?」
吐き捨てるように言ったアルビスの返しに、シダナは吹き出しそうになった。
この帝国で魔法が栄えていた頃、初代の聖皇后が余生を過ごしたトゥ・シェーナ城は、初代聖皇帝の強い魔力でどんな魔法も無効化する強い結界が張られていた。それは今でも力を失っていないらしい。
だがアルビスはこの国の皇帝だ。魔法を使って入城しなくても、堂々と開門を告げればいいだけだ。それなのに的はずれな言い訳をするということは、本当の理由を言いたくないのだろう。
そう結論付けたシダナは、もう一度丁寧に腰を折った。
「政務をおろそかにして申し訳ありませんでした。馬車の中に仕事を置いてきてますので、わたくしはそれを片付けながら戻ることにします。陛下はどうぞヴァーリと共にお戻りください」
シダナは遠回しに、ヴァーリを押し付けられたら困るとアルビスに訴えた。
なにせ馬車は狭いし、シダナが座る場所以外は書類で埋め尽くされている。大柄なヴァーリが座るところなどないし、仮に座れたとしても邪魔なだけだ。
けれどアルビスは、否とも是とも言わない。
空は完全に雲で覆われ、雪は絶え間なく降り続いている。
3人の髪と肩が、均等に白く染まり──さすがにシダナが寒さを覚えた頃、ようやっとアルビスが口を開いた。
「……あれは」
「は?」
「あれはどうしていた?少しは食事を取れるようになっていたか?」
アルビスが切なそうに見つめる場所は、トゥ・シェーナ城。
佳蓮はそこへ移る前から、ほとんど食事を取ることができなくなっていた。そのことは北方視察に戻ったアルビスの耳にも入っていた。
「あいにく食事を共にしたわけではございません……ですが、ずいぶんお痩せになられておりました」
言いにくいことではあるが、隠すべきことでもない。
ありのまま伝えたシダナだけれども、すぐに付け加える。
「ただ、わたくしにお茶をぶっかけるくらいの元気はありました」
「カレンに何をした」
途端に厳しい口調になったアルビスに対して、シダナは表情を変えずにさらりと答える。
「お戻りになるよう説得を……といっても、首を縦に振ってはもらえませんでしたが」
「余計なことをするな」
抑えきれない怒りの情が、燃えるようにアルビスの深紅の瞳を火照らせる。だがその瞳は、すぐに翳りを帯びた。
「そっとしておいてやれ……すべての非はこの私にあるのだから」
アルビスは懺悔をするように呟いた。
しかしその表情は、うっかりグラスを割ってしまいオロオロしている幼子みたいだ。
アルビスは己の罪を認めてはいるけれど、この後どうしていいのかわからず戸惑っている。そしてそこから目を背けようともしている。
(陛下、逃げることだけは許されません)
シダナはぐっと握りこぶしを作ると、アルビスへと一歩近付いた。
「陛下、わたくしは先程、カレンさまが元の世界に戻りたいと理由を伺ってきました」
「……聞かなくてもわかる。ここより向こうが良いだけの事だろう」
諦めの混ざった拒絶の言葉に、シダナはゆっくりと首を横に振った。
「カレンさまが今でも元の世界に戻りたいのは、どちらが良いとか悪いとかそういうことではないのです」
「……では、なんだというのだ?」
意外そうな顔をしながら尋ねるアルビスに、シダナは答えない。その代わり、アルビスが一番食いつきそうな言葉を口にした。
「そうそう陛下、わたくしトウマ殿の話も伺ってまいりました。カレンさまとどんな関係だったかも」
予想通りアルビスの眉がピクリと跳ねた。
それを逃すまいと、シダナは口調を早めてアルビスを引き留める。
「わたくしは陛下に、カレン様が戻りたいと願い続ける理由を知って欲しいと思っています。どうか少しのお時間で結構ですので、語る許可をお与えください」
「……ここは寒い。馬車の中で聞こう」
「ありがとう存じます」
深く頭を下げたシダナは、すぐに顔を上げると身体の向きを変えた。
「馬車までご案内します」
アルビスはシダナの言葉に頷き、歩き出す。
そんな中、馬車の外で護衛をする気でいるヴァーリは「なら、これ貸して」と、シダナのマントを引っ張った。
その図々しい態度に苛立ったシダナは、ヴァーリの手の甲をつねりながら有無を言わせぬ口調で、こう言い放つ。
「ヴァーリ、お前も一緒に聞くんだ。それと、車内の片付けも手伝ってもらうぞ」
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