皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

文字の大きさ
11 / 148
一部 基本無視させていただきますが......何か?

しおりを挟む
 アルビスが温室に佳蓮を呼び出したのは、怖がらせるためでも、傷つけるためでもない。笑顔が見たかったから。

 欲を言えば”ありがとう”と言ってほしかった。この世界に来て良かったと言ってもらえたなら、それ以上なにも望むものはない。

 それほどにアルビスにとったら、待ち望んだ時間だった。

 目が回るほどの忙しい毎日の中やっと時間を作り、仕事の合間を縫って女性が喜びそうな贈り物を選び、それを身に着けてくれた佳蓮と一緒に過ごす時間を心待ちにしていた。

 そして毎日外ばかり見ている佳蓮に、「これはお前のものだから、好きな時に来ればいい」そう言って温室のカギを渡すつもりだった。

 秋の気配が日に日に色濃くなる中、日差しは穏やかだが吹きすさぶ風は冷たい。

 佳蓮はこの世界で唯一無二の存在だ。万が一、病になどなっては困る。いや、アルビス自身が佳蓮が病床に着くことなど耐えられなかった。

 ここは温かいし、離宮より外の景色がより良く見える。佳蓮は間違いなく気に入るだろうと、アルビスは確信を持っていた。

 けれどいざ蓋を開けてみれば、当の本人は笑みを浮かべるどころか強張った顔をして、ここに居ることが苦痛だと訴えている。

(まただ。また、間違ってしまった)

 アルビスは否が応でも、己の過ちに気付いてしまった。

 苛立ちに似た遣る瀬無さが全身を刺す。虚無感で身体が空っぽになってしまった錯覚すら覚えてしまう。

 でも本当はアルビスは知っている。何をどうすれば佳蓮が笑顔になるのかを。ありがとうと言ってもらえるのかを。
 
 けれど、それだけはどうしたって与えてやることができないから、必死に代わりのものを探してしまうのだ。

 それが互いの溝をどんどん深めてしまう行為でしかなくても、アルビスは佳蓮に愛されたいという望みを捨てきれないでいた。




 
 チョーカーを外そうと両手を首に回して格闘している佳蓮に、アルビスが口を開く。

「付き合え。これを飲んだら解放してやる」

 ローブを翻しさっさと席に着いたアルビスは、目線だけで佳蓮に早く座れと訴える。

「……」

 佳蓮は心の中で葛藤する。

 アルビスの言葉は、お茶に付き合わなければずっとここに居ろと脅しているようなものだ。

 とんでもなく上から目線での要求に腹が立つが、この苦痛な時間はすぐにでも終わらせたい。佳蓮は「大人になれ」と自分に言い聞かせ、嫌々ながら席に着く。

 騎士2人も音もなく移動する。シダナはアルビスの後ろに立ち、ヴァーリも佳蓮の背後に控えた。

 佳蓮にとっては逃亡防止の鉄格子のように感じて不快極まりないが、不毛な争いをするよりお茶を飲んでさっさと去るほうが利口である。

 大人しく席に着いた途端、アルビスが満足そうに頷くのが悔しくて佳蓮は唇を噛む。
 
 なんだかんだ言って、アルビスは佳蓮に対して譲歩なんかこれっぽっちもしない。自分の要求ばかりを押し通す。

 そして自分も不満を抱えていながら、アルビスの要求を呑んでいる。 

 このままずっとこうやって、この皇帝陛下の言いなりにならないといけないのだろうか。そんな不安がよぎり、佳蓮の不機嫌な表情は暗いものに変わっていく。

「それは気に入らなかったのか?」

 チョーカーを外そうとしたのを見ていたのか。佳蓮は盗み見するなと心の中で舌打ちするが、次の瞬間にっこりと笑顔になり口を開いた。

「あ、リュリュさん、お砂糖も一緒にお願いしまーす」

 佳蓮はものの見事にアルビスを無視した。

 けれど毎晩毎夜、佳蓮から無視をされているアルビスは、この程度のことでは動じない。

「気に入らなかったのなら、他の物を用意する。何が良い?」
「リュリュさん、ついでにミルクも付けてください」
「身を飾ることが嫌なのか?」
「リュリュさん、やっぱりミルクはやめます。ジャムとかありますか?……え?お茶に入れるんですよ。ハチミツがあるなら、それでもいいです。いえ、そっちの方が好きかな」

 まだお茶は置かれていない状態なのに、アルビスを視界に入れたくない気持ちから佳蓮は首を捻って温室の端にいる侍女にあれやこれやと注文を付ける。

「か、かしこ……まりまし……た」

 とばっちりを受けたリュリュは、この世の終わりのような表情を浮かべながら、震える手でお茶を淹れはじめた。
しおりを挟む
感想 534

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...