皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

文字の大きさ
43 / 148
一部 別居中。戻る気なんて0ですが......何か?

6

しおりを挟む
 佳蓮の涙を見た瞬間、シダナは己の行動を恥じるように目を伏せた。

 佳蓮の言葉を聞いて、涙を目にして、自分がどれだけおごっていたかを思い知らされたのだ。

 誰だって、どんな時だって、人は最低限の選択肢を与えられている。

 立ち去ること。立ち向かうこと。誰かに救いを求めること。

 けれど異世界の人間である佳蓮は、召喚されてから逃げることもできず、誰かに救いを求めることもできなかった。

「……申し訳なかったです」

 シダナは佳蓮に向かって、深く頭を下げた。

 けれど佳蓮は何も言わない。零れた涙を拭くことすらせず、じっと見つめるだけ。何を考えているのかさっぱりわからない。

 それでもシダナは懐からハンカチを取り出し、佳蓮に差し出す。

「カレンさま、本当にこれまでのこと……どうお詫び申し上げれば──」
「謝らないで」

 佳蓮はぴしゃりとシダナの言葉を遮った。

 これまでより厳しい口調ではないけれど、シダナは頬を引っ叩かれたように顔を歪めた。

 佳蓮は差し出されたハンカチになど見向きもしないで口を開く。

「あなた達は悪いことなんかしてないんでしょ?だったら私に謝る必要なんてないじゃん……それに、今更謝られたって遅すぎるよ」

 何も言い返すことができないシダナは、ただただ首を垂れた。

 そんなシダナを見つめながら、佳蓮は強く唇を噛んだ。

 元の世界とこの世界がまるっと違うことを伝えたくて、シダナに言葉を選ばず理由をぶつけてみた。

 彼のポカンとした表情を見たら、ほれみたことかと嘲笑って終わりにしようと思った。

 でも一度堰を切った言葉は止めることができなくて、自分でもびっくりするくらい止め処なく溢れてきた。

 でもシダナに伝えた理由は、もうどうにもならないこと。今は冬だ。文化祭なんてもうとっくに終わっている。

 行きたい大学だってあった。苦手な数学も1学期の終わりにはだいぶ順位があがった。先生もこのまま頑張れば大丈夫だと太鼓判を押してくれたけれど、センター試験を受けることすらできない。

 そもそもずっと学校に行っていないのだ。出席日数が足りなくて留年したら受験どころではない。

 高校三年生。人生において大切な岐路を迎えるこの時期に時間を奪われるということは、これから先の未来を奪われるのと同じだ。

 もう全部終わったと投げやりな気持ちになる。開き直って異世界で贅沢三昧の生活もいいかもとすら思ってしまう。

 だけど佳蓮はどうしても戻りたかった。自分の未来がどうなろうとも、自分の体を家族の元に届けたかった。

 元の世界では人一人が消えたら、とても大騒ぎになる。そのことをこの世界の人たちは知らない。

 未成年が消えたとなれば、メディアは心配する素振りを見せつつ面白おかしく報道するだろう。同情するコメントを吐きつつ、勝手なことを喋りまくるのだろう。ネットでは、もっとえげつないことを書き込まれる。

 その言葉で、受けた側がどれだけ傷付くのかなんてお構いなしに。

「シダナさんはさぁ、私が元の世界に戻りたい理由を知りたいって言ってたけど、ぜんぜん理解できてないじゃん。だからもうこれ以上この話をしても意味ないよ。それにあなたたち、私のこと人として見てないでしょ?」
「……カレンさま」

 シダナはこれまでのような威圧的な姿が嘘だったかのように眉を下げ、翡翠の瞳は縋るような色すら見せている。

(シダナさんの心に、私の言葉が届いたんだ)

 でも佳蓮はもうちっとも嬉しくなんかなかった。本当に本当に今更だった。

「あなた達は私にいいことをしたんでしょ?ならそれでいいじゃん。それともの私にまで同じ価値観を強要するの?私がこの世界に来て良かった。嬉しい。ありがとうございますって言えば満足する?そう言えば今すぐ帰ってくれる?もう二度とここに来ないでくれる?なら言うよ。これっぽっちも思ってないけど、言ってあげるよ。あーいい世界ですね。こっちに呼んでもらってどうも。いろいろご苦労様です──ねえ、これでいい?満足した?」

 佳蓮はそう言いながら足を組んだ。組んだ足に肘を立て頬杖を付いて、横柄な態度を取った。

 意地の悪い笑みを浮かべながら、こんなことをしたって虚しいだけだとわかってた。それでも止められなかった。

 馬鹿にされたシダナは怒りを覚えるどころか、しゅんと肩を落とし何か言おうと口を開き、閉じる。必死に言葉を探しているのだろう。

(一生そうやっていれば?)

 残酷な気持ちを持ってしまう自分に、ほとほとうんざりしながら、佳蓮は席を立った。
しおりを挟む
感想 534

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...