皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

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一部 不本意ながら襲われていますが......何か?

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「……え?」
 ──どういうこと?

 佳蓮はアルビスの言葉が、聞き取れなかった。

 違う。本当はちゃんと聞こえていたけれど、認めたくなかった。自分の聞き間違いであってほしいと思ってしまったから、言葉として認識できなかっただけ。

 なのにアルビスはより詳しく、残酷に、同じ言葉を繰り返す。

「君が召喚された当初はまだ魂がこの世界に定着していなかったんだ。……薄氷の上を歩いているようなとても不安定な状態だった。だが私に抱かれ、君はこの世界と強く結びついた。カレン、君はもう二度と元の世界に戻ることはできない」
「……嘘」
「本当だ」
「嘘!」
「本当だ」
「嘘つきっ。そんな訳ない!!」

 佳蓮は叫んだ。髪を振り乱しながら全力で叫んで、アルビスの言葉を否定した。

 そんなこと淡々と告げられたところで受け入れることなどできないし、信用なんてできない。何よりアルビスの言葉には矛盾がある。

「だって……だって、あれは夢の中の話じゃん!私の身体は、何も変わってないもん!それに、あんなことをする前からずっと戻れないって言ってたじゃん!じゃあ、それまでずっと戻れないって言い続けてきたのは何だったの!?」

 中腰になって詰め寄った佳蓮に、アルビスは一瞬だけ言葉に詰まった。

「……あ、あれは」
「何よ、ちゃんと答えてってば!」

 悲鳴のように声を荒げた佳蓮だったけれど、本当は聞くのがとても怖かった。

 それと同じくらい、いくら言葉を重ねても言葉にならない焦燥が、頭の中でバタバタと音を立てて暴れまわっている。

 聞くのが怖い。でも、聞かないでいるのは気が触れそうになる。

 そんなふうに佳蓮の心が収拾もつかないほど暴れ狂う中、アルビスは澱みのない口調で佳蓮の心を押し潰すようなことを告げる。  

「確かに私は君の肉体を抱いたわけじゃない。しかし精神だけの状態にして抱いたのは事実だ。そして……精神だけの状態で抱いたほうが、より強くこの世界と結ばれる」
「そ、そんな……やだ、やだよ……」
「すまない。それと私は君に暗示をかけていた。これも君に謝らなければならないことだ」
「暗示……?」
「そうだ。戻りたいと願っても、戻れない。君を抱くまで、私は……いや、私たちはずっと君に心の枷を付けていた。諦めてもらうのをずっと待っていた」 

 アルビスの言葉は言い換えると、強く望めば元の世界に戻れた可能性があったということだ。

 夜会の、理由はわからないけれど、元の世界に戻れるような気がすると思ったのはあながち間違いではなかった。リュリュと隠し通路でセリオスに見つかった時、観念した素振りをみせて神殿に足を運んでいたら望みは叶っていたのかもしれない。

 けれど、今となっては全て過去の事。時間を巻き戻すことはできない。

「私と深い契りを交わした君は、もうこの世界に生きる人間となった。だから佳蓮、君は一生……どうあっても元の世界には戻れない」

 藍銀色の髪を持つ男が犯した罪は、無実の人間に向け一方的な理由で終身刑を告げるようなものだった。

 佳蓮からすべての表情が消えた。中腰だった姿勢は、糸が切れた操り人形のようにかくんとその場に崩れ落ちる。

 顔を伏せた佳蓮は、口も利けないくらい打ちひしがれていた。

 実のところアルビスが水堀を泳いで助けに来てくれたことも、ロタを殺さないでいてくれたことも、感謝の念を抱いていた。
 
 アルビスの辛い幼少時代の話を聞いて、佳蓮はずっと考えていた。友達と遊ぶ楽しさも、買い食いの美味しさも、寄り道するワクワクする気持ちも、授業中にこっそりやる内職のスリル感も、全部この人は知らないのだと。

 勝手に人生のレールを引かれて、それを進まされて、立ち止まることができない辛さを自分の立場に置き換えて考えてみたりもした。

 可哀想だと思った。同情した。胸が痛んだ。いっそ違う出会い方をすればとすら思った。

(なのに、なのに……それなのに……!)
 
 ちょっとでも、この男に心を傾けた自分がひどく滑稽だった。悔しいという感情より、胸が痛いほど苦しかった。

 アルビスは佳蓮ががもがいて、もがき続けて、無様に抗う姿をずっと嘲笑っていたのだ。

 いや、この男だけじゃない。ヴァーリもシダナもセリオスも。警護をしていた衛兵も。みんな、みんな、陰で馬鹿にしていたのだ。たった一つだけの、全身全霊の願いを。

(ああそっか……私、虚仮こけにされてたんだ)
 
 怒りが激しい波のように佳蓮の全身に広がった。立ち上がり、まるで獣のような雄たけびを上げて、アルビスに突進する。

 どこからこんな怒りが湧いてくるのか自分でもわからないほど、佳蓮は激しい感情に支配され、気付けばアルビスを押し倒していた。

 今の佳蓮には冷静な判断などできなかった。これまでの鬱憤を晴らしたかった。ただただ目の前の男が憎かった。

「なんてことしてくれたのよ……」

 アルビスに馬乗りになった佳蓮は、彼の首に手を回した。
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