皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

文字の大きさ
86 / 148
二部 手のひらで転がされているかもしれませんが......何か?

しおりを挟む
 窓の向こうで側室達に囲まれているアルビスは、嬉しそうに微笑んでいるわけではないが、迷惑そうな表情もしていない。

 シダナとヴァーリは側近らしくアルビスの後ろに控えてはいるけれど、彼らも同様に女性達を諫めることはしない。じっとアルビスが歩き出すのを待っている。

 一方、アルビスを取り巻く女性達はとても楽しそうだった。

 渡り廊下に寄り添うように、ユキヤナギによく似た常緑低木が植えられている。流れるように咲くその花は真っ白で、明るい色のドレスを着た女性達をより一層華やかに見せている。 

 側室の一人がはしゃいだ様子でその場で軽く撥ねたのが、カレンの視界に映った。

 よほど嬉しかったのだろう。ふわりと女性の黄色のドレスの裾が軽やかに舞った。

(ふぅーん。あの人が今夜の夜伽の相手なんだ)

 そっと息を吐くカレンは、これが安堵からくるものなのか、苛立ちを押さえる為にしたのかわからない。でも嫉妬ではないことは確かだ。

「……最初からそうしてくれればいいのに」

 窓から視線を逸らさずに呟けば、横から強い視線を感じた。

 リュリュが何か言いたげな表情をしているのは、見なくてもわかる。

 今出した言葉が憎まれ口に聞こえたかもしれないが、そのことについて触れられたくない。

 カレンは我知らず俯いた顔を上げて、再び窓へ視線を戻す。
 
 一瞬目を離した隙に、もうアルビスたちも愛人たちもいなくなっていた。

 シダナが議会がうんちゃらと言ってたから、そこに向かったのだろう。

 カレンは復讐の為だけにアルビスと結婚したけれど、アルビスはそうは思ってないのかもしれない。
    
 表面上は申し訳ない顔をしているけれど、彼は聖皇帝になり地盤を固めることができた。好き勝手に女性の元に通える権利だって持っている。

 この結論に至った途端、こうやって感情を揺さぶられることすら、アルビスの手のひらで転がされているようで腹が立つ。

 それと同時に、あの日──凍えるような森の中での出来事を思い出してしまう。

 カレンもアルビスも真冬の外堀を泳ぐという不運に見舞われ、ボロボロの状態だった。そこでカレンは、アルビスに自分のことを好きかと問うた。

 アルビスは好きだと答えた。
 
 続けざまに愛しているかと問えば、何ものにも代えがたい程愛しているとアルビスは澱みなく答えた。

 極限の状態で聞いたあの言葉は、嘘も偽りもなかったはずだ。もしあったのなら、騙された方が悪いと思うほど真実の匂いしかしなかった。

 だからカレンは、アルビスと結婚することにした。

 自分のことを愛しているからこそ、すぐ傍でその気持ちを踏みにじってやろうと思った。それが自分ができる精一杯の復讐だと思った。

 アルビスは結婚を決めた後、カレンが出した条件をほとんど守っている。

 触れないのはもちろん、無遠慮に顔を見せたりもしない。同じ敷地の中で生活をしているのに、2ヶ月間で顔を見た回数は数えるほど。

 女官長であるルシフォーネに説得され、リュリュを同席するならという約束で迎えた初夜ですら、アルビスはカレンに指一本触れることはなかった。
 
 当然のように短剣で自身の腕を斬り付け、それをシーツに押し当てて事が無事に済んだような偽装をした。
 
 さすがに驚くカレンに向かい、アルビスは「悪いが、あまり早いとうるさく言ってくる連中がいるから」とバツが悪そうな顔をして、少し時間を潰して部屋を後にした。

 そう。アルビスはカレンとの約束をほとんど守っている。カレンとて、被害者は無限に加害者へ要求できる権利があるなどとは思っていない。

 でも涼しい顔をして愛人たちに囲まれているアルビスを見れば、どうしたって不愉快な気持ちになってしまうし、自分が執務室を出た後、アルビス達は憤慨した自分を見て馬鹿だと笑っていたのかもとすら考えてしまう。

 こんなふうに悩むくらいなら、いっそ真実を確かめるべきとカレンは思う反面、アルビスが紡ぐ言葉が本当かどうかなど、見極めることができない。

 カレンには騙された過去がある。コケにされて傷付いた実績だってある。

 加えてカレンはアルビスに無理矢理抱かれて以来、甘味を感じることができなくなった。少しずつ味覚は戻りつつあるけれど、それでも完全に戻るかどうかわからない。
 
 そんな状態で何を信じればいいのだろう。

 この半年近くで色んな事がありすぎて、心のキャパはとっくにオーバーしている。これ以上心に負担をかけるのは自虐行為になりかねない。

 悩んだ挙げ句、カレンはもやもやした気持ちを無理矢理押し込めることにした。

「図書室に行きたいんだけど……ごめんなさい、ちょっとここから最短ルートがわからないんで。リュリュさん、道案内をお願いしてもいいかな?」

 カレンは気持ちを切り替える為にわざと明るい声を出して、リュリュに問いかける。 

「……かしこまりました」

 何か言いたげなリュリュだったけれど、少しの間の後、いつものように柔らかい笑みを浮かべ、カレンを図書室へと案内した。

 並んで歩く二人の空気は、ぎこちないものだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここまでが1部のおさらい(?)です。
 2部から読み始めるにあたって、この説明だけで良いのかなぁ?と不安になるうちに、文字数が増えてしまい2章にわたってしまいました。申し訳ないです(><)

 長々とお付き合いいただきありがとうございましたm(_ _"m)

 次の章から、やっと動き始めます(o*。_。)oペコッ
 新キャラもでます。
しおりを挟む
感想 534

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...