皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

文字の大きさ
119 / 148
二部 ささやかな反抗をしますが……何か?

5

しおりを挟む
 気持ちを切り替えたカレンは、料理以外で出品できるものはないか考える。
 
 ビーズ手芸や、編み物。100均アイテムを使ったアクセサリーは、元の世界で友達に誘われてやった経験がある。でも、材料は全部店頭にあるものを買って作ったし、出来栄えはお世辞にも売れるものではなかった。

(元の世界にしかないモノで、この世界でも簡単に作れるものってなんだろう?)

 折り紙や竹とんぼのような伝統文化。それから和紙の手染めに、つまみ細工。なんとなく作れそうなものは思いつくけれど、買い手がつくかどうか自信がない。

「……やっぱ、食べ物で攻めるしかないな」
「あ、それいいんじゃない?ずっと残るものより、あそこでしか売ってないものを食べたいって思わせる方が今後の集客に期待できると思う」
「そ、そうだね」

 元暗殺者のロタが、どんな半生を過ごしてきたのかは知りたくない。

 きっと進む道が違っていたら、きっと学者とか研究者とかそういう頭の良い職業を選んでいたことだろう。そんな彼が、ここにいてくれることがとても心強い。

「マリトッツォに似てるヤツはもうここで食べたし、台湾カステラはちょっとパンチに欠ける。んー……カッサータは行ける気がするけど氷がないと無理。となるとピスタチオ系?いや駄目だ。そもそもピスタチオが無いし」 
「ねえ、カレン様。僕達にもわかる言葉使ってよ」
「あ、ごめん。あのねマリトッツォってのは……あ」

 ロタに真剣な顔で覗き込まれて、目がしっかりと合う。

 くりくりした薄紫色の彼の瞳を見て、カレンは閃いた。

「……りんご飴みたい」
「は?」
「そっか。凝りすぎなくても良かったんだ」
「え?カレン様、さっきから何言ってるの?」
「ねぇ、果物を飴に絡ませて売るって言うのはどう?っていうか、そういうお菓子見たことある?」

 ロタの目がキラキラしたキャンディーみたいだと思ったのがきっかけで、カレンはりんご飴をアレンジしたフルーツ飴を文化祭で出そうかと案が出たことを思い出した。

 この世界で嫌々過ごしてきた中で、果物を飴に絡ませるスウィーツは一度も見たことがない。

「果物に飴?なにそれ」
「わたくしも存じ上げません」 

 即座に嬉しい返答がもらえて、カレンはグッと拳を握る。

 知名度皆無。加えて材料費もさほど掛からないし、見た目も可愛く、味も悪くない。これならいける。

「よっし。じゃあ決まり!」

 パンっと手を打って、カレンはペンを取る。 

 フルーツ飴に使える果物を書き出し、ついでにイラストも横に描く。思い出せる範囲で簡単なレシピも書いておく。

 真っ白な紙が文字で埋められた途端、難航していた問題がスルスルと解決できそうな気がしてきた。

「ねえ、リュリュさん。この世界の果物のこと教えて欲しいんだけど──」

 カレンは思いつく限りの果物の名前を口にしてみる。この世界に召喚された時から会話は問題なくできているし、文字だって読める。

 とはいえ会話の中で共通する単語もあれば、共通しないものもある。特に名詞に関しては共通しないものが多い。

 ブドウやイチゴ。オレンジに姫リンゴなど、使えそうな果物の説明を交えて単語を書き出していると、にゅっとロタが割り込んできた。

「ねえ、カレン様。さっき僕の目を見てフルーツ飴を思いついたって言ってたけど、僕の目はどんな果物に似ていたの?」

 無邪気に問いかけるロタを、邪魔だとは思わない。

 彼はいつも公平だ。元の世界とか、この世界とか関係なく、己が興味を持ったら質問してくれる。

「うーん……君の目は、最初はブドウに似てるって思ったんだ。でも、よく見たら違う。お花のほうが近いな。藤……違う。少し灰色がかっているから葵かな?」
「青い?そう?僕の目は違う色だと思うよ」
「ごめんっ、違うの。紛らわしいけど、葵っていう花があってね、その色が君の色にそっくりなの」
「へー……僕の目は花の色。アオイかぁ」

 砂漠の中から何かを見つけたような顔をしたロタに、じっと見つめられる。

 静かで長い凝視に、カレンが耐えかねて視線を逸らそうとした瞬間、ロタが口を開いた。

「いいね、それ」
「は?」
「僕、今日からアオイになるよ」
「え?……は?」

 まさかこんな流れで、少年の名前が決まるなんて思いもよらなかった。

 でも葵は、太陽に向かって成長するという意味がある。ずっと日陰を歩いて来た彼には、これから先、お日様の下で生きてほしい。そんな願いに、ぴったりの名前だ。

「うん。君に似合うと思う。それにアオイは、私の世界では男の子にも、女の子にも使える名前だから丁度良いかも……ねえ、リュリュさん。どう思う?」

 ちょっと狡いかなと思いつつ、隣に座っているリュリュに問い掛ければ、ふわりと優しい笑みを浮かべてくれた。

「美しい響きです。ですがこの者の名前となると、少々、良すぎるような気がしますが」

 そう言ってリュリュはぷいと横を向いた。

「あれーリュリュさん、もしかして妬いてるの?」

 すかさず暗殺者ロタ改め、アオイはにやあと意地悪く笑う。

「おだまりなさい」

 きつい口調でキッと睨んだリュリュはお姉さん然していて、やっぱり二人のやり取りは年の離れた兄弟のようだ。

(冬馬に会いたいな)

 カレンはクスクスと笑いながらも、ちょっとだけ胸が軋んだ。
しおりを挟む
感想 534

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

気がつけば異世界

波間柏
恋愛
 芹沢 ゆら(27)は、いつものように事務仕事を終え帰宅してみれば、母に小さい段ボールの箱を渡される。  それは、つい最近亡くなった骨董屋を営んでいた叔父からの品だった。  その段ボールから最後に取り出した小さなオルゴールの箱の中には指輪が1つ。やっと合う小指にはめてみたら、部屋にいたはずが円柱のてっぺんにいた。 これは現実なのだろうか?  私は、まだ事の重大さに気づいていなかった。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

処理中です...