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二部 ささやかな反抗をしますが……何か?
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気持ちを切り替えたカレンは、料理以外で出品できるものはないか考える。
ビーズ手芸や、編み物。100均アイテムを使ったアクセサリーは、元の世界で友達に誘われてやった経験がある。でも、材料は全部店頭にあるものを買って作ったし、出来栄えはお世辞にも売れるものではなかった。
(元の世界にしかないモノで、この世界でも簡単に作れるものってなんだろう?)
折り紙や竹とんぼのような伝統文化。それから和紙の手染めに、つまみ細工。なんとなく作れそうなものは思いつくけれど、買い手がつくかどうか自信がない。
「……やっぱ、食べ物で攻めるしかないな」
「あ、それいいんじゃない?ずっと残るものより、あそこでしか売ってないものを食べたいって思わせる方が今後の集客に期待できると思う」
「そ、そうだね」
元暗殺者のロタが、どんな半生を過ごしてきたのかは知りたくない。
きっと進む道が違っていたら、きっと学者とか研究者とかそういう頭の良い職業を選んでいたことだろう。そんな彼が、ここにいてくれることがとても心強い。
「マリトッツォに似てるヤツはもうここで食べたし、台湾カステラはちょっとパンチに欠ける。んー……カッサータは行ける気がするけど氷がないと無理。となるとピスタチオ系?いや駄目だ。そもそもピスタチオが無いし」
「ねえ、カレン様。僕達にもわかる言葉使ってよ」
「あ、ごめん。あのねマリトッツォってのは……あ」
ロタに真剣な顔で覗き込まれて、目がしっかりと合う。
くりくりした薄紫色の彼の瞳を見て、カレンは閃いた。
「……りんご飴みたい」
「は?」
「そっか。凝りすぎなくても良かったんだ」
「え?カレン様、さっきから何言ってるの?」
「ねぇ、果物を飴に絡ませて売るって言うのはどう?っていうか、そういうお菓子見たことある?」
ロタの目がキラキラしたキャンディーみたいだと思ったのがきっかけで、カレンはりんご飴をアレンジしたフルーツ飴を文化祭で出そうかと案が出たことを思い出した。
この世界で嫌々過ごしてきた中で、果物を飴に絡ませるスウィーツは一度も見たことがない。
「果物に飴?なにそれ」
「わたくしも存じ上げません」
即座に嬉しい返答がもらえて、カレンはグッと拳を握る。
知名度皆無。加えて材料費もさほど掛からないし、見た目も可愛く、味も悪くない。これならいける。
「よっし。じゃあ決まり!」
パンっと手を打って、カレンはペンを取る。
フルーツ飴に使える果物を書き出し、ついでにイラストも横に描く。思い出せる範囲で簡単なレシピも書いておく。
真っ白な紙が文字で埋められた途端、難航していた問題がスルスルと解決できそうな気がしてきた。
「ねえ、リュリュさん。この世界の果物のこと教えて欲しいんだけど──」
カレンは思いつく限りの果物の名前を口にしてみる。この世界に召喚された時から会話は問題なくできているし、文字だって読める。
とはいえ会話の中で共通する単語もあれば、共通しないものもある。特に名詞に関しては共通しないものが多い。
ブドウやイチゴ。オレンジに姫リンゴなど、使えそうな果物の説明を交えて単語を書き出していると、にゅっとロタが割り込んできた。
「ねえ、カレン様。さっき僕の目を見てフルーツ飴を思いついたって言ってたけど、僕の目はどんな果物に似ていたの?」
無邪気に問いかけるロタを、邪魔だとは思わない。
彼はいつも公平だ。元の世界とか、この世界とか関係なく、己が興味を持ったら質問してくれる。
「うーん……君の目は、最初はブドウに似てるって思ったんだ。でも、よく見たら違う。お花のほうが近いな。藤……違う。少し灰色がかっているから葵かな?」
「青い?そう?僕の目は違う色だと思うよ」
「ごめんっ、違うの。紛らわしいけど、葵っていう花があってね、その色が君の色にそっくりなの」
「へー……僕の目は花の色。アオイかぁ」
砂漠の中から何かを見つけたような顔をしたロタに、じっと見つめられる。
静かで長い凝視に、カレンが耐えかねて視線を逸らそうとした瞬間、ロタが口を開いた。
「いいね、それ」
「は?」
「僕、今日からアオイになるよ」
「え?……は?」
まさかこんな流れで、少年の名前が決まるなんて思いもよらなかった。
でも葵は、太陽に向かって成長するという意味がある。ずっと日陰を歩いて来た彼には、これから先、お日様の下で生きてほしい。そんな願いに、ぴったりの名前だ。
「うん。君に似合うと思う。それにアオイは、私の世界では男の子にも、女の子にも使える名前だから丁度良いかも……ねえ、リュリュさん。どう思う?」
ちょっと狡いかなと思いつつ、隣に座っているリュリュに問い掛ければ、ふわりと優しい笑みを浮かべてくれた。
「美しい響きです。ですがこの者の名前となると、少々、良すぎるような気がしますが」
そう言ってリュリュはぷいと横を向いた。
「あれーリュリュさん、もしかして妬いてるの?」
すかさず暗殺者ロタ改め、アオイはにやあと意地悪く笑う。
「おだまりなさい」
きつい口調でキッと睨んだリュリュはお姉さん然していて、やっぱり二人のやり取りは年の離れた兄弟のようだ。
(冬馬に会いたいな)
カレンはクスクスと笑いながらも、ちょっとだけ胸が軋んだ。
ビーズ手芸や、編み物。100均アイテムを使ったアクセサリーは、元の世界で友達に誘われてやった経験がある。でも、材料は全部店頭にあるものを買って作ったし、出来栄えはお世辞にも売れるものではなかった。
(元の世界にしかないモノで、この世界でも簡単に作れるものってなんだろう?)
折り紙や竹とんぼのような伝統文化。それから和紙の手染めに、つまみ細工。なんとなく作れそうなものは思いつくけれど、買い手がつくかどうか自信がない。
「……やっぱ、食べ物で攻めるしかないな」
「あ、それいいんじゃない?ずっと残るものより、あそこでしか売ってないものを食べたいって思わせる方が今後の集客に期待できると思う」
「そ、そうだね」
元暗殺者のロタが、どんな半生を過ごしてきたのかは知りたくない。
きっと進む道が違っていたら、きっと学者とか研究者とかそういう頭の良い職業を選んでいたことだろう。そんな彼が、ここにいてくれることがとても心強い。
「マリトッツォに似てるヤツはもうここで食べたし、台湾カステラはちょっとパンチに欠ける。んー……カッサータは行ける気がするけど氷がないと無理。となるとピスタチオ系?いや駄目だ。そもそもピスタチオが無いし」
「ねえ、カレン様。僕達にもわかる言葉使ってよ」
「あ、ごめん。あのねマリトッツォってのは……あ」
ロタに真剣な顔で覗き込まれて、目がしっかりと合う。
くりくりした薄紫色の彼の瞳を見て、カレンは閃いた。
「……りんご飴みたい」
「は?」
「そっか。凝りすぎなくても良かったんだ」
「え?カレン様、さっきから何言ってるの?」
「ねぇ、果物を飴に絡ませて売るって言うのはどう?っていうか、そういうお菓子見たことある?」
ロタの目がキラキラしたキャンディーみたいだと思ったのがきっかけで、カレンはりんご飴をアレンジしたフルーツ飴を文化祭で出そうかと案が出たことを思い出した。
この世界で嫌々過ごしてきた中で、果物を飴に絡ませるスウィーツは一度も見たことがない。
「果物に飴?なにそれ」
「わたくしも存じ上げません」
即座に嬉しい返答がもらえて、カレンはグッと拳を握る。
知名度皆無。加えて材料費もさほど掛からないし、見た目も可愛く、味も悪くない。これならいける。
「よっし。じゃあ決まり!」
パンっと手を打って、カレンはペンを取る。
フルーツ飴に使える果物を書き出し、ついでにイラストも横に描く。思い出せる範囲で簡単なレシピも書いておく。
真っ白な紙が文字で埋められた途端、難航していた問題がスルスルと解決できそうな気がしてきた。
「ねえ、リュリュさん。この世界の果物のこと教えて欲しいんだけど──」
カレンは思いつく限りの果物の名前を口にしてみる。この世界に召喚された時から会話は問題なくできているし、文字だって読める。
とはいえ会話の中で共通する単語もあれば、共通しないものもある。特に名詞に関しては共通しないものが多い。
ブドウやイチゴ。オレンジに姫リンゴなど、使えそうな果物の説明を交えて単語を書き出していると、にゅっとロタが割り込んできた。
「ねえ、カレン様。さっき僕の目を見てフルーツ飴を思いついたって言ってたけど、僕の目はどんな果物に似ていたの?」
無邪気に問いかけるロタを、邪魔だとは思わない。
彼はいつも公平だ。元の世界とか、この世界とか関係なく、己が興味を持ったら質問してくれる。
「うーん……君の目は、最初はブドウに似てるって思ったんだ。でも、よく見たら違う。お花のほうが近いな。藤……違う。少し灰色がかっているから葵かな?」
「青い?そう?僕の目は違う色だと思うよ」
「ごめんっ、違うの。紛らわしいけど、葵っていう花があってね、その色が君の色にそっくりなの」
「へー……僕の目は花の色。アオイかぁ」
砂漠の中から何かを見つけたような顔をしたロタに、じっと見つめられる。
静かで長い凝視に、カレンが耐えかねて視線を逸らそうとした瞬間、ロタが口を開いた。
「いいね、それ」
「は?」
「僕、今日からアオイになるよ」
「え?……は?」
まさかこんな流れで、少年の名前が決まるなんて思いもよらなかった。
でも葵は、太陽に向かって成長するという意味がある。ずっと日陰を歩いて来た彼には、これから先、お日様の下で生きてほしい。そんな願いに、ぴったりの名前だ。
「うん。君に似合うと思う。それにアオイは、私の世界では男の子にも、女の子にも使える名前だから丁度良いかも……ねえ、リュリュさん。どう思う?」
ちょっと狡いかなと思いつつ、隣に座っているリュリュに問い掛ければ、ふわりと優しい笑みを浮かべてくれた。
「美しい響きです。ですがこの者の名前となると、少々、良すぎるような気がしますが」
そう言ってリュリュはぷいと横を向いた。
「あれーリュリュさん、もしかして妬いてるの?」
すかさず暗殺者ロタ改め、アオイはにやあと意地悪く笑う。
「おだまりなさい」
きつい口調でキッと睨んだリュリュはお姉さん然していて、やっぱり二人のやり取りは年の離れた兄弟のようだ。
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