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°˖✧閑話 その2✧˖°
結果オーライ。だけど、気づかぬ間に増える枷②
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アオイがアルビスに悪魔のささやきをしている頃、カレンは自室でアオイが来るのを待っていた。
「……遅い。アオイったら、渡すだけなのに何やってんだろう?」
豪奢なソファに座って腕を組み、カレンは頬を膨らます。
目の前のローテーブルには、三人分のお茶とプティングが用意されている。
「リュリュさん、もう先に食べちゃおっか?いや、それはやっぱ悪い。うん、あとちょっとだけ待とう」
問いかけられたのに返事を待たずに撤回をされたが、カレンの背後に立つリュリュは笑みを絶やさない。
「ではカレン様、お茶だけでも召し上がってください」
「うん、そうする」
ティーカップではなく、グラスに入ったお茶はミントに近い何かが入っているようで、スッキリとした味わいだ。
「はぁー……おいしい」
夏真っ盛りのこの世界には、エアコンがない。扇風機も、残念ながらない。
しかし開け放たれた窓から、涼しい風が入るのでさほど辛くはない。
岩山の上に建てられているこの城は、平地よりも風の影響を受けやすい。その地形を活かして、敷地内には噴水が幾つもあり、涼しい風が絶えず城内に運ばれていくのだ。
エアコンなどという文明の利器がないこの世界では、これが最高に贅沢で、最良の夏の過ごし方である。
「孤児院にも噴水があれば、ちょっとは涼しいかなぁ」
「そうですね……ウッヴァ殿なら、一日で作っていただけるかもしれませんね」
「確かに!あの人、あの体形でDIY男子なんて、マジウケる。今度頼んでみよう」
元の世界で当たり前に使っていた”DIY”という言葉は、リュリュにはわからない。それなのに、ニコニコ頷いてくれる。
「リュリュさんは、優しいね」
「ふふっ、光栄です」
「どうしてヴァーリさんは、リュリュさんを見習わないんだろうねぇ」
「それは彼が馬鹿だからですわ」
なんの躊躇もなく義理の兄をディスったリュリュは、窓辺に立つ。おそらくアオイが来るのを確認しているのだろう。
「どう?アオイ、見えた?」
「残念ながら……」
「そっか。アオイ、もしかしてアイツに色々訊かれてるのかなぁ」
「その可能性はありますね」
否定してほしかったが、リュリュから真顔で同意されてしまった。
「やっぱ、アイツに渡さなきゃ良かった……」
後悔するカレンは、ギョッとするリュリュに気づくことができなかった。
ついさっきまで、カレンはリュリュとアオイを伴って厨房にいた。
フルーツ飴のお陰で大成功を収めた孤児院バザーだが、次回も同じものだけを販売することに不安を覚えたカレンは、新作を開発しようと厨房で試行錯誤していたのだ。
孤児院の子供たちでも作れるものだと、メニューは限られる。簡単で、見栄えが良く、珍しいもの。
そんな希望を叶えようとしたが、そう簡単にはいかない。結局、材料が手に入りやすい──二種類のプティングを作ってみることにした。
紅茶のプティングとベリーソースのプティングは、スポンジケーキやシュークリームに比べて簡単だ。
カラメルソースを作る時にだけやけどに注意をしなければならないが、それ以外は多少材料が適当でも、まぁまぁ完成する。
プティング作りは初めてのリュリュとアオイも、手こずることなく器に種を流しいれてくれた。
その後、水を張った大きな鍋で蒸して完成。火加減などは、レシピに記載しとけば多分大丈夫だろう。
最後の仕上げに井戸水で冷やしたプティングは、うろ覚えのレシピでありながら、なかなかの出来栄えだった。
それをアルビスに差し入れしようと思ったのは、彼に対して特別な感情が芽生えたからじゃない。
ウッヴァを救ってくれたことや、フルーツ飴に特許を与えてくれたことへの対価だ。
いつかそのことをネタに、理不尽な要求をされたらたまったもんではないという警戒心から、先手を打っただけ。
ただ自らアルビスの元に行かず、アオイを遣いに出したことは、我ながらズルいと思っている。でも、顔を会わせたくなかったのだ。
従者のシダナとヴァーリに弄られるのも鬱陶しいし、アルビスからお礼の言葉も聞きたくない。
これまで彼が自分のために何をしてくれたのか、カレンは知っている。
だけど、アルビスが自分に対して許されざることをしたのも事実だ。許すことも、忘れることもできない。
言葉にできない複雑な感情は、日を追うごとにカレンの心の中で膨らみ、いつか望まぬ結末を迎えそうで怖くなる。
そうならないためには、アルビスと顔を合わせずに過ごすのが最善の方法である。
だから、自分の代わりにアオイにプティングを持っていくよう頼んだのだが──
「やっぱり、遅い!もしかしてアオイ、何かやらかしたとか」
「カレン様、それ以上おっしゃってはっ」
元の世界で言う「フラグを立てる」ことになる。
そうリュリュは、言いたかったのだろう。しかし、時すでに遅し。
カレンの言葉を遮った途端、部屋の扉が乱暴に開く。そして、半泣きのアオイが飛び込んできた。
「カレン様、どうしようっ。僕、王様に大変なことやらかしちゃった!!」
「噓でしょ!?」
慌てて立ち上がったカレンは、転がるようにアオイの元に走る。
後を追うリュリュは、その時はっきりと見てしまった。
顔を覆ってしゃがみ込んだアオイが一瞬だけ「しめしめ」と言いたげな黒い笑みを浮かべていたのを……。
「……遅い。アオイったら、渡すだけなのに何やってんだろう?」
豪奢なソファに座って腕を組み、カレンは頬を膨らます。
目の前のローテーブルには、三人分のお茶とプティングが用意されている。
「リュリュさん、もう先に食べちゃおっか?いや、それはやっぱ悪い。うん、あとちょっとだけ待とう」
問いかけられたのに返事を待たずに撤回をされたが、カレンの背後に立つリュリュは笑みを絶やさない。
「ではカレン様、お茶だけでも召し上がってください」
「うん、そうする」
ティーカップではなく、グラスに入ったお茶はミントに近い何かが入っているようで、スッキリとした味わいだ。
「はぁー……おいしい」
夏真っ盛りのこの世界には、エアコンがない。扇風機も、残念ながらない。
しかし開け放たれた窓から、涼しい風が入るのでさほど辛くはない。
岩山の上に建てられているこの城は、平地よりも風の影響を受けやすい。その地形を活かして、敷地内には噴水が幾つもあり、涼しい風が絶えず城内に運ばれていくのだ。
エアコンなどという文明の利器がないこの世界では、これが最高に贅沢で、最良の夏の過ごし方である。
「孤児院にも噴水があれば、ちょっとは涼しいかなぁ」
「そうですね……ウッヴァ殿なら、一日で作っていただけるかもしれませんね」
「確かに!あの人、あの体形でDIY男子なんて、マジウケる。今度頼んでみよう」
元の世界で当たり前に使っていた”DIY”という言葉は、リュリュにはわからない。それなのに、ニコニコ頷いてくれる。
「リュリュさんは、優しいね」
「ふふっ、光栄です」
「どうしてヴァーリさんは、リュリュさんを見習わないんだろうねぇ」
「それは彼が馬鹿だからですわ」
なんの躊躇もなく義理の兄をディスったリュリュは、窓辺に立つ。おそらくアオイが来るのを確認しているのだろう。
「どう?アオイ、見えた?」
「残念ながら……」
「そっか。アオイ、もしかしてアイツに色々訊かれてるのかなぁ」
「その可能性はありますね」
否定してほしかったが、リュリュから真顔で同意されてしまった。
「やっぱ、アイツに渡さなきゃ良かった……」
後悔するカレンは、ギョッとするリュリュに気づくことができなかった。
ついさっきまで、カレンはリュリュとアオイを伴って厨房にいた。
フルーツ飴のお陰で大成功を収めた孤児院バザーだが、次回も同じものだけを販売することに不安を覚えたカレンは、新作を開発しようと厨房で試行錯誤していたのだ。
孤児院の子供たちでも作れるものだと、メニューは限られる。簡単で、見栄えが良く、珍しいもの。
そんな希望を叶えようとしたが、そう簡単にはいかない。結局、材料が手に入りやすい──二種類のプティングを作ってみることにした。
紅茶のプティングとベリーソースのプティングは、スポンジケーキやシュークリームに比べて簡単だ。
カラメルソースを作る時にだけやけどに注意をしなければならないが、それ以外は多少材料が適当でも、まぁまぁ完成する。
プティング作りは初めてのリュリュとアオイも、手こずることなく器に種を流しいれてくれた。
その後、水を張った大きな鍋で蒸して完成。火加減などは、レシピに記載しとけば多分大丈夫だろう。
最後の仕上げに井戸水で冷やしたプティングは、うろ覚えのレシピでありながら、なかなかの出来栄えだった。
それをアルビスに差し入れしようと思ったのは、彼に対して特別な感情が芽生えたからじゃない。
ウッヴァを救ってくれたことや、フルーツ飴に特許を与えてくれたことへの対価だ。
いつかそのことをネタに、理不尽な要求をされたらたまったもんではないという警戒心から、先手を打っただけ。
ただ自らアルビスの元に行かず、アオイを遣いに出したことは、我ながらズルいと思っている。でも、顔を会わせたくなかったのだ。
従者のシダナとヴァーリに弄られるのも鬱陶しいし、アルビスからお礼の言葉も聞きたくない。
これまで彼が自分のために何をしてくれたのか、カレンは知っている。
だけど、アルビスが自分に対して許されざることをしたのも事実だ。許すことも、忘れることもできない。
言葉にできない複雑な感情は、日を追うごとにカレンの心の中で膨らみ、いつか望まぬ結末を迎えそうで怖くなる。
そうならないためには、アルビスと顔を合わせずに過ごすのが最善の方法である。
だから、自分の代わりにアオイにプティングを持っていくよう頼んだのだが──
「やっぱり、遅い!もしかしてアオイ、何かやらかしたとか」
「カレン様、それ以上おっしゃってはっ」
元の世界で言う「フラグを立てる」ことになる。
そうリュリュは、言いたかったのだろう。しかし、時すでに遅し。
カレンの言葉を遮った途端、部屋の扉が乱暴に開く。そして、半泣きのアオイが飛び込んできた。
「カレン様、どうしようっ。僕、王様に大変なことやらかしちゃった!!」
「噓でしょ!?」
慌てて立ち上がったカレンは、転がるようにアオイの元に走る。
後を追うリュリュは、その時はっきりと見てしまった。
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