皇帝陛下の寵愛なんていりませんが……何か?

当麻月菜

文字の大きさ
144 / 148
°˖✧閑話 その2✧˖°

結果オーライ。だけど、気づかぬ間に増える枷②

しおりを挟む
 アオイがアルビスに悪魔のささやきをしている頃、カレンは自室でアオイが来るのを待っていた。

「……遅い。アオイったら、渡すだけなのに何やってんだろう?」

 豪奢なソファに座って腕を組み、カレンは頬を膨らます。

 目の前のローテーブルには、三人分のお茶とプティングが用意されている。

「リュリュさん、もう先に食べちゃおっか?いや、それはやっぱ悪い。うん、あとちょっとだけ待とう」

 問いかけられたのに返事を待たずに撤回をされたが、カレンの背後に立つリュリュは笑みを絶やさない。

「ではカレン様、お茶だけでも召し上がってください」
「うん、そうする」

 ティーカップではなく、グラスに入ったお茶はミントに近い何かが入っているようで、スッキリとした味わいだ。

「はぁー……おいしい」

 夏真っ盛りのこの世界には、エアコンがない。扇風機も、残念ながらない。

 しかし開け放たれた窓から、涼しい風が入るのでさほど辛くはない。

 岩山の上に建てられているこの城は、平地よりも風の影響を受けやすい。その地形を活かして、敷地内には噴水が幾つもあり、涼しい風が絶えず城内に運ばれていくのだ。

 エアコンなどという文明の利器がないこの世界では、これが最高に贅沢で、最良の夏の過ごし方である。

「孤児院にも噴水があれば、ちょっとは涼しいかなぁ」
「そうですね……ウッヴァ殿なら、一日で作っていただけるかもしれませんね」
「確かに!あの人、あの体形でDIY男子なんて、マジウケる。今度頼んでみよう」

 元の世界で当たり前に使っていた”DIY”という言葉は、リュリュにはわからない。それなのに、ニコニコ頷いてくれる。

「リュリュさんは、優しいね」
「ふふっ、光栄です」
「どうしてヴァーリさんは、リュリュさんを見習わないんだろうねぇ」
「それは彼が馬鹿だからですわ」

 なんの躊躇もなく義理の兄をディスったリュリュは、窓辺に立つ。おそらくアオイが来るのを確認しているのだろう。

「どう?アオイ、見えた?」
「残念ながら……」
「そっか。アオイ、もしかしてアイツに色々訊かれてるのかなぁ」
「その可能性はありますね」

 否定してほしかったが、リュリュから真顔で同意されてしまった。

「やっぱ、アイツに渡さなきゃ良かった……」

 後悔するカレンは、ギョッとするリュリュに気づくことができなかった。 




 ついさっきまで、カレンはリュリュとアオイを伴って厨房にいた。

 フルーツ飴のお陰で大成功を収めた孤児院バザーだが、次回も同じものだけを販売することに不安を覚えたカレンは、新作を開発しようと厨房で試行錯誤していたのだ。

 孤児院の子供たちでも作れるものだと、メニューは限られる。簡単で、見栄えが良く、珍しいもの。

 そんな希望を叶えようとしたが、そう簡単にはいかない。結局、材料が手に入りやすい──二種類のプティングを作ってみることにした。

 紅茶のプティングとベリーソースのプティングは、スポンジケーキやシュークリームに比べて簡単だ。

 カラメルソースを作る時にだけやけどに注意をしなければならないが、それ以外は多少材料が適当でも、まぁまぁ完成する。

 プティング作りは初めてのリュリュとアオイも、手こずることなく器に種を流しいれてくれた。

 その後、水を張った大きな鍋で蒸して完成。火加減などは、レシピに記載しとけば多分大丈夫だろう。

 最後の仕上げに井戸水で冷やしたプティングは、うろ覚えのレシピでありながら、なかなかの出来栄えだった。

 それをアルビスに差し入れしようと思ったのは、彼に対して特別な感情が芽生えたからじゃない。

 ウッヴァを救ってくれたことや、フルーツ飴に特許を与えてくれたことへの対価だ。

 いつかそのことをネタに、理不尽な要求をされたらたまったもんではないという警戒心から、先手を打っただけ。

 ただ自らアルビスの元に行かず、アオイを遣いに出したことは、我ながらズルいと思っている。でも、顔を会わせたくなかったのだ。

 従者のシダナとヴァーリに弄られるのも鬱陶しいし、アルビスからお礼の言葉も聞きたくない。

 これまで彼が自分のために何をしてくれたのか、カレンは知っている。

 だけど、アルビスが自分に対して許されざることをしたのも事実だ。許すことも、忘れることもできない。 

 言葉にできない複雑な感情は、日を追うごとにカレンの心の中で膨らみ、いつか望まぬ結末を迎えそうで怖くなる。

 そうならないためには、アルビスと顔を合わせずに過ごすのが最善の方法である。

 だから、自分の代わりにアオイにプティングを持っていくよう頼んだのだが──

「やっぱり、遅い!もしかしてアオイ、何かやらかしたとか」
「カレン様、それ以上おっしゃってはっ」

 元の世界で言う「フラグを立てる」ことになる。

 そうリュリュは、言いたかったのだろう。しかし、時すでに遅し。

 カレンの言葉を遮った途端、部屋の扉が乱暴に開く。そして、半泣きのアオイが飛び込んできた。

「カレン様、どうしようっ。僕、王様に大変なことやらかしちゃった!!」
「噓でしょ!?」

 慌てて立ち上がったカレンは、転がるようにアオイの元に走る。

 後を追うリュリュは、その時はっきりと見てしまった。

 顔を覆ってしゃがみ込んだアオイが一瞬だけ「しめしめ」と言いたげな黒い笑みを浮かべていたのを……。
しおりを挟む
感想 534

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...