盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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お仕事のはずなのに、そんな顔であんなことをするのは少し狡いと思う

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 グレイアスの指から滑り落ちたティーカップは、間一髪でフレシアがキャッチした。

「フレシアさん、ナイスです」
「……恐れ入ります」

 あまりの華麗な動きにノアが賞賛すれば、フレシアはペコっと頭を下げた。

「ところで、今のってあまりに早すぎて見えなかったんですが魔法を使ったんですか?」

 ふと思った疑問をそのまま口にすれば、なぜかフレシアはティーカップを手にしたままワゴンへと向かった。

「……今のは魔法ではございません。咄嗟に手を伸ばしたら、運よく受け止めただけです。───……ところで兄様、お茶のお替りを入れますね」
「えーそうなんだっ。フレシアさん、身体能力すごいし魔術師だし、お茶淹れるの上手だし、全部すごいです!!」
「……恐れ入ります」

 フレシアは何か動作をしながら口を動かす時は、本気で喜んでいる。

 それを覚えているノアは無視された訳ではないことを知っているし、普段よりちょこっと会話のキャッチボールができているので、とてもご機嫌である。

 ただ、この部屋の主であり、ティーカップを滑り落した当事者であるグレイアスは、茫然としたまま固まっている。

 大変シュールな光景なのだが、ノアは言いたいことを言い切ったスッキリ感で完璧にグレイアスを無視している。

 そして妹であるフレシアも、問いかけても返事をしない石化した兄を気にする様子は無い。

「……ノア様……あの、よろしければ別のお茶もありますが、何か淹れ直しましょうか?ハーブティーとか、薬膳茶とか、あと……カバノアナタケ茶も」
「カバノアナタケ茶!?」

 カバノアナタケ茶とは文字通りキノコのお茶である。

 ちなみにカバノアナタケは、極寒の地域で生息しているため、比較的温暖な気候であるハニスフレグ国では栽培不可能であり、多種多様な品種を扱う王都の市場ですら出回ることは無い。

 ─── という希少なキノコのお茶が飲める。

 キノコを愛するノアとしたら、飛び上がらんばかりに顔を輝かせた。

 そして、飲む前に是非ともカバノアナタケ茶の原型を見たいという思いから席を立つ。次いでルンタッタとスキップしながらフレシアの元に近付こうとしたけれど……

「おい、ちょっと待て」

 急にタメ口になったグレイアスに襟首を掴まれてしまった。

「……先生って結構、腕力あるんですね」
「ああ、逃走するお前を取り押さえるくらいはな。で、さっきなんつった?」
「……先生、なんか言葉遣いが」
「うるさい、黙れ。とにかく、答えろ」

 急に下町ボーイの口調になったグレイアスの瞳の奥は眩しいほどに輝いている。

(まさか、自白の強要をする魔法とか使わないよね?……よね??)

 悪い事なんて一つもしていないのに、なぜかノアは、しらを切り続けた犯罪者がいよいよ観念する気持ちがわかってしまった。
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