盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

文字の大きさ
62 / 105
おかしい。お愛想で可愛いと言われてただけなのにドキッとするなんて

しおりを挟む
 安全距離に移動したノアは、仕切り直しにコホンと咳払いをすると、再び口を開いた。

「グレイアス先生......あのう、寝ぼけてますか?」
「ばっちり起きてます」
「......じゃあ、寝不足とか?」
「あいにく昨晩は普段より早めに就寝しました」
「そ、それは何よりです」

 どうやって切り出そうか悩んだ挙げ句、まず相手の体調を気遣おうと思ったノアけれど、それは余計なお世話のようだった。

 半目になってじりっと近づくグレイアスは、一寸の隙もない。すこぶる体調が良さそうだ。できれば、今に限っては、疲労と寝不足のダブルパンチでフラフラであって欲しかった。

 なぜならノアは、この場から逃亡こきたいと願っているから。

(夜会? ダンス? ドレス?? マナーの授業?? 絶対に嫌だ!!)

 ただでさえ毎日生きていくのに必要のない授業を受けて苦痛だというのに、更に今後の人生において役に立たなさそうな授業を強要されるなんて、もはやハラスメントの域だ。

 ちょっと前に真面目に働くと心に決めたノアであるが、さすがに限度がある。

「......ノア様、夜会に出るのは絶対に嫌だという顔をしておりますね」
「さすが宮廷魔術師さま。察しが良くて何よりです」
「お褒めにあずかり、光栄です」

 ニコッと爽やかに笑うグレイアス先生に底知れぬ恐怖を感じる。これなら怒濤の嫌みを全身に浴びる方がまだマシだ。

 そんなふうに竦み上がるノアは、もう負けが確定している。いっそ腹を括って夜会に出るためのレクチャーを聞くべきである。

 だがノアは諦めが悪かった。なんとかしてこの無理難題から逃げようと頭を働かす。

「わ、私なんかをエスコートしたら、死ぬまで殿下の恥になります。だから」
「そうならないために、これから毎日シゴキます」
「シゴくって……待って! 夜会前に、私が死にますよ!?」
「死なない程度にシゴキますから、ご安心を」
「安心できる要素はどこに!? っと、あのですね先生、人には向き不向きがあって、これは私にとって超がつくほど苦手な分野で」
「不向きな人間を調教して得意分野にするのは、私がもっとも得意とすることです」
「そんなぁー......あ、じゃあ、夜会出席は残念ながら契約料金には含まれておりません」
「殿下から追加料金が必要なら、言い値で渡すと既に言質もらってます。で、いくら欲しいんですか?」

 全ての言い訳に対して、グレイアスは食い気味に答えていく。

 ノアはもう袋小路に追い詰められてしまった。だからといって、出席したくないものは出席したくないし、嫌なものは嫌なのだ。

 そんな駄々っ子のような気持ちが表情に現れていたのだろう。

 グレイアスは更に怖い顔になって、ノアにまた半歩近づいた。もうその表情は、刃物を持っていないほうが不思議と思えるくらい、凶悪なそれ。

(うう......ここは、フレシアさんに助けてもら......あ、フレシアさんが消えた)

 今の今まで、お茶の用意をしていた頼れる護衛は、悪意とした取れないタイミングで姿を消していた。

 一縷の望みをかけて、壁と一体化していないかと目を凝らすが、彼女の姿はどこにもない。

「ノアさま」

 追い詰められたノアに、無情にもグレイアスは声をかける。

 しかし突然、ここで穏やかな表情になった。

「夜会当日は、世界中の希少なキノコを使った料理が出ます」

 ゆっくりと紡がれた魅惑的過ぎる言葉に、ノアは自分の首が縦に動くのを止めることができなかった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

処理中です...