99 / 105
始めるために、終わりにしよう。それがどんなに辛くても……ぐすんっ
4
しおりを挟む
ノアの瞳から零れ落ちた涙は頬を伝い、膝に幾つもの染みを作る。これで泣いていないと言い張るのは少々……いや、かなり無理がある。
「……新種のキノコを食べただけです」
「へぇ。泣き虫になるキノコなのかい?」
「そ……そうです。そうなんです。びっくりです」
「へぇ」
悩んだ挙句に口にした言い訳は、自分でも苦しいものだった。ロキの「何言ってんだよ」という視線がめっさ痛い。
「あんたはどうしてこう……強がりばっかり言うんだろうねぇ」
俯いたノアの頭をロキは撫でる。つい先日、拳骨を落としたとは思えない優しい手つきで。
「自分を犠牲にして、それで丸く収まるなんていう考えは偽善だよ。そりゃあ我慢しなくちゃいけないことは、この世の中ごまんとあるけどさ」
「……」
「まぁ、あるんだから、我慢しなくて良いときはしちゃいけないんさ。ノア、そうじゃなきゃ、本当に我慢しないといけない時にできなくなってしまうよ」
「……」
ロキにしては珍しく穏やかな口調で話してくれるが、ノアは頑として頷かない。
でも間違っているとは思っていない。そして今、とても辛い。
アシェルと離れることがこんなにも苦しいことだなんて思ってもみなかった。
どうしてだろう。元の生活に戻るだけなのに、心の一番大事な部分がすっぽり抜け落ちてしまって、それをどうやって埋めて良いのかわからないのだ。
「……っ……ふぇ……うっ……うぅっ」
俯いたままノアはぎゅっと胸を押さえる。その拍子に、涙がぼたぼたと手の甲に落ちた。
後悔しない選択をしたはずなのに、前向きな気持ちになれない。これからどうして良いのかわからない。
元の生活に戻ったら、アシェルのことを思い出さないようにすればこの苦しみは消えてくれるのだろうか。
もし、うっかり彼の面影を探してしまったら「全部終わったこと」と自分に言い聞かせれば良いのだろうか。それでも探してしまうなら、自分自身に罰を与えればいいのだろうか。
そんなことをぐるぐる考えたら「無理!」と叫びたくなる衝動に駆られて、ノアは唇を強く噛む。鉄さびの味が口の中に広がる。
「ノア、城に戻るかい?今なら間に合うさ。あんたが決めたことなら、あたしゃ力になるよ。それがどんな決断でも、ね」
本当に本当に一体どうしたの?と聞きたくなるほど優しいロキの言葉が耳に響く。
ノアはすかさず首を横に振ろうとした。でも自分の意思に反して首がどうあっても動かない。イラついて何度も試すがでもやっぱり首は横に動かない。
一人悪戦苦闘するノアは傍から見れば、不可解な行動でしかない。隣に座るロキは、だんだん残念な子を見る目になっていく。
「あんたねぇ。自分自身に意地張ってどうするんだい?いい加減素直になりな」
堪え性の無いロキは、そろそろイラつきを覚えていた。ノアの頭に置いている手は、無意識に拳を握る形になっている。それが勢いよく落とされるのは時間の問題だ。
でもロキは拳骨を落とすことは無かった。
「はぁーあ、こりゃ柄にも無いことを言ったせいなのかねぇ」
そんなロキの呟きと同時に、馬車が急停車した。
街道のど真ん中で停まった馬車に、ノアは事故でもあったのかと涙をぬぐいながらひょいと窓を覗きーーすぐに、引っ込めた。
なぜならノア達の行く手を阻むように、お城の衛兵たちが道を塞いでいたから。
しかもその最前列にはアシェルがいた。
夜会の時の衣装よりはるかに豪奢で凛々しい正装姿で。
「……新種のキノコを食べただけです」
「へぇ。泣き虫になるキノコなのかい?」
「そ……そうです。そうなんです。びっくりです」
「へぇ」
悩んだ挙句に口にした言い訳は、自分でも苦しいものだった。ロキの「何言ってんだよ」という視線がめっさ痛い。
「あんたはどうしてこう……強がりばっかり言うんだろうねぇ」
俯いたノアの頭をロキは撫でる。つい先日、拳骨を落としたとは思えない優しい手つきで。
「自分を犠牲にして、それで丸く収まるなんていう考えは偽善だよ。そりゃあ我慢しなくちゃいけないことは、この世の中ごまんとあるけどさ」
「……」
「まぁ、あるんだから、我慢しなくて良いときはしちゃいけないんさ。ノア、そうじゃなきゃ、本当に我慢しないといけない時にできなくなってしまうよ」
「……」
ロキにしては珍しく穏やかな口調で話してくれるが、ノアは頑として頷かない。
でも間違っているとは思っていない。そして今、とても辛い。
アシェルと離れることがこんなにも苦しいことだなんて思ってもみなかった。
どうしてだろう。元の生活に戻るだけなのに、心の一番大事な部分がすっぽり抜け落ちてしまって、それをどうやって埋めて良いのかわからないのだ。
「……っ……ふぇ……うっ……うぅっ」
俯いたままノアはぎゅっと胸を押さえる。その拍子に、涙がぼたぼたと手の甲に落ちた。
後悔しない選択をしたはずなのに、前向きな気持ちになれない。これからどうして良いのかわからない。
元の生活に戻ったら、アシェルのことを思い出さないようにすればこの苦しみは消えてくれるのだろうか。
もし、うっかり彼の面影を探してしまったら「全部終わったこと」と自分に言い聞かせれば良いのだろうか。それでも探してしまうなら、自分自身に罰を与えればいいのだろうか。
そんなことをぐるぐる考えたら「無理!」と叫びたくなる衝動に駆られて、ノアは唇を強く噛む。鉄さびの味が口の中に広がる。
「ノア、城に戻るかい?今なら間に合うさ。あんたが決めたことなら、あたしゃ力になるよ。それがどんな決断でも、ね」
本当に本当に一体どうしたの?と聞きたくなるほど優しいロキの言葉が耳に響く。
ノアはすかさず首を横に振ろうとした。でも自分の意思に反して首がどうあっても動かない。イラついて何度も試すがでもやっぱり首は横に動かない。
一人悪戦苦闘するノアは傍から見れば、不可解な行動でしかない。隣に座るロキは、だんだん残念な子を見る目になっていく。
「あんたねぇ。自分自身に意地張ってどうするんだい?いい加減素直になりな」
堪え性の無いロキは、そろそろイラつきを覚えていた。ノアの頭に置いている手は、無意識に拳を握る形になっている。それが勢いよく落とされるのは時間の問題だ。
でもロキは拳骨を落とすことは無かった。
「はぁーあ、こりゃ柄にも無いことを言ったせいなのかねぇ」
そんなロキの呟きと同時に、馬車が急停車した。
街道のど真ん中で停まった馬車に、ノアは事故でもあったのかと涙をぬぐいながらひょいと窓を覗きーーすぐに、引っ込めた。
なぜならノア達の行く手を阻むように、お城の衛兵たちが道を塞いでいたから。
しかもその最前列にはアシェルがいた。
夜会の時の衣装よりはるかに豪奢で凛々しい正装姿で。
1
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
妹なんだから助けて? お断りします
たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる