盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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始めるために、終わりにしよう。それがどんなに辛くても……ぐすんっ

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 アシェルと目を合わせたノアの顔は、呆れ笑いに変わった。

「殿下は、鈍感です。私、殿下といるときドキドキしてたんですよ。……気付いてなかったんですね」
「え!?……あ」

 狼狽えるアシェルを、もうノアは手が届かない人だとは思わなかった。

「ねえ、殿下。私、どうしてもあなたにお願いしたいことがあるんです。叶えてくれますか?」
「君が望むなら、なんでも」

 食い気味に頷いたアシェルに、ノアは彼にしか叶えられない願いを口にした。

「私、殿下の名前を呼びたいんです」
「……っ」

 高価な品を強請られると思ったのだろうか。アシェルは意外過ぎると言いたげに目を丸くする。でもすぐに破顔した。

「なら君は私の妻にならないとな。だって私の名を呼べるのは妃殿下と呼ばれる者だけだから」

 思わず策士と呼びたくなるような眼差しを受けて、ノアは苦笑しながら頷いた。

 対して満足のいく返事を貰えたアシェルは、握っていたノアの手に口付けを落としーーなぜか無言で馬車の扉を開けた。

「ん?で、殿下??」
「足元に気を付けて」

 なぜか馬車を降りたアシェルは、スマートにノアに向かって手を差し伸べた。つまり一緒に降りろ、ということで。

「あのう……どうされたんですか?」
「ん?せっかく正装にしたんだから、当初の予定通りにしたほうが良いかなって思って」
「はい?」

 答えになってない返答をいただき、ノアはこてんと首を倒す。でも手はしっかりアシェルに握られているから、足を止めることはできない。

 テクテクとノアはアシェルに手を引かれて、街道から少し離れた空き地まで歩く。

 お城の衛兵たちはノア達が馬車にいる間もお行儀よく通行止めをしていたようだが、二人の姿を見るとシャンと姿勢を正し最上の礼を取る。

 良く見れば薄情にもノアを残して馬車を降りたロキも、まだちゃんといてくれる。

 そんな中、衛兵たちの中に混ざっていたアシェルの側近であるイーサンが金ぴかの箱を持ってこちらに歩いてくる。普段とは別人のように厳かな表情で。

「さて、と。じゃあ、始めよっかな」

 イーサンから箱を受け取ったアシェルは、気持ちを切り替えるようにコホンと小さく咳ばらいをする。

 それをぼぉーっと見ていたノアは何が始まるんだかと思いきや、アシェルはここでおもむろに膝を付いた。豪奢な衣装に土が付くのも構わずに。

「ノア、私の愛しい人。どうか私の生涯唯一人の妻になってください」
「……そういうことでしたか」

 アシェルの不可解な行動を理解して、ノアは求婚の返事そっちのけで呟いてしまった。

「そう、そいうこと。代々王族は第三者の前で求婚するのが決まりなんだ。ーーさて、ノア。返事を聞かせてくれるかい?」

 つい今しがた返事をしたというのに、という気持ちは無くは無いが、ノアはようやっと気づくことができた。

 この人は守ってあげなきゃダメな人なんかじゃないと。

 アシェルの見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。この男は相当な策士で、自分にぞっこん惚れてくれている人だったのだ。
 
 それをちゃんと受け止めたノアは笑った。彼の隣に立つ人として精一杯相応しい存在になりたいと伝えるために。

「はい。私、あなたのお嫁さんになります」

 芯のある声で言ったと同時に、衛兵たちから歓声が上がる。夜明けを告げる鳥の鳴き声も加わり、ここだけはまるでお祭りのようだ。
 
 しかもここで花など一つも無いはずなのに頭上から花びらが舞う。驚いてノアが天を仰ぎ、降って来た花びらを手のひらで受け止めれば、なぜか花弁はキノコの形をしていた。素晴らしい。

「ロキ殿の粋な計らいだね。感謝しなければ」

 アシェルは髪や肩に花びらを受けながら、視線をロキに移して目礼した。

 それから手にしていた箱の蓋を開ける。出てきたものは銀細工でできた花冠だった。

「初代国王陛下は、ニヒ殿に求愛するときに花冠を贈ったそうなんだ。それから私たち一族は妻になる女性に花冠を贈るのが習わしなんだ。受け取ってくれるかい?」

 立ち上がりながらそう言ってくれたアシェルに、ノアは満面の笑みで応えた。

 

◇◆◇◆◇◆


 明日で最終回です。最終回と一緒に番外編もお届けする予定ですので、もう少しお付き合いいただければ幸いです(o*。_。)oペコッ 
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