結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜

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捕獲された花嫁と、交渉する花婿

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 シャンティは王都から離れたとある辺鄙な町で生まれた。

 ちなみに両親ともに平民なので、平民生まれの平民育ちである。
 そして父も祖父も技術者として軍事施設で働いていた。なのでシャンティは、その影響か口が少々悪いし、貴族令嬢のような品は持ち合わせていない。
 ただ度胸は、そこいらの女の子よりはある。
 
 そして過去を振り返えると、ちょっとばかし口答えをして親に怒られたり、思春期の出来心で隣の馬小屋まで家出をしたり、結構な歳になっても町の男の子と取っ組み合いの喧嘩をしたりした。
 けれど、地獄に落とされるような悪行はこれまで一度もしていない。

 ちなみに顔の作りは人並みだけれど、性格は超が付くほど人が良い。

 そんなシャンティは、半年前に両親を事故で失ってしまった。
 そしてここ王都に住む祖父母に引き取らて、すぐにアルフォンスから求婚を受けたのだ。
 
 なんの前触れもない求婚。しかも相手は伯爵さま。しつこいけれどシャンティは平民で、その祖父母も裕福であるが平民である。どう考えてもこれは不可解な求婚だった。

 上手い話にはなんちゃらで、祖父母もシャンティも揃って警戒した。でも階級社会ゆえに格下のこちら側が、格上の伯爵さまからの求婚を断る権利はもとからない。

 そんなわけで、なんだかんだとゴネてみたけれど結局、ゴリ押しされ婚約という運びになった。そして、その伯爵さまは「探さないでください」という手紙を残して消えてしまったのだ。

 そう、シャンティに非など無い。
 非があるのは、詐欺師のように優しい笑顔と言葉で求婚をして、当日に逃げた花婿アルフォンスにある。

 だから死ぬ理由などこれっぽちもない。

 そしてこれからやるべきことは、ロッセ卿に謝罪を求めること。これ一択。
 ざっくばらんに言ってしまうと、慰謝料なんぞ要らないから、この後の面倒くさい全ての処理をやってもらいたいのだ。

 ただその交渉を年老いた祖父母にさせるのは心苦しい……ではなく、やらせてはいけない。余計ややこしいことになるだろうから。

 だから孫としてではなく、冷静に対応できるフォルト家の唯一の人間として、とんずらこいてくれた花婿側にどう落とし前をつけてくれるのかと精一杯交渉しなければならない。

 ───と、わかっているのに、シャンティはどうしても、この場から動き出すことができなかった。

 けれど、そうこうしているうちに、更に事態は悪い方向へと進んでしまう。

「じゃかあしいわぁっ。なぁーにアホなことのたまってんじゃい、ワレェェッェェェェー」

 ───バサッバサバサバサッ……

 ああ、とうとうキレてしまったか。

 鳥が一斉に羽ばたく音を聞きながら、シャンティは深い溜息を付く。

 シャンティの祖父は軍人ではない。けれど軍事施設の特務機関で働く技術者だ。だから、ほぼ中身は軍人である。
 そして職人気質の祖父は理不尽なことに屈するような人間ではない。

 だから我慢の限界を超えてしまえば、階級社会なんぞなんぼのもんじゃい状態になってしまうのだ。

 そしてそうなってしまっては、そう簡単に宥めることができないのだ。最後の切り札にして、最高の特効薬である祖母のスペシャルビンタは、できればお貴族さまの前で披露したくはない。

 だからシャンティは今すぐ祖父母の元に戻らなければならない。

 なのだが祖父の怒声が響く方向……ではなく、鳥が飛んで行った方向を見つめた。

 気持ち良さそうに羽ばたく小鳥が羨ましくて仕方がない。けれど、シャンティは残念ながら人間だ。翼は生まれた時から持っていない。

 もう何度目かになる溜息を付いてシャンティは、未練たらたら身体を、教会の方へと向けようとした───その瞬間、真っ白な衣装をまとった男性が視界に入った。でもすぐに消えた。

「幻影を見るなんて……やっぱり相当ダメージを受けてるんだなぁ私」

 そう呟きながらシャンティが肩を落としても、空は相変わらずの晴天。鳥がピチピチとやかましい。

 でもきっと一番やかましいのは、教会の奥にある控室だろう。

「……帰るか」

 本当なら帰る先は、祖父母の屋敷にしたい。
 そしてベットに潜り込んでふて寝をしたい。

 いや当分……具体的に言うと、どっかのお貴族様がなにかしらのスキャンダルを起こして、この”花婿逃亡事件”が風化されるまで、ひっそりと引きこもりたい。

 けれどこの恰好で街を闊歩する度胸はシャンティにはない。誰が好き好んで恥の上塗りなどしたいものか。

 なので向かうのはやっぱり教会の親族控室。そして早々に話をまとめて屋敷に戻ろう。

 そう思ってシャンティが踵を浮かせた瞬間───

「ここにいたのか。やっと見つけたぞっ」

 そんな慌てた男の人の声が頭上から聞こえてきたと思ったら、ぐんっと強く腕を引っ張られた。と同時に、ふわりと身体が浮く。

 次いでみぞおちに圧力がかかって、思わずシャンティは、ぐぇっと死にかけた鶏のような声が出てしまう。

 そして2回瞬きを繰り返して、ようやっとシャンティは気付く。

 どうやら、知らない男の人に俵担ぎをされてしまったことを......。
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