5 / 64
捕獲された花嫁と、交渉する花婿
2
しおりを挟む
シャンティは王都から離れたとある辺鄙な町で生まれた。
ちなみに両親ともに平民なので、平民生まれの平民育ちである。
そして父も祖父も技術者として軍事施設で働いていた。なのでシャンティは、その影響か口が少々悪いし、貴族令嬢のような品は持ち合わせていない。
ただ度胸は、そこいらの女の子よりはある。
そして過去を振り返えると、ちょっとばかし口答えをして親に怒られたり、思春期の出来心で隣の馬小屋まで家出をしたり、結構な歳になっても町の男の子と取っ組み合いの喧嘩をしたりした。
けれど、地獄に落とされるような悪行はこれまで一度もしていない。
ちなみに顔の作りは人並みだけれど、性格は超が付くほど人が良い。
そんなシャンティは、半年前に両親を事故で失ってしまった。
そしてここ王都に住む祖父母に引き取らて、すぐにアルフォンスから求婚を受けたのだ。
なんの前触れもない求婚。しかも相手は伯爵さま。しつこいけれどシャンティは平民で、その祖父母も裕福であるが平民である。どう考えてもこれは不可解な求婚だった。
上手い話にはなんちゃらで、祖父母もシャンティも揃って警戒した。でも階級社会ゆえに格下のこちら側が、格上の伯爵さまからの求婚を断る権利はもとからない。
そんなわけで、なんだかんだとゴネてみたけれど結局、ゴリ押しされ婚約という運びになった。そして、その伯爵さまは「探さないでください」という手紙を残して消えてしまったのだ。
そう、シャンティに非など無い。
非があるのは、詐欺師のように優しい笑顔と言葉で求婚をして、当日に逃げた花婿アルフォンスにある。
だから死ぬ理由などこれっぽちもない。
そしてこれからやるべきことは、ロッセ卿に謝罪を求めること。これ一択。
ざっくばらんに言ってしまうと、慰謝料なんぞ要らないから、この後の面倒くさい全ての処理をやってもらいたいのだ。
ただその交渉を年老いた祖父母にさせるのは心苦しい……ではなく、やらせてはいけない。余計ややこしいことになるだろうから。
だから孫としてではなく、冷静に対応できるフォルト家の唯一の人間として、とんずらこいてくれた花婿側にどう落とし前をつけてくれるのかと精一杯交渉しなければならない。
───と、わかっているのに、シャンティはどうしても、この場から動き出すことができなかった。
けれど、そうこうしているうちに、更に事態は悪い方向へと進んでしまう。
「じゃかあしいわぁっ。なぁーにアホなことのたまってんじゃい、ワレェェッェェェェー」
───バサッバサバサバサッ……
ああ、とうとうキレてしまったか。
鳥が一斉に羽ばたく音を聞きながら、シャンティは深い溜息を付く。
シャンティの祖父は軍人ではない。けれど軍事施設の特務機関で働く技術者だ。だから、ほぼ中身は軍人である。
そして職人気質の祖父は理不尽なことに屈するような人間ではない。
だから我慢の限界を超えてしまえば、階級社会なんぞなんぼのもんじゃい状態になってしまうのだ。
そしてそうなってしまっては、そう簡単に宥めることができないのだ。最後の切り札にして、最高の特効薬である祖母のスペシャルビンタは、できればお貴族さまの前で披露したくはない。
だからシャンティは今すぐ祖父母の元に戻らなければならない。
なのだが祖父の怒声が響く方向……ではなく、鳥が飛んで行った方向を見つめた。
気持ち良さそうに羽ばたく小鳥が羨ましくて仕方がない。けれど、シャンティは残念ながら人間だ。翼は生まれた時から持っていない。
もう何度目かになる溜息を付いてシャンティは、未練たらたら身体を、教会の方へと向けようとした───その瞬間、真っ白な衣装をまとった男性が視界に入った。でもすぐに消えた。
「幻影を見るなんて……やっぱり相当ダメージを受けてるんだなぁ私」
そう呟きながらシャンティが肩を落としても、空は相変わらずの晴天。鳥がピチピチとやかましい。
でもきっと一番やかましいのは、教会の奥にある控室だろう。
「……帰るか」
本当なら帰る先は、祖父母の屋敷にしたい。
そしてベットに潜り込んでふて寝をしたい。
いや当分……具体的に言うと、どっかのお貴族様がなにかしらのスキャンダルを起こして、この”花婿逃亡事件”が風化されるまで、ひっそりと引きこもりたい。
けれどこの恰好で街を闊歩する度胸はシャンティにはない。誰が好き好んで恥の上塗りなどしたいものか。
なので向かうのはやっぱり教会の親族控室。そして早々に話をまとめて屋敷に戻ろう。
そう思ってシャンティが踵を浮かせた瞬間───
「ここにいたのか。やっと見つけたぞっ」
そんな慌てた男の人の声が頭上から聞こえてきたと思ったら、ぐんっと強く腕を引っ張られた。と同時に、ふわりと身体が浮く。
次いでみぞおちに圧力がかかって、思わずシャンティは、ぐぇっと死にかけた鶏のような声が出てしまう。
そして2回瞬きを繰り返して、ようやっとシャンティは気付く。
どうやら、知らない男の人に俵担ぎをされてしまったことを......。
ちなみに両親ともに平民なので、平民生まれの平民育ちである。
そして父も祖父も技術者として軍事施設で働いていた。なのでシャンティは、その影響か口が少々悪いし、貴族令嬢のような品は持ち合わせていない。
ただ度胸は、そこいらの女の子よりはある。
そして過去を振り返えると、ちょっとばかし口答えをして親に怒られたり、思春期の出来心で隣の馬小屋まで家出をしたり、結構な歳になっても町の男の子と取っ組み合いの喧嘩をしたりした。
けれど、地獄に落とされるような悪行はこれまで一度もしていない。
ちなみに顔の作りは人並みだけれど、性格は超が付くほど人が良い。
そんなシャンティは、半年前に両親を事故で失ってしまった。
そしてここ王都に住む祖父母に引き取らて、すぐにアルフォンスから求婚を受けたのだ。
なんの前触れもない求婚。しかも相手は伯爵さま。しつこいけれどシャンティは平民で、その祖父母も裕福であるが平民である。どう考えてもこれは不可解な求婚だった。
上手い話にはなんちゃらで、祖父母もシャンティも揃って警戒した。でも階級社会ゆえに格下のこちら側が、格上の伯爵さまからの求婚を断る権利はもとからない。
そんなわけで、なんだかんだとゴネてみたけれど結局、ゴリ押しされ婚約という運びになった。そして、その伯爵さまは「探さないでください」という手紙を残して消えてしまったのだ。
そう、シャンティに非など無い。
非があるのは、詐欺師のように優しい笑顔と言葉で求婚をして、当日に逃げた花婿アルフォンスにある。
だから死ぬ理由などこれっぽちもない。
そしてこれからやるべきことは、ロッセ卿に謝罪を求めること。これ一択。
ざっくばらんに言ってしまうと、慰謝料なんぞ要らないから、この後の面倒くさい全ての処理をやってもらいたいのだ。
ただその交渉を年老いた祖父母にさせるのは心苦しい……ではなく、やらせてはいけない。余計ややこしいことになるだろうから。
だから孫としてではなく、冷静に対応できるフォルト家の唯一の人間として、とんずらこいてくれた花婿側にどう落とし前をつけてくれるのかと精一杯交渉しなければならない。
───と、わかっているのに、シャンティはどうしても、この場から動き出すことができなかった。
けれど、そうこうしているうちに、更に事態は悪い方向へと進んでしまう。
「じゃかあしいわぁっ。なぁーにアホなことのたまってんじゃい、ワレェェッェェェェー」
───バサッバサバサバサッ……
ああ、とうとうキレてしまったか。
鳥が一斉に羽ばたく音を聞きながら、シャンティは深い溜息を付く。
シャンティの祖父は軍人ではない。けれど軍事施設の特務機関で働く技術者だ。だから、ほぼ中身は軍人である。
そして職人気質の祖父は理不尽なことに屈するような人間ではない。
だから我慢の限界を超えてしまえば、階級社会なんぞなんぼのもんじゃい状態になってしまうのだ。
そしてそうなってしまっては、そう簡単に宥めることができないのだ。最後の切り札にして、最高の特効薬である祖母のスペシャルビンタは、できればお貴族さまの前で披露したくはない。
だからシャンティは今すぐ祖父母の元に戻らなければならない。
なのだが祖父の怒声が響く方向……ではなく、鳥が飛んで行った方向を見つめた。
気持ち良さそうに羽ばたく小鳥が羨ましくて仕方がない。けれど、シャンティは残念ながら人間だ。翼は生まれた時から持っていない。
もう何度目かになる溜息を付いてシャンティは、未練たらたら身体を、教会の方へと向けようとした───その瞬間、真っ白な衣装をまとった男性が視界に入った。でもすぐに消えた。
「幻影を見るなんて……やっぱり相当ダメージを受けてるんだなぁ私」
そう呟きながらシャンティが肩を落としても、空は相変わらずの晴天。鳥がピチピチとやかましい。
でもきっと一番やかましいのは、教会の奥にある控室だろう。
「……帰るか」
本当なら帰る先は、祖父母の屋敷にしたい。
そしてベットに潜り込んでふて寝をしたい。
いや当分……具体的に言うと、どっかのお貴族様がなにかしらのスキャンダルを起こして、この”花婿逃亡事件”が風化されるまで、ひっそりと引きこもりたい。
けれどこの恰好で街を闊歩する度胸はシャンティにはない。誰が好き好んで恥の上塗りなどしたいものか。
なので向かうのはやっぱり教会の親族控室。そして早々に話をまとめて屋敷に戻ろう。
そう思ってシャンティが踵を浮かせた瞬間───
「ここにいたのか。やっと見つけたぞっ」
そんな慌てた男の人の声が頭上から聞こえてきたと思ったら、ぐんっと強く腕を引っ張られた。と同時に、ふわりと身体が浮く。
次いでみぞおちに圧力がかかって、思わずシャンティは、ぐぇっと死にかけた鶏のような声が出てしまう。
そして2回瞬きを繰り返して、ようやっとシャンティは気付く。
どうやら、知らない男の人に俵担ぎをされてしまったことを......。
3
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。
若松だんご
恋愛
「リリー。アナタ、結婚なさい」
それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。
まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。
お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。
わたしのあこがれの騎士さま。
だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!
「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」
そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。
「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」
なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。
あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!
わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる