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捕獲された花嫁と、交渉する花婿
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情けなくも、精一杯の不満の声を上げたシャンティに、ギルフォードは愉快そうだった。
なんというか、自分の言葉でシャンティが反応するのが楽しくてたまらないといった感じにすら取れる。
ただ、進まない物事に対しては、愉快ではないようだった。
ギルフォードは表情を一変して、シャンティの顎をがっちりと掴んだ。
「ずばり聞くが、これまでのやり取りを見ていると、シャンディアナ嬢はどうやら人助けができないと言いたいようだが間違いは?」
「な、ないです」
死にかけた鈴虫より弱々しい声を上げたシャンティに、無情にもギルフォードは言葉を重ねる。
「結構。なら、質問を変えるが君はこの状況を打破できる案を何か持っているのか?」
「ないです。でも、敢えて言うなら……お互いがお互いの参列者に謝り倒すこと……です」
「つまり互いの窮地を救える方法があるのに、それを放棄すると?」
「……はい」
シャンティはそよ風に揺られた枝葉のように、ナチュラルさを心掛けながら頷いた。
が、ギルフォードにとったら、その仕草が自然だろうが不自然だろうが関係ない。ただ、結果だけを受け取ったようだった。
「なるほど。君の気持ちはよく分かった」
シャンティの顎から手を離して静かに言葉を紡いだギルフォードだった。けれど、そこには罪人に刑を告げる裁判官のような凪いだ口調だった。
そして、ギルフォードの目は、執行者のそれに変わった。
「なら、強行手段を取らせていただく」
「……っ」
シャンティが声にならない悲鳴を上げながら、暴れ出そうとすれば、お腹に回されていた片方の太い腕に力がこもる。
「おや、この状況で逃げれると思いましたか?シャンディアナ嬢?」
「……」
思う思わないを抜きにして、逃げなくてはならないんだとシャンティは反論したくなる。
だが、口は一文字に結ばれたまま。でも、それは反論しないのではない。できないのだ。あと、急に丁寧になった口調が逆に怖い。
そんなこんなでカタカタと小刻みに震えるシャンティは、傍から見たらあまりに痛々しい。
けれどギルフォードは、軍人が持つ威圧的なオーラを全開にして口を開いた。
「私はご存知の通り軍人だ。そして結婚式当日であろうとも窃盗犯を捕まえてしまうほど、骨の髄まで軍人だ。……つまり、有事に備えてこんなものまで持っている」
ギルフォードは『……』の間に、懐の手を入れ小瓶を取り出した。
取り出したそれの中には薄水色の液体が入っている。馬車の揺れに合わせてチャプチャプ揺れるそれは、色が綺麗な分おどろおどろしい。
思わず目を背けたシャンティだったけれど、逃げるなと言わんばかりにギルフォードは小瓶を眼前に突き付ける。
「これはですね、見た目に反してなかなか厄介な薬なんですよ」
「……というと?」
聞いてはいけないのに、ほんの少しの好奇心で続きを促してしまった自分をシャンティは激しく後悔した。
「本人の意思を奪う薬というのがこの世に存在することはご存知でしょうか?お嬢さん」
「知りませんっ」
セットした髪が乱れる勢いで首を横に振れば、ギルフォードは哀れな子羊を見る目になった。
「軍とは恐ろしい。……こんな薬を開発するなんてな」
「……」
「これは本来、間者や暗殺者を拘束するときに使うものなんです。または、凶悪な犯罪者なんかにも。ちなみにこの薬の効能は、四肢の筋力を根こそぎ奪うもの。つまり自分の意志で指先一つ動かすことができなくなるものなんです」
「……っ」
「本来ならワインやスープに混入させて使うもので、現液で飲むことは滅多にない。だが不味いという感想を聞いたことはない。といっても、あいにく私はどんな味かは知らないですけどね」
くすりと笑ったギルフォードの顔が、悪魔に見えるとシャンティは思った。
けれどその悪魔は、涙目になったシャンティに気付いていないフリをして言葉を続ける。
「シャンディアナ嬢、私は君が体の自由を奪われて、知らない男に引きずられながらバージンロードを歩かせるのは忍びないと思っている」
憂いを帯びた表情を作るギルフォードに、シャンティは知らず知らずのうちに半目になる。
この人、自分の顔が良いことを良く知っている。そして使い方も良く知っている。
内容が違えば、この顔を見てきゅんと胸を高鳴らせる女性など星の数ほどいるだろう。
そして、慣れた様子で表情を作り替えることができるこの感じ……絶対にこの人、女泣かせの罪な男だ。
そんな視線をしっかり受け止めたギルフォードは困ったように眉を下げた。ただし、今回もちょっとズレてはいたけれど。
「誤解のないよう言っておくが、私はそういった手荒なことはしたくない。そして私は、君が訳が分からない状態なのに、人助けをしようとここまで付いてきてくれたその気持ちが今でも残っていると信じている」
今度は凛々しい表情に変えて、きっぱりと言い切ったギルフォードは、シャンティに笑みを浮かべながら問いかけた。
「さて、お嬢さん。この薬、飲むか?飲まないか?君の意志で決めてくれ」
人間やめますか?それとも……。
なんていう究極の選択を迫られたシャンティが選べるものは一つだった。
「飲みま────」
”す”か”せん”か。
最後のその言葉をシャンティが紡いだ時、丁度、馬車が目的地に到着した。
なのでシャンティの声は、ヒヒンッという馬のいななきと車輪が軋む金属と木の擦れ合う音にかき消されしまった。
けれど、読唇術に長けているギルフォードは、きちんとシャンティの答えを受け取った。
なんというか、自分の言葉でシャンティが反応するのが楽しくてたまらないといった感じにすら取れる。
ただ、進まない物事に対しては、愉快ではないようだった。
ギルフォードは表情を一変して、シャンティの顎をがっちりと掴んだ。
「ずばり聞くが、これまでのやり取りを見ていると、シャンディアナ嬢はどうやら人助けができないと言いたいようだが間違いは?」
「な、ないです」
死にかけた鈴虫より弱々しい声を上げたシャンティに、無情にもギルフォードは言葉を重ねる。
「結構。なら、質問を変えるが君はこの状況を打破できる案を何か持っているのか?」
「ないです。でも、敢えて言うなら……お互いがお互いの参列者に謝り倒すこと……です」
「つまり互いの窮地を救える方法があるのに、それを放棄すると?」
「……はい」
シャンティはそよ風に揺られた枝葉のように、ナチュラルさを心掛けながら頷いた。
が、ギルフォードにとったら、その仕草が自然だろうが不自然だろうが関係ない。ただ、結果だけを受け取ったようだった。
「なるほど。君の気持ちはよく分かった」
シャンティの顎から手を離して静かに言葉を紡いだギルフォードだった。けれど、そこには罪人に刑を告げる裁判官のような凪いだ口調だった。
そして、ギルフォードの目は、執行者のそれに変わった。
「なら、強行手段を取らせていただく」
「……っ」
シャンティが声にならない悲鳴を上げながら、暴れ出そうとすれば、お腹に回されていた片方の太い腕に力がこもる。
「おや、この状況で逃げれると思いましたか?シャンディアナ嬢?」
「……」
思う思わないを抜きにして、逃げなくてはならないんだとシャンティは反論したくなる。
だが、口は一文字に結ばれたまま。でも、それは反論しないのではない。できないのだ。あと、急に丁寧になった口調が逆に怖い。
そんなこんなでカタカタと小刻みに震えるシャンティは、傍から見たらあまりに痛々しい。
けれどギルフォードは、軍人が持つ威圧的なオーラを全開にして口を開いた。
「私はご存知の通り軍人だ。そして結婚式当日であろうとも窃盗犯を捕まえてしまうほど、骨の髄まで軍人だ。……つまり、有事に備えてこんなものまで持っている」
ギルフォードは『……』の間に、懐の手を入れ小瓶を取り出した。
取り出したそれの中には薄水色の液体が入っている。馬車の揺れに合わせてチャプチャプ揺れるそれは、色が綺麗な分おどろおどろしい。
思わず目を背けたシャンティだったけれど、逃げるなと言わんばかりにギルフォードは小瓶を眼前に突き付ける。
「これはですね、見た目に反してなかなか厄介な薬なんですよ」
「……というと?」
聞いてはいけないのに、ほんの少しの好奇心で続きを促してしまった自分をシャンティは激しく後悔した。
「本人の意思を奪う薬というのがこの世に存在することはご存知でしょうか?お嬢さん」
「知りませんっ」
セットした髪が乱れる勢いで首を横に振れば、ギルフォードは哀れな子羊を見る目になった。
「軍とは恐ろしい。……こんな薬を開発するなんてな」
「……」
「これは本来、間者や暗殺者を拘束するときに使うものなんです。または、凶悪な犯罪者なんかにも。ちなみにこの薬の効能は、四肢の筋力を根こそぎ奪うもの。つまり自分の意志で指先一つ動かすことができなくなるものなんです」
「……っ」
「本来ならワインやスープに混入させて使うもので、現液で飲むことは滅多にない。だが不味いという感想を聞いたことはない。といっても、あいにく私はどんな味かは知らないですけどね」
くすりと笑ったギルフォードの顔が、悪魔に見えるとシャンティは思った。
けれどその悪魔は、涙目になったシャンティに気付いていないフリをして言葉を続ける。
「シャンディアナ嬢、私は君が体の自由を奪われて、知らない男に引きずられながらバージンロードを歩かせるのは忍びないと思っている」
憂いを帯びた表情を作るギルフォードに、シャンティは知らず知らずのうちに半目になる。
この人、自分の顔が良いことを良く知っている。そして使い方も良く知っている。
内容が違えば、この顔を見てきゅんと胸を高鳴らせる女性など星の数ほどいるだろう。
そして、慣れた様子で表情を作り替えることができるこの感じ……絶対にこの人、女泣かせの罪な男だ。
そんな視線をしっかり受け止めたギルフォードは困ったように眉を下げた。ただし、今回もちょっとズレてはいたけれど。
「誤解のないよう言っておくが、私はそういった手荒なことはしたくない。そして私は、君が訳が分からない状態なのに、人助けをしようとここまで付いてきてくれたその気持ちが今でも残っていると信じている」
今度は凛々しい表情に変えて、きっぱりと言い切ったギルフォードは、シャンティに笑みを浮かべながら問いかけた。
「さて、お嬢さん。この薬、飲むか?飲まないか?君の意志で決めてくれ」
人間やめますか?それとも……。
なんていう究極の選択を迫られたシャンティが選べるものは一つだった。
「飲みま────」
”す”か”せん”か。
最後のその言葉をシャンティが紡いだ時、丁度、馬車が目的地に到着した。
なのでシャンティの声は、ヒヒンッという馬のいななきと車輪が軋む金属と木の擦れ合う音にかき消されしまった。
けれど、読唇術に長けているギルフォードは、きちんとシャンティの答えを受け取った。
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