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ヒメゴトの終わり。夫婦の始まり
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ーーファルナとグリジットが結ばれた一年後。
王都からかなり離れた東の村デネにある診療所は、半年ほど前に新しいお医者をお迎えした。
長い年月、医者がいなかったこの村は、駆け落ちしてきた若い夫婦を歓迎すると共に、毎日毎日ひやかしと物珍しさから村人が顔を出していた。
「腕が痛くて上がらない?ここ数日何をしまし……ああ、森から丸太を担いで5往復ですか。はい、筋肉痛ですね。湿布薬を出しておきましょう。お大事に。ーーはい、次の人」
「今日はどうされました?え、頭が痛い?昨日はお酒を飲み……ああ、酒樽丸々一個空にした……ははっ。それは二日酔いですね。ミルクシスルのハーブティーを出しておきましょう。たくさん飲んで、今日は安静にしてください。では、お大事にーーはい、次の人」
「今日はどうされ……あ、こんなにも野菜をありがとうございます。妻が喜びます。ところで、腰の痛みはいかがですか?」
両手に抱えきれないほど旬の野菜を受け取った医者ーーグリジットは、人の良い笑みを浮かべて贈り主である老婆に着席を促した。
そうしてじっくりと話を聞いて、ついでに世間話もして、症状に合わせた薬を処方して、老婆を見送る。
よれよれの白衣に、ぼさぼさの髪。日に焼けた素肌は、日を追うごとに村に馴染み、かつて国王陛下だったその面影はもうほとんど残っていない。
それでも、グリジットは幸せだった。
絶大な権力も、有り余る財産も、傅かれる地位も全て手放したけれど、たった一つの宝物を手に入れたから。
「ーーリットさーん、今日の診察は終わりですか?」
診療所の奥からパタパタと足音が聞こえ、グロッソは慌てて振り向いた。
「こら、ファルナ。走ったら危ないじゃないか」
ぎょっとした顔と厳しい声。
一年前のファルナなら、おどおどするだけだったが今は違う。過保護過ぎる夫ーーグリジットに肩をすくめて苦笑する。
「ふふっ、大丈夫ですよ。これくらいでは、こけたりなんかしませんよ」
そう言いながらファルナは走る足を止めて、ゆっくり歩き出す。
でもグリジットは相変わらず、厳しい顔をしている。
「このくらいという発想が一番怖いんだ、ファルナ。何かあったらどうするんだ」
まるで重病人に向けての発言のようであるが、実はそうじゃない。
「もう君は一人の身体じゃないんだ。頼むからもっと自分を労わってくれ」
懇願したグリジットは、大股でファルナに近づくと、そっと彼女のお腹に手を添えた。
ファルナのお腹に膨らみは無い。
でもそこには、小さな命が育ち始めていた。
王都からかなり離れた東の村デネにある診療所は、半年ほど前に新しいお医者をお迎えした。
長い年月、医者がいなかったこの村は、駆け落ちしてきた若い夫婦を歓迎すると共に、毎日毎日ひやかしと物珍しさから村人が顔を出していた。
「腕が痛くて上がらない?ここ数日何をしまし……ああ、森から丸太を担いで5往復ですか。はい、筋肉痛ですね。湿布薬を出しておきましょう。お大事に。ーーはい、次の人」
「今日はどうされました?え、頭が痛い?昨日はお酒を飲み……ああ、酒樽丸々一個空にした……ははっ。それは二日酔いですね。ミルクシスルのハーブティーを出しておきましょう。たくさん飲んで、今日は安静にしてください。では、お大事にーーはい、次の人」
「今日はどうされ……あ、こんなにも野菜をありがとうございます。妻が喜びます。ところで、腰の痛みはいかがですか?」
両手に抱えきれないほど旬の野菜を受け取った医者ーーグリジットは、人の良い笑みを浮かべて贈り主である老婆に着席を促した。
そうしてじっくりと話を聞いて、ついでに世間話もして、症状に合わせた薬を処方して、老婆を見送る。
よれよれの白衣に、ぼさぼさの髪。日に焼けた素肌は、日を追うごとに村に馴染み、かつて国王陛下だったその面影はもうほとんど残っていない。
それでも、グリジットは幸せだった。
絶大な権力も、有り余る財産も、傅かれる地位も全て手放したけれど、たった一つの宝物を手に入れたから。
「ーーリットさーん、今日の診察は終わりですか?」
診療所の奥からパタパタと足音が聞こえ、グロッソは慌てて振り向いた。
「こら、ファルナ。走ったら危ないじゃないか」
ぎょっとした顔と厳しい声。
一年前のファルナなら、おどおどするだけだったが今は違う。過保護過ぎる夫ーーグリジットに肩をすくめて苦笑する。
「ふふっ、大丈夫ですよ。これくらいでは、こけたりなんかしませんよ」
そう言いながらファルナは走る足を止めて、ゆっくり歩き出す。
でもグリジットは相変わらず、厳しい顔をしている。
「このくらいという発想が一番怖いんだ、ファルナ。何かあったらどうするんだ」
まるで重病人に向けての発言のようであるが、実はそうじゃない。
「もう君は一人の身体じゃないんだ。頼むからもっと自分を労わってくれ」
懇願したグリジットは、大股でファルナに近づくと、そっと彼女のお腹に手を添えた。
ファルナのお腹に膨らみは無い。
でもそこには、小さな命が育ち始めていた。
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