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青天の霹靂

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 ヘンリー・ニーゲラッドが妻ミレニア・サージと出会ったのは、とある伯爵家での夜会だった。

 主催者の娘の誕生日を祝う華やかな場で、ミレニアは寂しそうに壁の花でいた。

(なんて、美しい人なのだろう)

 癖の無い黒髪をふわりと結い上げ、濃紺の瞳を所在なさげにさ迷わすミレニアは、まるで妖精が間違って人間界に迷い混んでしまったような姿だった。

 ミレニアはめったに夜会に呼ばれることが無い、底辺貴族───男爵家の娘だった。

 領地も小さく、資産もごく僅か。またサージ家は貴族としての歴史が浅いため、周りからは”成り上がり令嬢”もしくは”ハリボテ令嬢”などと蔑まれていた。

 ニーゲラッドは侯爵家だ。そして一人息子であるヘンリーは、次期領主となる身。地位でいうなら、この会場において自分より上の者はいない。

(彼女を助けてあげなくては)

 ヘンリーはそんな強い衝動にかられ、ミレニアに声をかけた。

「さぁ、私と一緒に踊ろう」
「......あ......私、踊れませんので......」

 名門貴族の嫡男に向かって、己の教養の無さを告げることに恥じらいを覚えたのだろう。俯くミレニアは途方もなく愛らしかった。

 そして、その瞬間、ヘンリーは恋に落ちた。






 翌日からヘンリーはミレニアに猛アタックを始めた。

 手紙をしたため、花束を贈り、女性が喜ぶ本も添えた。彼女に良く似た陶器の人形も2体手に入れて、1体を彼女の元に贈った。

 しかし待てど暮らせど返事は来ない。

 悩みに悩んだ挙げ句、使いを走らせた。もしかしたらミレニアは病に伏しているのかもしれないと思って。

 底辺貴族なら満足な薬も買うこともできないだろう。そう思って、そしてそんな恥ずかしいことなど言えないミレニアの気持ちを先回りして、ヘンリーは万が一を考え主治医も馬車に放り込んだ。

 結果として、ミレニアは健康だった。風邪一つ引いていない。さすが底辺貴族。身体の造りは庶民並みとヘンリーは安堵した。

 ただ、なぜ返事が来ないのか。

 解せない気持ちを素直に使いの者に伝えれば、こんな返事が帰ってきた。

「ミレニア様はヘンリー様に何と返事を書いて良いのかわからなかったようです」

 そう言った使いの者の目は泳いでいた。

 しかし使用人ごときの挙動を気にする必要はない。そして返事をのではなく、事実に気付いたヘンリーは、ますますミレニアのことを好きになった。

 それからもヘンリーは、ミレニアに手紙を書くことは止めなかった。ただ、

【返事の内容は、そんなに悩まなくて良いよ】

 そんな相手を思いやる一文を必ず最後に付け足すようにした。
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