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青天の霹靂
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ここルティア国は、かつてとある国の一部だった。
しかし聖戦の後、一つの国として独立した。
そして、聖戦の際に武功を立てた一人の騎士が、その働きを高く評価され爵位を与えられた。
ニーゲラッド家はそんな歴史を持ち、建国当初からある名門侯爵家でもあったりする。
人々は言う。ニーゲラッド家は栄光と繁栄の権化だと。
そんな有難い二つ名を持つニーゲラッド家であるが、現在、当主のヘンリー・ニーゲラッドは、この世の終わりのような表情を浮かべていた。
「......なぜだ、どうしてだ」
その言葉ばかりがぐるぐると頭を駆け巡り、ついでに口からもうわ言のようにこぼれ落ちる。
ヘンリーの手には、書類の束がある。
一番上の書類は、【離縁承諾書(司祭のサイン済み)】。
夫の欄はなぜか司祭と同じ筆跡であり、それが妻ミレニアの一方的な離婚申し出が受理されたという現実を示している。
つまり、ヘンリーはミレニアから三行半を突き付けられたのだ。
話し合う猶予すら与えられる間もなく。
「......なぜ、どうして?......あんなにも愛していたのに......息子だって産まれて......これからだっていうのに......どうして......なぜ」
世の中、理由がわかっていれば2割くらい事前にトラブルを回避できるというもの。
そして大人になればなるほど、そういった際、己の中で原因を推理することだってできる。
ヘンリーは御年26歳。とっくに成人も済ませて、家督も継いだ大人である。
しかし彼は、まったくもって妻が出ていってしまった理由がわからない。皆目見当すらつかない。ちょっと質の悪い冗談ではないかとすら思っている。
でもそんな淡い期待も、二枚目以降の書類が踏み潰してくれる。
二枚目には、息子カイネルの親権は、ミレニアにあることを示す証明書。三枚目以降は、夫婦生活を精算するための諸々の指示書と、これまで妻に任せていた屋敷と領地の管理に関するあれやこれ。
補足であるが3枚目以降は妻の字で書かれており、文字と数字が渋滞しているそれは、読む前から吐き気が込み上げる。
とどのつまり、ミレニアはかなり前から離縁の準備をしていたことになる。
「......なぜだ。くそっ......わからない。こんなにも愛していたのに。これは悪夢なのか?」
いや、ばっちり現実だ。
なぁーんてことを誰かが口にしたとて、ヘンリーは右から左に聞き流すだろう。
それほどまでにヘンリーはこの現実が理解できなかった。
彼はミレニアを愛していた。心の底から愛していた。世界中の誰よりも愛していた。
何不自由無い暮らしを与え、常に愛の言葉を囁き、ミレニアが母となっても女として扱い、自分も当主としての務めをちゃんと果たていた。もちろん浮気なんぞ一度もしていない。
周りからは”おしどり夫婦”と言われ、羨望の眼差を向けられていた。
そんなふうに自他共に”理想の夫”であったヘンリーは、ただただ物言わぬ紙に向け己の心情を吐き出すことしかできなかった。
しかし聖戦の後、一つの国として独立した。
そして、聖戦の際に武功を立てた一人の騎士が、その働きを高く評価され爵位を与えられた。
ニーゲラッド家はそんな歴史を持ち、建国当初からある名門侯爵家でもあったりする。
人々は言う。ニーゲラッド家は栄光と繁栄の権化だと。
そんな有難い二つ名を持つニーゲラッド家であるが、現在、当主のヘンリー・ニーゲラッドは、この世の終わりのような表情を浮かべていた。
「......なぜだ、どうしてだ」
その言葉ばかりがぐるぐると頭を駆け巡り、ついでに口からもうわ言のようにこぼれ落ちる。
ヘンリーの手には、書類の束がある。
一番上の書類は、【離縁承諾書(司祭のサイン済み)】。
夫の欄はなぜか司祭と同じ筆跡であり、それが妻ミレニアの一方的な離婚申し出が受理されたという現実を示している。
つまり、ヘンリーはミレニアから三行半を突き付けられたのだ。
話し合う猶予すら与えられる間もなく。
「......なぜ、どうして?......あんなにも愛していたのに......息子だって産まれて......これからだっていうのに......どうして......なぜ」
世の中、理由がわかっていれば2割くらい事前にトラブルを回避できるというもの。
そして大人になればなるほど、そういった際、己の中で原因を推理することだってできる。
ヘンリーは御年26歳。とっくに成人も済ませて、家督も継いだ大人である。
しかし彼は、まったくもって妻が出ていってしまった理由がわからない。皆目見当すらつかない。ちょっと質の悪い冗談ではないかとすら思っている。
でもそんな淡い期待も、二枚目以降の書類が踏み潰してくれる。
二枚目には、息子カイネルの親権は、ミレニアにあることを示す証明書。三枚目以降は、夫婦生活を精算するための諸々の指示書と、これまで妻に任せていた屋敷と領地の管理に関するあれやこれ。
補足であるが3枚目以降は妻の字で書かれており、文字と数字が渋滞しているそれは、読む前から吐き気が込み上げる。
とどのつまり、ミレニアはかなり前から離縁の準備をしていたことになる。
「......なぜだ。くそっ......わからない。こんなにも愛していたのに。これは悪夢なのか?」
いや、ばっちり現実だ。
なぁーんてことを誰かが口にしたとて、ヘンリーは右から左に聞き流すだろう。
それほどまでにヘンリーはこの現実が理解できなかった。
彼はミレニアを愛していた。心の底から愛していた。世界中の誰よりも愛していた。
何不自由無い暮らしを与え、常に愛の言葉を囁き、ミレニアが母となっても女として扱い、自分も当主としての務めをちゃんと果たていた。もちろん浮気なんぞ一度もしていない。
周りからは”おしどり夫婦”と言われ、羨望の眼差を向けられていた。
そんなふうに自他共に”理想の夫”であったヘンリーは、ただただ物言わぬ紙に向け己の心情を吐き出すことしかできなかった。
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