旦那様、それを「愛してる」とは言いません!! 〜とある侯爵家のご夫婦が、離縁に至るまで〜

当麻月菜

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耐え難きを耐え 忍び難きを忍び……

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 これまで領地の管理と屋敷を維持するための財務管理は、嫁いだ責務として粛々とこなす日々だった。

 領民からの嘆願書に目を通し、それに伴う対応や手配をして、屋敷に届く多数の請求書も資金を何とか調達して支払いをしていた。

 しかし長い期間、当主の仕事を一手に引き受けていれば、どう考えても不要だと思う支払いがあった。




「旦那様、少しよろしいでしょうか?」

 比較的早い時間にヘンリーが帰宅した際に、ミレニアは数枚の請求書と帳簿を手にして夫の寝室の扉を叩いた。

「ああ、ミレニア。今日は君を呼ぶ予定はなかったのだけれど……どうしたんだい?」

 口調は穏やかであるが、自分の時間を邪魔されたことにヘンリーは苛立ちを露わにしている。

 しかしミレニアは素知らぬふりをして、夫の寝室にずかずかと入り込んだ。そしてソファに着席する。

「お話がございます。どうぞおかけください」

 有無を言わせない口調でそう言えば、ヘンリーは不機嫌になりならがも腰を下ろす。

「なんだい?」
「こちらをご覧ください」

 百聞は一見に如かずということで、ミレニアは請求書と帳簿をずらりと並べた。

「毎月……いえ、数日おきに多額の請求書が届いております。請求先に問い合わせたところ、カードゲームでの負債分という説明を受けました。お間違いはありませんか?」
「ああ、そうだね。間違い無いよ」

 あっさりと認めるヘンリーに、ミレニアはテーブルに広げた分厚い帳簿で殴りたくなった。

 だがしかし、その衝動をぐっと押しとどめ話を続ける。

「恐れながら、今後はカードゲームを控えてください。旦那様の交際費は、使用人5名分以上の金額です。これはどう考えても」
「ちょっと待ってくれ、ミレニア」

 淡々と説明をしていたミレニアを遮り、ヘンリーは耳を疑うような言葉を放った。

「まさか君、私が負けたことに対して文句を言っているってこと?はっ、それはあまりに私に対して失礼じゃないか?」

 ソファの背もたれにふんぞり返りながらそう言ったヘンリーに、ミレニアは思わず「は?」と間抜けな声を出してしまう。

「だからさ、君の言い方だとまるで私がカードゲームが弱いみたいじゃないか。あのねミレニア、君のような底辺貴族にはわからないし、きっと君たちのような労働者はこういう時も浅ましくお金を求めようとするけれど、私の立場としては、そうはいかないんだ。つまり、これはわざと負けているだけ。ノブレスオブリージュ。身分の高いものは、身分の低いものに施しを与えないといけないんだ」

 どこかで頭を強打してネジを数本飛ばしたかと疑うほどの有り得ない持論に、ミレニアは閉口してしまう。

 しかし何も言えなくなったミレニアに対し、ヘンリーは大仰に溜息を吐いた。

「ねえミレニア……君、いつまで底辺貴族でいる気なんだい?私は悲しいよ。これだけ長い年月君を教育してきたというのに」

(……は?教育??)

 カードゲームの勝ち負けについて文句を言いたいわけじゃなく、自分がどれだけの金額を遊びで使っているか自覚して欲しい。

 そう訴えているだけなのに、どうしてそこからノブレスオブリージュとか、教育とか、そんなぶっ飛んだ話になってしまったのか───ミレニアは理解できず、こめかみを強く押さえた。
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