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2.窮すれば通ず。あるいは、路地裏から騎士

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 ギィーっと期待を裏切らない建付けの悪い門を開ければ、視界に映るのは目がチカチカするほど様々な色彩がアネモネの視界に飛び込んで来た。

 狭いと思った家は、否定しようがないけれど、そこは花に埋もれているようなところだった。

 庭いっぱいに広がる花壇にはジニアとマリーゴールドがお日様を浴びて、暖色系の花びら一枚一枚が輝いている。玄関まで続くアプローチには、等間隔にワイルドストロベリーが植えられていて、小さくて白い花を咲かせている。

 そして玄関にはドライフラワーの大きなリースが飾られ、窓という窓には全てに花箱が設えていて、色とりどりのミニバラが客人を歓迎しているようだった。

 アネモネの家は森と一体化しているが、ここは庭と家が一体化している。

「このお花……全部ソレールが育てたの?」
「いや、通いの家政婦さんが。あ、ミルラさんって言うんだけれど、庭いじりが好きみたいでね。好きにして良いよっていったらいつの間にかこうなってたんだ」
「そうなんですか。すごいですね」
「ああ、確かに。でも、雑草だらけの庭だったのに、ここまで綺麗にしてくれたミルラさんに感謝しているんだ」
「……そうなんですか」

 好きにして良いと言っても、ここまでするのはやりすぎではないのだろうか。

 そんなことを一瞬思ってしまったけれど、ここにある花はどれもこれもが美しく咲いているので、アネモネは少し間を置いて同意した。
 
 ついでに通いの家政婦とやらは一体どんな人なのだろうと純粋に興味を持ってしまった。けれど、ちょうど玄関に到着してしまったので、その疑問は口にすること無く消えた。




「どうぞ、入って」
「はい。お邪魔します」

 外から見ても狭小住宅だったソレールの自宅は、中も安定の狭さだった。

「もともと、私は西の領地の生まれでね。騎士になるために一人単身ここに来たんだ」

 アネモネを招き入れたソレールは、扉を締めながら補足した。

 なるほど。お一人様用なら、この広さでも不便はないだろうと、アネモネはソレールの後に続きながらこくりと頷く。

 とはいえ、この室内は見た目よりも随分と豪勢だった。

 調度品は全て無垢材で揃えられており、そのどれもに控えめな彫刻が施されている。また壁には、ところどころにカラフルな模様のタイルが埋め込まれている。

「ここを譲ってくれた以前の主は、作家だったらしいよ。そしてかなり偏屈で人嫌い。だから家の中は快適に過ごしたいって気持ちが人一倍強かったんだろうね。……アネモネ、おいで。私はこの窓を見て、一目でここが好きになったんだ」

 アネモネが不躾に室内をきょろきょろ眺めていても、ソレールは嫌な顔をしない。それどころか、にこにこと笑ってお気に入りの場所まで教えてくれる。  

「綺麗ですね」

 彼のお気に入りらしい窓に近づき、アネモネは感嘆の息を漏らした。

 てっきり窓からの風景がお気に入りなのだと思ったけれど、そうではなく沢山の間柱を使った曲線のそれに惚れこんだようだった。

「君も気に入ってくれたようで嬉しいよ。後でここでお茶を飲みながら読書でもすると良い」
「はい」

 窓辺にはターンテーブルと椅子がある。確かに有意義な時間を過ごせそうだ。ただ、やるかやらないかは別の話だけれど。

 無論余計なことを言うつもりはないので、アネモネは無言で再び視線を別の方に向ける。そうすればソレールは、アネモネの手を引いてこの家の全てを案内してくれた。
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