TAIL BERSERKER

滝永ひろ

文字の大きさ
11 / 23

ⅩⅠ 捕獲

しおりを挟む
やがて、入口の車から漏れる光で逆光になった赤城が見える。

「おーう、やっぱ逃がしたか」

赤城は煙草をくわえたまま手をひらひらと振って声をかけてきた。

「赤城さん、敵は幻覚を見せるフィフスです!透明になったかのような幻覚を見せて逃げていたんです!」

「わかってらあ。そのためのこいつだよ」

赤城は煙草を口から離すと、煙を吐いた。

「幻覚、破れたり!」

煙が立ち込めたが、一か所だけ人の形に煙が行かない場所があった。そこは、敵がいる場所だ。

「そこだッ!」

もう一つ、空間がヒト型の空間に向かう。赤城の尾だ。

「つかまえ、たッ!」

その尾が敵に巻き付き、とらえる。

「ふー、手間かけさせやがって。こういうのは一日以内に捕まえないといけねーんだが...報告書改竄かいざんしとこ」

法を犯すのに余念がない警察官である。

「ふしゅ...」

敵は幻覚を解いた。

「やっと姿を現しやがったな。これが仮面か...来いよシュウ、これが煩わせた野郎の正体だ」

そういって、赤城がその仮面に手をかける。
「御開帳...」

仮面の下に隠れていた顔、それはシュウにとって見慣れた顔。

「エン...?」

「...シュ...ウ...」

「エン!エンじゃないか!ママが死んだって...」

「シュウ...これだけ...第8大陸...天使は悪魔...」

「何?意味が分からないよ!」

「ふしゅ...るるる...」

その敵は正気を失っていた。

「ふっしゅるるるる...」

仮面を赤城から奪い、それをつけ、赤城の見えない尾を振り払って姿を消した。そして、赤城が乗ってきた車のドアがひとりでに開き、車が傾く。そして、向こう側のドアも開く。

「しまった!」

赤城が追いかけんと車に乗ったときには遅かった。本体のない、影だけが走っていき、やがてそれもアスファルトに溶け込んでいく。
「しまった...逃がした」

一方シュウは、放心状態であった。

「第8大陸...天使は悪魔...」

その言葉をかみしめ、考えている。

「赤城さん」

「帰るぞ」

「赤城さんにはさっきエンが言ってたことわかるんでしょ」

「...」

「8ってどういうことなんですか。天使ってなんのことなんですか。ねえ知ってるんでしょ。教えてくださいよ」

「シュウ...」

「赤城さん!」

「シュウ!」

シュウが赤城を問い詰めるとともに、赤城の声も大きくなった。

「赤城さん...」

「シュウ、帰るぞ」

赤城は何も言わなかった。




「あれは本当に親友の声だったか」

赤城が車の中、シュウに聞く。

「...はい」

「話を聞く限り、あいつに幻聴は起こせなさそうだ。それなら声だけは本物だろう。お前が本物だというなら本物だろう」

「...殺さないといけないんですかね」

「状況次第、としか言えない」

「赤城さんはエンの言葉、ホントにわからないんですか」

「...ああ」

赤城は左にハンドルを切った。

「...大人ですね」

「お前は子供のままだな」

それから二人の仲に会話は生まれなかった。



「先に部屋に戻ってろ。俺は行くとこがある」

「わかりました」

シュウは警察署に入っていった。

「だからあ、赤城ってのがギャング対策本部にいるでしょ?」

受付で女の声がした。声の主は、白衣を来た、髪の長いやたらにスタイルのいい女性。

「聞き覚えのある声...」

「あっ、新人君じゃない?」

その女が降り向いた。初めて見たその顔は、顔立ちがよく、見るものを引き付ける。シュウの顔を見るなり寄ってくる。

「えっと...シュウ君だったかな?私、覚えてる?研究所の受付のお姉さんよ」

「ああ、あの時の!」

「覚えててくれたのね!そう、リツよ!ほんとにあの検体助かったわ~。お礼はいつかするからね」

「ああ、それは...ところで、赤城さんを探してるんですか?」

「あっ、そうだったわ。あの受付の刑事、なんかい言っても留守だの一点張りで何も教えてくれないのよ」

「あ~、赤城さんならさっき...」

「知ってるのね!?」

「車で出ましたけど...」

「うああああ~~~~」

リツは崩れ落ちた。

「なんか、行くところがあるって」

「どこに行くかは聞いてない?」

「聞いてないですけど、知ってても防犯上の理由から教えることはできませんよ」

「そっか~...」

「ところで何の用だったんですか?もしよければ僕が伝えておきますけど...」

「タバコ...」

「え?」

「あいつ、貸してって言って私のタバコ一箱持ってったのよ~。吸わないくせに...一箱余ってたから渡したけど、吸ってた箱が空いちゃって...」

「ああ...」

「ねえシュウ君、あいつ、私のタバコどこやったか知ってる?」

「えっと...一本は吸ってましたけど...他はわかりません」

「そっか...じゃあ、ここで待ってれば来るわね」

「そう...ですね。じゃあ、僕は部屋に戻るので」

「え?ここに居なさいよ」

「業務があるので...」

「え~ケチ。ちょっとくらいいいでしょ?」

「それは...」

「それとも女の子慣れしてないシュウ君は女の人といるの緊張しちゃうのかな?」

「いやっそんな...」

「ふふ。かわいい」

リツはシュウで遊んでいた。

「じゃっじゃあリツさん」

「どうしたの?」

「あの、検体のお礼してくれるって...」

「あら、こんな人目のつくところでなんて大胆ね」

「そうじゃなくて...教えてほしいことがいくつかあって」

「何?お姉さん、あなたになら何でも教えてあげる」

「あの、赤城さんについて...」

「...知りたいの?」

「はい」

「あの男のことは、話したくないわ。ごめんね、私帰るわ。きっとあいつもタバコ届けに行ってくれたんでしょ。ばいばい」

リツは、そのまま帰っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クゥクーの娘

章槻雅希
ファンタジー
コシュマール侯爵家3男のブリュイアンは夜会にて高らかに宣言した。 愛しいメプリを愛人の子と蔑み醜い嫉妬で苛め抜く、傲慢なフィエリテへの婚約破棄を。 しかし、彼も彼の腕にしがみつくメプリも気づいていない。周りの冷たい視線に。 フィエリテのクゥクー公爵家がどんな家なのか、彼は何も知らなかった。貴族の常識であるのに。 そして、この夜会が一体何の夜会なのかを。 何も知らない愚かな恋人とその母は、その報いを受けることになる。知らないことは罪なのだ。 本編全24話、予約投稿済み。 『小説家になろう』『pixiv』にも投稿。

処理中です...