たゆたう青炎

明樹

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翌朝、肩にヒヤリと冷たい感触がして、目を覚ました。
ロウが、僕をうつ伏せにして、肩に薬を塗っていた。


「まだ紫になってる…?」


うつ伏せのまま、ロウに小さく問いかける。


「ええ…、しばらくは消えないでしょう。今宵も、俺が癒してあげます」
「……」


ーーロウのキスで、痕は消えないだろ?


そう疑問に思ったけど、昔からの経験で、こういう時のロウがとても頑固なことを知っている。
僕はまだ眠たいのもあって、好きにして…と、小さく頷いた。


ロウが薬を塗り終えて、肌蹴たパジャマを戻したその手で僕の頬を撫でる。ロウの手が冷たくて気持ちいい。僕が再び目を閉じると、ロウが僕の額に手を当てた。


「…なに…?」
「熱い…」


僕を仰向けにして、ロウが上から顔を覗き込んできた。もう一度、僕の頬に手を添えて、渋い顔をする。


「目が潤んで顔も赤い。身体が熱くはないですか?熱があるようだ」


ロウに言われてみて、そういえば視界がぼやけてロウの顔が見え辛いし、全身がポカポカする。僕はロウの手に擦り寄って、熱い息を吐いた。


「ん…なんか、熱い…。頭もボワンボワンしてる…」
「ここ最近、怪我が続いたからでしょう。身体が疲れてるのです。俺も今日は休みます。傍にいるので、ゆっくりと養生して下さい」
「いいの?ロウ、学校に行かなくて…」
「こんなあなたを、一人で置いておけない」
「そう…」
「少し、待っていて下さい」


僕の頭をポンポンと撫でて言うと、ロウは部屋を出て行った。


ーーこんな怪我が続いたくらいで、弱るなんて情けない…。本当にどうして僕は、人狼族に生まれてきたんだろう…。


ぼやける瞳を二、三度瞬かせると、目尻から雫が一つ、ポロリと頬を滑り落ちた。


何やらいっぱい抱えて、ロウが戻って来た。
僕を起こしてパジャマを脱ぐように言う。言われた通りに脱ぐと、濡れたタオルで身体を拭いて、新しいパジャマを着させてくれる。
 それからお粥の入ったお椀を渡されて、僕がそれを食べてる間に、脱いだパジャマとタオルを持って出て行った。
お粥を食べ終わる頃に戻って来て、今度は薬と水を渡された。僕は、掌の錠剤を見つめて渋い顔をする。


「ロウ…、寝てれば治ると思う。これ…飲まなきゃだめ?」
「ダメです。飲めないなら、俺が飲ませてあげましょうか?」
「どうやって?」
「こうやって」


ロウが、僕の掌にある錠剤を指で摘むと、反対の指で僕の鼻を摘んだ。驚いて、咄嗟に開けた僕の口の中に薬を放り込む。そしてペットボトルの水を口に含んで、僕に口移しで飲ませた。
僕の喉がゴクリと鳴った音を聞いて、やっと鼻からロウの指が離れる。僕はむせながら、口端に垂れた水を袖で拭って、ロウを睨んだ。


「ケホッ、ケホッ…、なにするの…バカなの…っ?」
「ふっ、ルカ様が薬を嫌がるからですよ。次は、もっと優しく飲ませてあげます」
「いい…、ちゃんと自分で飲む」
「そうですか。それは残念」


僕は寝転んで布団を頭から被り、「もう寝るから出て行って」と拗ねた口調で言った。
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