たゆたう青炎

明樹

文字の大きさ
24 / 95

4

しおりを挟む
布団の上から僕の頭を撫でて、ロウが部屋を出て行った。ドアの閉まる音が聞こえてから、布団から顔を出す。さっきのことを思い返して、長い息を吐いた。


ロウは昔から、時々僕に意地悪をする。それは、本当に他愛のない些細なもの。その時のロウの目が、すごく優しい色をしてるから、僕は胸が詰まって泣きそうになるんだ。


この世界でたった一人ロウだけが、僕を必要としてくれる。


ロウがいつか、僕の下から離れる時が来たら辛くなるから、自分に『勘違いするな、自惚れるな』と言い聞かせてきた。だけど、ロウが全身で僕を必要だと訴えてくるから、『僕は、ここにいていいの?』と甘えてしまう。


「ロウ…傍にいて…離れないで…」


ドアを見つめてポツリと呟く。
薬のせいか、だんだんと瞼が重くなり、僕は静かに寝息を立て始めた。


だからロウが、ドアの外で壁にもたれて聞いていたなんて、僕は知らない。





翌朝になって、僕の熱は少しだけ下がったでもまだ微熱がある。ロウの作った野菜スープを飲んで、ロウが食器を下げてる間に薬を飲んだ。


「おや、今朝は自分で飲んだのですね」
「ちゃんと飲んだ。ほら」


部屋に戻って来たロウが、僕の膝の上に乗ったお盆をチラリと見て笑う。
僕は、口の中に残る苦い味に渋い顔をして、お盆の上の空のシートを指差した。
ロウが、褒めるように僕の頭を撫でる。そしてお盆を机の上に置くと、僕の肩を押して寝かそうとするから、僕はその手を払って、ロウを見上げて言った。


「ロウ、シャワー浴びたい。汗かいたから気持ち悪い」
「でも、まだ熱が下がってません。タオルで拭いてあげます」
「嫌だ。しんどくないし大丈夫だから…。ロウ、お願い…」


さっき払ったロウの手を取り、首を傾げて懇願する。
ロウは、しばらく逡巡していたけど、長い溜め息を吐くと、渋々許してくれた。


「わかりました。ただし、俺はドアのすぐ外で待ってますよ。何か異変を感じたら、すぐに止めに入ります」
「…過保護。大丈夫だって言ってるのに」
「文句があるなら、俺も一緒に入りましょうか?」
「狭いから嫌だ」
「ふっ…、狭くなかったらいいのですか」


ロウが小さく呟いた言葉が聞き取れなくて、僕は再び首を傾げた。



ロウは、本当に僕が洗い終わるまで、ドアのすぐ外にピタリと貼りついていた。磨りガラスを通して見えてるんじゃないかと思うくらい、ロウの視線を感じる。
 落ち着かない気分で汗を流して、僕はドアに手をかけた。


「ロウ…出るよ」
「どうぞ」


ロウはドアの前から退く気はないらしい。僕は諦めてドアを開けた。途端に柔軟剤の香るバスタオルで、フワリと全身を包まれる。そして、その上からロウの腕に包まれた。
いい香りの柔軟剤よりも好きなロウの匂いに、僕はウットリとする。そのまま目を閉じかけて、慌ててロウの胸を押した。


「もうっ、何してんの?」
「熱が上がってないか、確認してたのですよ」
「そんな計り方ないし…。身体を拭くから出て行ってよ」
「俺がしてあげます」
「…なんで?」
「なんで?したいからに決まってる」


ーーほら、またそんな甘い目をする。やめてよ、ロウ。僕が、甘えてしまうじゃないか。


顔の筋肉が緩んでしまうのがバレないように、そっと俯く。その間に、ロウが僕の肩にかかったバスタオルで、僕の身体を素早く拭いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...