たゆたう青炎

明樹

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険しい表情で口を開きかけたロウを、僕は睨んで制した。


「ロウは口を挟まないで。少し向こうに行っててよ。リツ、リツのお腹の傷よりも、僕の打撲の方が早く治るよ。だから気にすることない。それよりも、早く帰ってリツもゆっくり休んだ方がいいんじゃないの?結構な傷だったでしょ?無理したらダメだよ」


リツは、赤い瞳を潤ませて、僕の手を強く握り返してきた。


「わかった。本当はずっとルカの傍にいたいけど、今日は帰って休む。早く傷も治す。んで、もし俺よりもルカの方が治りが遅かったら、俺が舐めて治してもいい?」
「嫌だよ…。それに、打撲は舐めても治らないだろ?昨夜ロウが舐めたけど、ちっとも良くなってない…」


リツが、バッと勢いよくロウに顔を向けて、苦しそうな声を絞り出した。


「先生…あんたはどういう気持ちで、ルカの傷に…舌を這わせてるんだ…?」
「どういう?おまえに教えてやる義理はない。まあ強いて言えば、俺は、ルカ様が生まれた瞬間から傍にいる。俺とおまえでは、想いの強さが天と地ほども差がある。比べるのもバカバカしいが。それと、おまえは二度もルカ様に傷を負わせたのだ。そのことを決して忘れるな」
「わかってる…っ」


僕の手を握るリツの手が、プルプルと震えている。それに、ものすごい力を込められて、僕は痛みに顔を歪めた。


「リツ、僕はほんとに大丈夫だから、もう帰って。それに手が痛いから離して…」
「あっ!ごっ、ごめん…っ。…じゃあ…俺、帰るな。来週は来る?」
「うん、週明けには行くよ。またね、月曜に」
「わかった。待ってるな?」


リツは、僕の手をそっと離してロウにお辞儀をした。そして鞄を持って、肩を落としてリビングを出て行く。その寂しそうな後ろ姿に、僕は思わず足を踏み出そうとした。
その瞬間、ロウに背中から抱きすくめられてしまう。身動きが出来なくなった僕は、身体に回された腕に触れて小さく言った。


「ロウ…、何するの?離してよ…」
「嫌です。離すと、あなたはあいつを追いかけるのでしょう?そんなことは許さない」
「なんでロウが許さないの?僕が何しようと僕の勝手じゃない。ねぇ、離してよ」
「嫌だと言ってる。ルカ様、俺はどんなことがあろうとも、あなたの傍にいると誓った。だからあなたも、俺から離れないでくれ…」
「僕がどこに行くというの…」


ロウが僕の首筋に顔を埋めて、まるで駄々をこねる子供のように我が儘を言う。そんな珍しいロウの様子に戸惑っている間に、玄関ドアの閉まる音がして、リツがこの家を出て行った。
それなのにロウは、僕を抱きしめたまま離さない。
僕は、ロウの体温と匂いが好きだから、このままでいたとしても一向に構わない。
だけど、まだ熱が下がっていない僕の身体は、だんだんと呼吸が速くなって視界が揺れ、立っていられなくなった。ぐったりと力の抜けた僕を、ロウが軽々と抱き上げて額にキスをする。


「やはり、まだ動くには早過ぎましたね。今日はもう、大人しく寝てるのですよ」


すぐ間近にある深い青の瞳を見つめて、僕は素直に頷く。その目を細めて、ロウがもう一度、僕の額にキスをした。
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