たゆたう青炎

明樹

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「ルカ様、ルカ様の傍には俺がいる。俺だけでは、ダメですか…」
「ロウ…、父さんに…戻って来いって命令されたら、僕を置いて…戻って、いいよ…」


ロウが、いきなり僕の身体を反転させて、強く肩を掴んだ。僕の顔を覗き込むロウの鋭い目に、思わず肩がビクリと跳ねる。ロウは、とても怖い顔で僕を睨むと、強く抱きしめてきた。


「あなたはっ…!何度言えばわかるのですっ!俺はっ、傍を離れないと言ってるっ。だから、あなたも離れるなと…。俺の、あなたへの想いを見くびるなっ」
「ロウ、苦しいよ…」


骨が軋むくらいに強く抱きしめるから、圧迫されて息が苦しい。ロウの胸に抱き込まれて顔が見えないのをいいことに、僕は静かに涙を流してロウのシャツに染みを作る。


ーーロウ…僕を一人にしないで。僕は、父さんが僕を見ないことよりも、ロウが離れて行くことの方が怖いんだ。


僕は、ダラリと横に垂らしていた手をロウの背中に回すと、より一層密着するようにしがみついて、ロウのシャツを強く握りしめた。


 父さんと会ったその夜、ロウは僕の傍を離れなかった。夕食は、いつもの向かい合わせではなく隣で食べ、お風呂場にもついてきた。さすがに一緒に入ることは許可しなかったけど、ピタリとドアに張り付いて動かなかった。
自分がお風呂に入ってる間も、僕に洗面所で待ってろと言う。


「なんで待たなきゃいけないの?」


そう言って、ロウがお風呂場に入ったのを確認してから洗面所を出ようとすると、ずぶ濡れのまま出て来て僕の腕を掴んだ。


「わかったから…っ。ここにいるから触らないで。服が濡れちゃう…」
「約束ですよ」


せっかく丁寧に身体を拭いたのに、また濡れるなんて絶対に嫌だ。
僕は溜め息を吐くと、歯ブラシを持って歯を磨き始めた。
磨き終わる頃に、ロウが出て来た。適度に筋肉がついた身体を惜しげもなく晒して、手早く身体を拭いていく。
僕は、ぼうっとロウの綺麗な身体を見ていたけど、ロウと目が合うなり慌てて視線を逸らした。
ロウの、クスリと笑いを漏らす声が聞こえた気がする。
僕がコップの水でうがいをしていると、ロウも隣で歯を磨き出した。


洗面所を出て僕の部屋に連れて行かれ、僕のベッドに二人で寝転ぶ。壁を向いた僕の背中から腕を回して、僕を抱きしめるロウに、文句を言った。


「ねぇロウ…、いつまで僕にくっついてるの?」
「ルカ様が、寂しくなくなるまで」
「だったら大丈夫だよ。それに、僕は別に寂しくなんかなってない…」
「言い方を間違えました。俺の不安が無くなるまで」
「それは、いつ無くなるの?」
「俺にもわかりません。とりあえず、今夜は無くならない。なので、あなたに触れることを許して下さい」
「ダメだと言っても、触れるくせに…。ロウは我が儘だから…」


「俺への文句ですか?」と笑いながら、ロウが僕の首筋に顔を埋める。まだ濡れているロウの髪が頬に触れて、僕は「冷たい」と抗議した。



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