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無邪気な青
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一晩中、ロウに抱きしめられて寝苦しかったけど、心の中は平穏に戻っていた。
父さんは『また来る』と言ってたけど、いつ来るんだろう。ロウに何の用事があるのか気にはなるけど、出来れば僕のいない時に来てもらいたい。
洗面所の鏡の前で、少しだけ暗い思考になってしまい、それを振り払うように、冷たい水で勢いよく顔を洗った。
しばらくは父さんが家に来ることもなく、平穏な日々が続いた。
ただ、前にも増してリツが僕にしつこく付きまとってくる。まあ僕を好きだと言ってたくらいだから、傍にいようとするのはわかるのだけど…。
それに、以前に宣言したように、時々リツは僕に触れる。頭を撫でたり肩や背中に触れたりの些細なもの。だけど、その場面をロウに見られた日には、家に帰ってから延々とリツへの批判を聞かされる。果ては僕にまで、「毅然とした態度で接するように」と注意するのだ。
ロウに口答えしたところで、僕はいつも言い負かされてしまう。だからそんな時は、素直に「ごめん…気をつける」と目線を下に向ける。するとロウは「仕方ありませんね…」と僕の頭を優しく撫でるんだ。
でもついに、「なんで僕がこんなにも気を使わなきゃいけないの?」と面倒臭くなってしまった。
ある朝、ロウの車を降りてから、僕は学校には行かずに逆の方向にある駅へと足を向けた。今日一日は、僕にくっついて来るリツからも、僕の行動に口を出すロウからも、離れたいと思ったのだ。
電車に三十分ほど揺られると、海に着く。僕は、電車を降りて潮の匂いを嗅ぎながら、自分の行動に苦笑いをした。
ーー必要とされたいと願いながら、僕を必要だと言ってくれる二人から逃げてる…。僕は、なんて贅沢な、罰当たりなことをしてるのだろう。一番の面倒臭いバカは、僕かもしれない。
駅を出て大きい道路を渡ると、すぐ目の前に海が見えた。浜辺に降りて、ザクザクと砂を踏みしめながら波打ち際へと歩いて行く。
海なんて、何年振りだろうか。子供の頃に、ロウの背中に乗って、連れて来てもらって以来だ。
ジリジリと照りつける暑い陽射しで汗をかいた身体が、海からの風に冷やされて心地いい。
波飛沫がかからないギリギリの所に立って、ザブンと打ち寄せる波を見つめる。大きい波や小さい波。打ち寄せる度に違う形をする波は、いつまでも見ていられる。
ーー昔、ロウと海に来た時に、夢中になって貝を拾った…。
その時の僕を見るロウの優しい顔を思い出して、ツキンと胸が痛んだ。
ーー今日ぐらいは離れたいと思ったのは僕自身なのに、寂しいと思ってるの?
自分自身に問いかけて、またツキンと胸が痛む。
やっぱり学校に戻ろうかと、少し後悔し始めたその時、後ろから賑やかな声が聞こえてきた。
不思議に思って振り向くと、道路の方から、小学四、五年生くらいの子供達が、次々に浜へと降りて来る。結構な大人数で、先生らしき大人も数人いる。
きっと校外学習か何かで海に来たんだろうと思い、僕は邪魔にならないように、その場から離れた。
子供達からある程度離れて、ここなら邪魔にならないかと足を止めて、再び海を眺める。
ぼんやりとする僕の耳に、波の音に紛れて微かに声が聞こえてきた。声の出所を探して首を巡らせると、さっきの子供達の中にいたらしい一人の男の子が、僕に向かって走って来た。
父さんは『また来る』と言ってたけど、いつ来るんだろう。ロウに何の用事があるのか気にはなるけど、出来れば僕のいない時に来てもらいたい。
洗面所の鏡の前で、少しだけ暗い思考になってしまい、それを振り払うように、冷たい水で勢いよく顔を洗った。
しばらくは父さんが家に来ることもなく、平穏な日々が続いた。
ただ、前にも増してリツが僕にしつこく付きまとってくる。まあ僕を好きだと言ってたくらいだから、傍にいようとするのはわかるのだけど…。
それに、以前に宣言したように、時々リツは僕に触れる。頭を撫でたり肩や背中に触れたりの些細なもの。だけど、その場面をロウに見られた日には、家に帰ってから延々とリツへの批判を聞かされる。果ては僕にまで、「毅然とした態度で接するように」と注意するのだ。
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でもついに、「なんで僕がこんなにも気を使わなきゃいけないの?」と面倒臭くなってしまった。
ある朝、ロウの車を降りてから、僕は学校には行かずに逆の方向にある駅へと足を向けた。今日一日は、僕にくっついて来るリツからも、僕の行動に口を出すロウからも、離れたいと思ったのだ。
電車に三十分ほど揺られると、海に着く。僕は、電車を降りて潮の匂いを嗅ぎながら、自分の行動に苦笑いをした。
ーー必要とされたいと願いながら、僕を必要だと言ってくれる二人から逃げてる…。僕は、なんて贅沢な、罰当たりなことをしてるのだろう。一番の面倒臭いバカは、僕かもしれない。
駅を出て大きい道路を渡ると、すぐ目の前に海が見えた。浜辺に降りて、ザクザクと砂を踏みしめながら波打ち際へと歩いて行く。
海なんて、何年振りだろうか。子供の頃に、ロウの背中に乗って、連れて来てもらって以来だ。
ジリジリと照りつける暑い陽射しで汗をかいた身体が、海からの風に冷やされて心地いい。
波飛沫がかからないギリギリの所に立って、ザブンと打ち寄せる波を見つめる。大きい波や小さい波。打ち寄せる度に違う形をする波は、いつまでも見ていられる。
ーー昔、ロウと海に来た時に、夢中になって貝を拾った…。
その時の僕を見るロウの優しい顔を思い出して、ツキンと胸が痛んだ。
ーー今日ぐらいは離れたいと思ったのは僕自身なのに、寂しいと思ってるの?
自分自身に問いかけて、またツキンと胸が痛む。
やっぱり学校に戻ろうかと、少し後悔し始めたその時、後ろから賑やかな声が聞こえてきた。
不思議に思って振り向くと、道路の方から、小学四、五年生くらいの子供達が、次々に浜へと降りて来る。結構な大人数で、先生らしき大人も数人いる。
きっと校外学習か何かで海に来たんだろうと思い、僕は邪魔にならないように、その場から離れた。
子供達からある程度離れて、ここなら邪魔にならないかと足を止めて、再び海を眺める。
ぼんやりとする僕の耳に、波の音に紛れて微かに声が聞こえてきた。声の出所を探して首を巡らせると、さっきの子供達の中にいたらしい一人の男の子が、僕に向かって走って来た。
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