たゆたう青炎

明樹

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どうしたんだろうと不思議に思い、周りを見る。でも、ここには僕しかいなくて、しかもその男の子は、明らかに僕に真っ直ぐ向かって来ている。
男の子は、僕の前で足を止めると、ゼイゼイと荒い息を吐きながら、顔を上げてニコリと笑った。


「やっぱり!兄さんだっ。ルカ兄さんでしょ?」
「え?……ルキ?」
「うん、ルキだよっ。兄さん、会いたかったっ…。この前、お父さんと車に乗ってる時に、兄さんに似ている人を見かけて声をかけたんだけど…。お父さんにすぐ窓を閉められちゃって…。でも、やっぱりあの時の人は、兄さんだったんだっ」


ルキが僕に飛びついて、思わずよろけそうになる。
僕が家を出た時は、僕のお腹くらいの身長だったのに、今はもう、僕の肩まで伸びていて驚いた。
涙目で僕を見上げて、ルキが問い詰めてくる。


「兄さん…、なんで家を出ちゃったの?なんで一度も帰って来なかったの?皆んなが、兄さんは変身出来ないことを気にして出て行った、って言ってた。でも僕は、そんなこと気にしないよ?兄さん…、帰って来てよ」


僕の両腕を強い力で掴んで、ルキが言う。
ルキは、ロウ以外の誰もが僕を腫れ物のように扱うあの家で、兄として慕ってくれた。きっと義母さんには、僕に近寄るなと言われていた筈だ。だけど、義母さんの目を盗んでは、よく僕の部屋に遊びに来ていた。
僕が家を出る時に、唯一泣いてくれたのもルキだ。ルキは、本当に優しくて賢い子だ。だから、彼が青蓮家の跡を継ぐことに、僕は納得している。


僕は、僕と同じ色の髪を撫でて微笑んだ。


「ルキ…大きくなったね。僕のこと、覚えていてくれてありがとう。でもね、僕は家には戻らない。それが、青蓮家にとって一番いいことだから…。ごめんね…」
「いやだっ!変身出来なくたっていいじゃんっ。僕が守ってあげるから…っ。それに、ロウが兄さんの傍からいなくなっちゃうんだよ?そうしたら、兄さん一人になるじゃんか…」


僕の手を取り駄々をこねるルキの言葉に、僕は雷に打たれたかのように、身体が痺れて思考が固まってしまった。


ーーえ?今…なんて?ロウがいなくなる…って?僕の傍から?どういう…こと?


「ルキ…、ロウが…なんだって?」


手足の先が冷えてきて、フルフルと小刻みに震える。それを隠す為に、ルキの手を離して拳を作り、強く握りしめた。


「お父さんが言ってた。ロウを青蓮家に連れ戻すって。ロウは優秀だから、僕の付き人にするって。だから、兄さんもロウと一緒に戻って来てよ…」
「そう…」


言葉を続けたいのに、喉が震えて喋れない。


ーーそっか…。だからあの時、父さんはロウを訪ねて来たんだ。ロウはこの話を知ってるの?ルキが嘘を言ってるとは思えないけど、ロウの口から聞きたい…。ロウに、会いたい…。


僕は、今すぐロウに会いたくなって、ルキに「ごめん、もう帰らなきゃ。ルキに会えて嬉しかったよ」と言って、道路に向かって歩き出した。
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