たゆたう青炎

明樹

文字の大きさ
37 / 95

3

しおりを挟む
まだその場から動こうとしないルキを振り返りながら、早く皆んなの元へ戻るように言おうとしたら、先生の「皆んな集合してくださーい!」と言う大きな声が聞こえて来た。
それを聞いたルキが、泣きそうな顔をして歩き出した。少し進んで足を止めると、僕を振り返り口を開く。


「兄さん…、また会える?会いに来てくれる?」
「…そうだね、また会えるよ。ルキ、元気でね」


目に涙を溜めて頷いたルキが、皆んなの方へ駆けて行った。
その後ろ姿を見送って、僕も急いで駅に向かう。砂が靴の中に入って気持ち悪いけど、そんなことは気にしていられない。
早くロウに会わなければ。会って、ロウの口から『俺はあなたの傍を離れません』と、いつものように笑いながら言って欲しい。
僕は、早歩きから遂には走り出して、駅の改札を抜け、ホームに入って来た電車に飛び乗った。



学校の最寄り駅に着いて、駅から学校までの道のりを全力で走った。
僕は人狼のくせに、変身出来ないだけでなく体力もない。人狼は、人間の数倍は頑丈に出来ており、もちろん体力も無尽蔵にある。だけど僕は、人間並みの体力しか備わっていない。
だから、学校に着いた頃には力尽きて、裏門を入ってすぐの駐車場で、座り込んでしまった。


胸を押さえて呼吸を整えていると、近くから話し声が聞こえてきた。車の陰からそっと覗くと、少し離れた場所で、ロウが誰かと電話をしていた。
僕は、慌てて顔を引っ込めて、車に隠れて聞き耳を立てた。


「…はい、わかってます、ルイ様。え?今日からですか?…わかりました。伺います。ルカ様には俺から伝えます。だから…」


心臓がドクドクと鳴ってうるさい。
僕はそれ以上は聞きたくなくて、両耳を押さえて目を固く閉じた。


ーー今の話って…。やっぱりルキが言ってたように、ロウは青蓮家に……。


急に全身の力が抜けて、僕はその場にペタリと尻餅をついた。耳を塞いでいた手も腕もダラリと下ろして、ぼんやりと目の前にあるロウの青い車を見つめる。


「何をしているのです?今は授業中の筈ですが?」


この世に生まれてからずっと聞いてきた、低音の耳に心地よい声。
僕は、ゆっくりと首を動かして、身体を屈めて僕を覗き込むロウの顔を見つめた。


僕は今、とても情けない顔をしているに違いない。
力の入らない腕を持ち上げて、ロウに縋り付くように手を伸ばす。その手を、ロウが掴んで僕を引っ張り上げた。
手を引かれて立ち上がった僕に、フッと表情を緩めて、繋いでない方の手で僕の頬を撫でる。


「どうしました?顔色が悪い」
「…大丈夫…。ちょっと走ったから、疲れただけ…。ねぇ…ロウ、あのね…」


その時、誰かがロウの名前を呼びながら近づいて来た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...