たゆたう青炎

孤独な青は闇を彷徨う

ロウが、僕の肩を押さえてしゃがみ、胸に抱き込んだ。僕の髪に唇を寄せて、「静かにしていて下さい」と囁く。
僕は小さく頷いて、ロウのシャツを強く握りしめた。
薄いシャツ越しにロウの体温を感じる。鼓動を感じる。僕が一番落ち着くロウの匂いが、身体にまとわりつく。


永遠にこのままでいたい。このまま僕を離さないで。


そんな願いは虚しく、ロウを呼びに来た誰かが去って行くと、温かい腕も鼓動も匂いも離れてしまった。
立ち上がったロウが、僕の腕を掴んで立たせ、また頬を撫でる。


「呼ばれたので、俺は戻ります。ルカ様も、ちゃんと教室に戻るのですよ。…ああそれと、今日は一緒に帰れません。用事が出来ましたので。一人でも大丈夫ですか？」


ーー今日は、じゃなくて、今日からは、でしょ？


そう思ったけど、詳しく話をされることが怖くて口には出来ない。


「大丈夫…」


掠れる声でそう言って、微かに頷くのが精一杯だ。


スルリと僕の頬を撫で下ろしながら、「では、くれぐれも気をつけて下さい」と言って、ロウが校内へと歩いて行く。
僕は、その後ろ姿を見つめて、「大丈夫じゃない…、ロウの嘘つき…」と震える声を漏らした。


学校を出て帰ってしまってもよかったのに、僕はロウの言う通りに、教室に戻った。
四時間目の授業が終わったばかりで、騒ついた教室の中を無言で歩く。自分の席に辿り着いて重い動作で座った途端、リツが振り返って僕の顔を覗き込んだ。


「ルカ…体調悪い？顔色が悪いけど、保健室行く？」


チラリとリツを見て、横に振ろうとした首を縦に小さく動かす。
教室にいても、何もやる気が出ない。
教室のそこかしこで皆んなが昼食を取り始めてるけど、食欲が全く湧かない。


机の上に置いた震える僕の手を、リツが優しく包んだ。


「ルカ…歩ける？無理なら背負うし。ほら…」
「ん…」


立ち上がったリツにつられるように僕も立ち上がる。


ーーああ…身体を少し動かすだけでも怠い…。


そう思った僕の気持ちを読んだのか、リツが僕の前に背中を向けてしゃがんだ。


いつもなら絶対に乗らないリツの背中に、素直に身を任せる。
軽々と立ち上がって歩き出したリツの背中に顔を伏せて、リツの温かい体温に少しだけ気持ちが緩んで目を閉じた。