たゆたう青炎

明樹

文字の大きさ
49 / 95

4

しおりを挟む
僕は、リツがどこに向かっているのか知らなかったのだけど、ロウが言うには、ここは隣の県にある人気の別荘地らしい。
 ロウが気づいて追いかけて来なくても、「赤築家の者にすぐ見つかったでしょう」とロウは言った。


「あいつは、詰めが甘いのです。ルカ様が危険な目に遭うかもしれないというのに、無計画に突っ走り過ぎだ」
「でも今回のことは、僕が悪いから…。リツを怒らないで。それに、リツと一緒じゃなかったら、僕を見つけれなかったかもでしょ?」
「時間はかかったかもしれませんが、俺は必ずルカ様を見つけます」
「僕にGPSでも付けてるの?」
「ああ…それはいい考えですね。でも、そんな物が無くても、ルカ様の匂いと気配で察知しますよ」


ロウの自信満々の言葉に、僕は呆気にとられる。だけど、すぐに自然と顔を綻ばせる。ロウに執着されることが、こんなにも嬉しい。



せっかく遠く離れた所まで来たのだからと、少し観光して帰ることにした。


ロウと手を繋いで、まだ朝の清々しい空気の森の中を散策して、見つけたカフェでモーニングを食べた。
そこでタクシーを呼んでもらい、スマホで調べたガラス工房へと向かう。


ガラス作り体験をして、ロウとお揃いのグラスを作った。僕は濃い青を、ロウは明るい青を混ぜたグラス。お互い相手を思って作ったこのグラスを、僕はロウに、ロウは僕にと贈り合った。


ガラス工房から移動するタクシーの中で、ロウが僕の作ったグラスを見て、終始ニコニコとしている。


「僕が作ったの、変?」
「違います。初めて、ルカ様から手作りの物を貰ったのですよ?嬉しくて堪らない。大事に使わせてもらいます」
「そう…?僕も、大事に使う…」


ロウが頷いてグラスを箱にしまい、僕の手を握る。


「今日だけで、お揃いが二つも出来ましたね。これからもっと、増やして行きましょう」


ロウの穏やかな優しい声に、握られた左手の指輪を見て、大きく頷いた。





街に出て、お昼に蕎麦を食べ、美術館に行って静かな時間を過ごした。
美術館を出ても、まだ暗くなるまでには時間はあったけど、家に帰ることにした。


ロウの背中に乗って帰るか、電車で帰るかを聞かれて、悩んだ末に、僕は「電車で帰る」と言った。


「久しぶりに、長い距離をあなたを乗せて駆けたかったのですが…」


少し残念そうな顔をするロウに、言っていいものかどうか迷いながら口を開く。


「リツの背中が…、結構揺れて疲れたんだ…。だから、二日続けて乗るのは…嫌だ…」
「あいつ…、またルカ様を困らせたんだな。ルカ様を連れ回すなら、細心の注意を払え。そういうことなら、電車でのんびりと帰りましょう。疲れたのなら、寝ていいですよ」


『リツ…悪口みたいなこと言っちゃってごめん…』と心の中で謝って、僕に向かって差し出されたロウの手を、しっかりと握りしめた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...