たゆたう青炎

明樹

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家に着いた頃には夜も更けて、空には星が瞬いていた。
ロウが、空を見上げる僕の隣に立ち、同じく空を見上げる。


「明日もいい天気みたいですね」
「うん…。今日行った赤築家の別荘…、あそこだったらもっと星が綺麗に見えたんだろうね」
「そうですね。でも、そういう綺麗なモノは、俺と見て下さい。感動は、俺と分かち合って下さい」
「なんで?」
「俺は、全てのことをルカ様と共有したいのです」
「ロウって、独占欲が強かったんだ。まあ、わかってたけど…」
「ルカ様に対してだけです。他のことなど何とも思いません。…不快ですか?」
「ううん。もっと僕だけだって…言って…ほし…い」


ロウに甘えることが慣れなくて、言ってる途中で恥ずかしくなり語尾が小さくなる。
ロウが小さく笑って僕を抱き寄せたから、熱くなった顔を隠すように、ロウの胸に顔を伏せた。
優しい甘い声が、僕の上から降ってくる。


「俺が、この世界でたった一つの好きなモノ…。それは、ルカ様です。ルカ様がいるから生きている。俺は、あなたがすべてだ」


ロウが、抱きついたまま頷いた僕の頭を撫でて抱き上げると、鍵を開けて家の中へ入った。


ロウが手早く作ったパスタで夕食を済ませて、先にシャワーを浴びた。僕と交代でシャワーを浴びるロウを待つ間、リビングのソファーに凭れてぼんやりとテレビを眺める。


ーー今日はいろんなことがあった。十七年間生きてきた中で、一番幸せな日かもしれない。母さん…、母さんの傍に行こうと思ったけど、もう大丈夫。ロウが僕を必要としてくれるから。今までも、これからもずっと。


幸せな気分に浸りながら考えている内に、頭がカクンと揺れ出した。


帰りの電車で寝たとはいえ、昨夜一睡もしていないのもあって、僕の瞼はもう限界だ。


ーー眠い…。でも、ロウともっと話したい。今日はずっと一緒にいたいって、言いたい…。


何度も目をパチパチと瞬かせていたけど、ロウがシャワーから戻って来るのを待たずに、結局僕は、ソファーに凭れたまま眠ってしまった。


よく寝た僕は、とてもスッキリとした気分で目覚めた。
ぼんやりとしたまま伸びをしようとしたら、腕が動かない。不思議に思って隣を見ると、眠るロウの顔が間近にあった。


ーーあれ?いつの間に…。ここ、ロウの部屋だ。


首だけを動かして周りを見る。ベッドと机と小さな本棚、それとクローゼットしかない殺風景な部屋。家を出る前、この部屋でロウの匂いを感じて、胸が苦しくなった。
でも戻って来た。ロウと一緒に戻って来て、今目の前にロウがいる。


僕はモゾモゾと身体を動かして、ロウの胸の前にあった顔をロウの顔の前に移動させた。
真正面からロウの顔をじっくりと見る。
長い睫毛にカーテンの隙間から射し込む陽が当たり、影を作っている。その下の、高い鼻に薄い唇。


僕は、指を伸ばして薄い唇に触れた。
今までの触れるだけのキスじゃない、昨日のキスを思い出す。全身が痺れて蕩けてしまう、気持ちいいキスだった。
髭が少し伸びてザラつく顎をなぞりながら「ロウ…キスしたい」と呟いてみた。
途端にロウの口角が上がり、瞼が開いて覗いた青い瞳が僕を捉える。
僕は、照れ臭いのを誤魔化すために、口を尖らせて言った。


「…寝てたんじゃないの?」
「寝てましたよ。でも、あなたが可愛いことをして可愛いことを言うから、一瞬で目が覚めました。さあ、何をして欲しいのです?もう一度、俺の目を見て言って」
「う…っ、…ロウは意地悪だ。聞こえてたくせに…」
「嬉しかったんです。だからお願いします。もう一度言って…」
「ロウ、と…キスしたい。昨日みたいなの…し、ふっ」


言い終わる前に、ロウが僕の唇にかぶりつく。
ロウの舌が、僕の口内に入り動き回る。歯列をなぞり、舌を絡ませ、軽く噛んで吸い上げる。
僕はロウの舌を追いかけるだけで、精一杯だ。
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