50 / 95
5
しおりを挟む
家に着いた頃には夜も更けて、空には星が瞬いていた。
ロウが、空を見上げる僕の隣に立ち、同じく空を見上げる。
「明日もいい天気みたいですね」
「うん…。今日行った赤築家の別荘…、あそこだったらもっと星が綺麗に見えたんだろうね」
「そうですね。でも、そういう綺麗なモノは、俺と見て下さい。感動は、俺と分かち合って下さい」
「なんで?」
「俺は、全てのことをルカ様と共有したいのです」
「ロウって、独占欲が強かったんだ。まあ、わかってたけど…」
「ルカ様に対してだけです。他のことなど何とも思いません。…不快ですか?」
「ううん。もっと僕だけだって…言って…ほし…い」
ロウに甘えることが慣れなくて、言ってる途中で恥ずかしくなり語尾が小さくなる。
ロウが小さく笑って僕を抱き寄せたから、熱くなった顔を隠すように、ロウの胸に顔を伏せた。
優しい甘い声が、僕の上から降ってくる。
「俺が、この世界でたった一つの好きなモノ…。それは、ルカ様です。ルカ様がいるから生きている。俺は、あなたがすべてだ」
ロウが、抱きついたまま頷いた僕の頭を撫でて抱き上げると、鍵を開けて家の中へ入った。
ロウが手早く作ったパスタで夕食を済ませて、先にシャワーを浴びた。僕と交代でシャワーを浴びるロウを待つ間、リビングのソファーに凭れてぼんやりとテレビを眺める。
ーー今日はいろんなことがあった。十七年間生きてきた中で、一番幸せな日かもしれない。母さん…、母さんの傍に行こうと思ったけど、もう大丈夫。ロウが僕を必要としてくれるから。今までも、これからもずっと。
幸せな気分に浸りながら考えている内に、頭がカクンと揺れ出した。
帰りの電車で寝たとはいえ、昨夜一睡もしていないのもあって、僕の瞼はもう限界だ。
ーー眠い…。でも、ロウともっと話したい。今日はずっと一緒にいたいって、言いたい…。
何度も目をパチパチと瞬かせていたけど、ロウがシャワーから戻って来るのを待たずに、結局僕は、ソファーに凭れたまま眠ってしまった。
よく寝た僕は、とてもスッキリとした気分で目覚めた。
ぼんやりとしたまま伸びをしようとしたら、腕が動かない。不思議に思って隣を見ると、眠るロウの顔が間近にあった。
ーーあれ?いつの間に…。ここ、ロウの部屋だ。
首だけを動かして周りを見る。ベッドと机と小さな本棚、それとクローゼットしかない殺風景な部屋。家を出る前、この部屋でロウの匂いを感じて、胸が苦しくなった。
でも戻って来た。ロウと一緒に戻って来て、今目の前にロウがいる。
僕はモゾモゾと身体を動かして、ロウの胸の前にあった顔をロウの顔の前に移動させた。
真正面からロウの顔をじっくりと見る。
長い睫毛にカーテンの隙間から射し込む陽が当たり、影を作っている。その下の、高い鼻に薄い唇。
僕は、指を伸ばして薄い唇に触れた。
今までの触れるだけのキスじゃない、昨日のキスを思い出す。全身が痺れて蕩けてしまう、気持ちいいキスだった。
髭が少し伸びてザラつく顎をなぞりながら「ロウ…キスしたい」と呟いてみた。
途端にロウの口角が上がり、瞼が開いて覗いた青い瞳が僕を捉える。
僕は、照れ臭いのを誤魔化すために、口を尖らせて言った。
「…寝てたんじゃないの?」
「寝てましたよ。でも、あなたが可愛いことをして可愛いことを言うから、一瞬で目が覚めました。さあ、何をして欲しいのです?もう一度、俺の目を見て言って」
「う…っ、…ロウは意地悪だ。聞こえてたくせに…」
「嬉しかったんです。だからお願いします。もう一度言って…」
「ロウ、と…キスしたい。昨日みたいなの…し、ふっ」
言い終わる前に、ロウが僕の唇にかぶりつく。
ロウの舌が、僕の口内に入り動き回る。歯列をなぞり、舌を絡ませ、軽く噛んで吸い上げる。
僕はロウの舌を追いかけるだけで、精一杯だ。
ロウが、空を見上げる僕の隣に立ち、同じく空を見上げる。
「明日もいい天気みたいですね」
「うん…。今日行った赤築家の別荘…、あそこだったらもっと星が綺麗に見えたんだろうね」
「そうですね。でも、そういう綺麗なモノは、俺と見て下さい。感動は、俺と分かち合って下さい」
「なんで?」
「俺は、全てのことをルカ様と共有したいのです」
「ロウって、独占欲が強かったんだ。まあ、わかってたけど…」
「ルカ様に対してだけです。他のことなど何とも思いません。…不快ですか?」
「ううん。もっと僕だけだって…言って…ほし…い」
ロウに甘えることが慣れなくて、言ってる途中で恥ずかしくなり語尾が小さくなる。
ロウが小さく笑って僕を抱き寄せたから、熱くなった顔を隠すように、ロウの胸に顔を伏せた。
優しい甘い声が、僕の上から降ってくる。
「俺が、この世界でたった一つの好きなモノ…。それは、ルカ様です。ルカ様がいるから生きている。俺は、あなたがすべてだ」
ロウが、抱きついたまま頷いた僕の頭を撫でて抱き上げると、鍵を開けて家の中へ入った。
ロウが手早く作ったパスタで夕食を済ませて、先にシャワーを浴びた。僕と交代でシャワーを浴びるロウを待つ間、リビングのソファーに凭れてぼんやりとテレビを眺める。
ーー今日はいろんなことがあった。十七年間生きてきた中で、一番幸せな日かもしれない。母さん…、母さんの傍に行こうと思ったけど、もう大丈夫。ロウが僕を必要としてくれるから。今までも、これからもずっと。
幸せな気分に浸りながら考えている内に、頭がカクンと揺れ出した。
帰りの電車で寝たとはいえ、昨夜一睡もしていないのもあって、僕の瞼はもう限界だ。
ーー眠い…。でも、ロウともっと話したい。今日はずっと一緒にいたいって、言いたい…。
何度も目をパチパチと瞬かせていたけど、ロウがシャワーから戻って来るのを待たずに、結局僕は、ソファーに凭れたまま眠ってしまった。
よく寝た僕は、とてもスッキリとした気分で目覚めた。
ぼんやりとしたまま伸びをしようとしたら、腕が動かない。不思議に思って隣を見ると、眠るロウの顔が間近にあった。
ーーあれ?いつの間に…。ここ、ロウの部屋だ。
首だけを動かして周りを見る。ベッドと机と小さな本棚、それとクローゼットしかない殺風景な部屋。家を出る前、この部屋でロウの匂いを感じて、胸が苦しくなった。
でも戻って来た。ロウと一緒に戻って来て、今目の前にロウがいる。
僕はモゾモゾと身体を動かして、ロウの胸の前にあった顔をロウの顔の前に移動させた。
真正面からロウの顔をじっくりと見る。
長い睫毛にカーテンの隙間から射し込む陽が当たり、影を作っている。その下の、高い鼻に薄い唇。
僕は、指を伸ばして薄い唇に触れた。
今までの触れるだけのキスじゃない、昨日のキスを思い出す。全身が痺れて蕩けてしまう、気持ちいいキスだった。
髭が少し伸びてザラつく顎をなぞりながら「ロウ…キスしたい」と呟いてみた。
途端にロウの口角が上がり、瞼が開いて覗いた青い瞳が僕を捉える。
僕は、照れ臭いのを誤魔化すために、口を尖らせて言った。
「…寝てたんじゃないの?」
「寝てましたよ。でも、あなたが可愛いことをして可愛いことを言うから、一瞬で目が覚めました。さあ、何をして欲しいのです?もう一度、俺の目を見て言って」
「う…っ、…ロウは意地悪だ。聞こえてたくせに…」
「嬉しかったんです。だからお願いします。もう一度言って…」
「ロウ、と…キスしたい。昨日みたいなの…し、ふっ」
言い終わる前に、ロウが僕の唇にかぶりつく。
ロウの舌が、僕の口内に入り動き回る。歯列をなぞり、舌を絡ませ、軽く噛んで吸い上げる。
僕はロウの舌を追いかけるだけで、精一杯だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる