たゆたう青炎

明樹

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黒の一族

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ハルトの足元で、ロウが起き上がろうともがくけど、全く力が入らないらしく、顔を上げることすら出来ていない。
そんなロウの姿を見て、ハルトは口角を上げて腕を狼化させると、仰向けに倒れているロウのお腹目掛けて、鋭く尖った爪を振り下ろそうとした。
僕は、咄嗟に腕を伸ばして走り出す。でも、到底間に合わない。


「ロウっ!」


その時、ハルトとロウの間に黒い影が走り、風圧によろめいたハルトが、二三歩後ろに退がった。
この場にいる誰もが目を見開いて、黒い影が走り抜けた先を見た。
そこには、漆黒の身体と瞳を持つ狼の姿。そして、黒い狼を見て固まっている僕とリツの背後から、よく通る低い声が響いてきた。


「これはこれは、四大名家がお揃いで。楽しそうなことをしているではないか」


一斉に皆んなが振り返る。僕のすぐ後ろに、スラリと背の高い、漆黒の髪と瞳の男の人が。


「あっ!あなたは…っ」
「ふっ、覚えていたか…青蓮ルカ。久しぶりだな」
「え?な…んで、僕…の名前…」
「知っている。俺は、ずっとおまえを見ていた」
「ずっと…?」
「だっ、誰だっ!おまえはっ」


僕の背後でハルトが大きく叫ぶ。


いつの日にか、駅でぶつかった僕達四大名家ではない、人狼の男。
なぜ彼がここにいるのだろうかと、僕はとても驚いた。
彼は、ハルトを一瞥すると、僕に向かって話し出す。


「青蓮 ルカ。おまえは、あそこに倒れている彼を助けたいか?」
「え?あっ、たっ、助けたいっ!僕はどうなってもいいからっ、ロウを助けたい!」
「なら助けてやろう。ただし、条件がある」
「条件?」
「おまえが俺と共に来ると言うのなら、力を貸してやる。嫌なら、このまま立ち去る。その場合、彼は確実に殺されるだろう。さて、どうする?」
「僕が…あなたと…?」


ーーこの黒い人狼は、何を言ってるのだろう?出来損ないの僕を連れて行って、何のメリットがあるのだろう。…ああ、そうか。彼は、僕が変身出来ないということを知らないんだ。なら、はっきりと言わないと…。


「あの…」
「あはっ、あんた何言ってんの?そこの青蓮家の人狼を連れて行ってどうすんの?だってそいつは、狼に変身出来ないんだからっ!」


僕の言葉に被せて、ハルトが叫ぶ。


ーーダメだ。僕が何の役にも立たないとわかったら、この人は軽蔑して、ロウを助けないで立ち去ってしまうだろう。


唇を噛み締めて俯く僕の頭上から、凛とした声が響き渡る。


「そんなことは百も承知だ。だからこそ、青蓮ルカが欲しいのだ。ふん、おまえ達四大名家は、とても憐れだな。無知とは恐ろしいものだ」
「なっ、なんのことだよっ!黄麻を侮辱すんのかっ!僕は、おまえみたいな黒い人狼なんて知らないぞっ。どうせ人狼界の端っこにいる野蛮な一族だろうがっ…」
「我らのことを知らぬならそれでいい。いずれ、後悔することになる」
「はあっ?どういう…」
「さて、青蓮 ルカ」


この黒い人狼は、僕以外は眼中にないらしく、早々にハルトとの会話を切り上げて再び問う。


「早く結論を出せ。彼を助けたいか?」


僕は、漆黒の瞳を見つめてから、ゆっくりとロウの下へと行き、傍にひざまづいて、ロウの手を強く握りしめた。


「ロウ…、一度も言ったことなかったけど、今までありがとう…。これからは、青蓮家に戻って、ルキを支えてあげて。僕は、ロウが元気で生きてさえいてくれたら、それで…いい…」
「…だ、め…です…。行かせ、ない…。俺…から、離れ…る、な…」
「僕が関係してなかったら、こんな罠にはもう、引っかからないよね…。これからは気をつけてよ。…ロウ…好きだよ」
「ルカ…っ」


弱々しく握り返してくるロウの手を解く。
僕がゆっくりと立ち上がるや否や、ハルトが僕に向かって突進してきた。
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