たゆたう青炎

明樹

文字の大きさ
61 / 95

2

しおりを挟む
「くそがぁっ!面倒だから、やっぱりおまえを殺ってやるっ!」


ロウの上を飛び越えて向かって来るハルトの尖った爪が、僕の胸に触れた瞬間、黒い狼がハルトに体当たりした。
ハルトが数メートル飛ばされて、地面に身体を強打する。でもすぐに、唸り声を上げながら身体を起こした。


「ってぇ…っ、てめぇっ、二度も邪魔しやがってっ。ぶっ殺す!」


今度は、黒い狼に突進しようとしたハルトの動きが、ピタリと止まる。
ハルトだけじゃなく、この場にいる黒い人狼以外の誰もが、緊張に身体を強張らせる。
シロウがキョロキョロと辺りを見て、掠れた声を絞り出した。


「な…、なんだ?おまえら…」


いつの間に集まったのか、中庭の周りを、無数の黒い狼が取り囲んでいた。


「青蓮 ルカ!」


よく通る声に呼ばれて、弾かれたように振り向く。
僕を射抜くように見る彼の目を見つめ返すと、僕ははっきりと言った。


「あなたと取引をします!だから…ロウを助けてっ」
「承知した」


彼がニヤリと笑って片手を挙げる。それを合図に、周りにいる黒狼達が、一斉に姿勢を低くして身構えた。


「あ!待って…っ。ロウを助けて欲しいけど、白蘭と黄麻は殺さないでっ。それに…、赤築の人狼は、僕の友達だ。だから手を出さないで…っ」
「おまえ…甘いな。こんな乱暴な奴らを許すのか?それに、そこの赤築家の人狼は、友達と言いながらおまえを騙したのではないのか?…ふむ、まあいい。俺はおまえが一緒に来てさえくれればいいのだ。しかしそうか…、心根の優しいおまえだからこそかもしれんな…」


そう言って、彼が僕に向かって手を伸ばす。


「ルカっ!行っちゃダメだっ!俺のこと、嫌いで話してくれなくなってもいいから、どこにも行くなっ」
「リツ…、リツを嫌いになんてならないよ。ふふ、大丈夫。離れていても、僕達は友達だ…」
「ルカ…っ」


リツに笑って、僕の腕を掴んだリツの手をそっと離す。
僕は黒い人狼の傍に行き、その手に僕の手を乗せた。
僕の後ろから、ロウの悲痛な声が聞こえる。


「ルカ…さま…っ!ダメ、だ…っ」
「ロウ…、元気で…」


ロウに向けて小さく呟く。


「案ずるな。そいつは無事に青蓮家まで送ってやる。おまえら、白蘭と黄麻は程々に痛めつけたら止めろ。ただし、そこに倒れている青蓮と赤築には手出しするな。丁重に家まで送ってやるんだ」


黒い人狼の彼が、黒狼の群れに命令すると、ロウを見つめる僕の肩を抱いて歩き出した。
すぐに僕達の後ろに、一匹の大きな狼が付いて来た。


「主、私の背中に乗せて行きますか?」
「いや、いい。俺が連れて行こう。青蓮 ルカ、おまえの気が変わって暴れたら困る。悪いが、少し眠っていてくれ」
「え?なに…」


彼を見上げた僕の顔に、霧のようなモノがかけられた。途端に僕の頭の中に靄がかかって、意識が薄れていく。


「あ…いや…、ロ、ウ…」


ーーもう少し、ロウを見ていたかったのに…。


瞼を閉じた拍子に、目尻から涙が零れ落ちた感触がした。
完全に意識が途切れる瞬間、「やっと手に入れた」と言う、静かな低い声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...