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「くそがぁっ!面倒だから、やっぱりおまえを殺ってやるっ!」
ロウの上を飛び越えて向かって来るハルトの尖った爪が、僕の胸に触れた瞬間、黒い狼がハルトに体当たりした。
ハルトが数メートル飛ばされて、地面に身体を強打する。でもすぐに、唸り声を上げながら身体を起こした。
「ってぇ…っ、てめぇっ、二度も邪魔しやがってっ。ぶっ殺す!」
今度は、黒い狼に突進しようとしたハルトの動きが、ピタリと止まる。
ハルトだけじゃなく、この場にいる黒い人狼以外の誰もが、緊張に身体を強張らせる。
シロウがキョロキョロと辺りを見て、掠れた声を絞り出した。
「な…、なんだ?おまえら…」
いつの間に集まったのか、中庭の周りを、無数の黒い狼が取り囲んでいた。
「青蓮 ルカ!」
よく通る声に呼ばれて、弾かれたように振り向く。
僕を射抜くように見る彼の目を見つめ返すと、僕ははっきりと言った。
「あなたと取引をします!だから…ロウを助けてっ」
「承知した」
彼がニヤリと笑って片手を挙げる。それを合図に、周りにいる黒狼達が、一斉に姿勢を低くして身構えた。
「あ!待って…っ。ロウを助けて欲しいけど、白蘭と黄麻は殺さないでっ。それに…、赤築の人狼は、僕の友達だ。だから手を出さないで…っ」
「おまえ…甘いな。こんな乱暴な奴らを許すのか?それに、そこの赤築家の人狼は、友達と言いながらおまえを騙したのではないのか?…ふむ、まあいい。俺はおまえが一緒に来てさえくれればいいのだ。しかしそうか…、心根の優しいおまえだからこそかもしれんな…」
そう言って、彼が僕に向かって手を伸ばす。
「ルカっ!行っちゃダメだっ!俺のこと、嫌いで話してくれなくなってもいいから、どこにも行くなっ」
「リツ…、リツを嫌いになんてならないよ。ふふ、大丈夫。離れていても、僕達は友達だ…」
「ルカ…っ」
リツに笑って、僕の腕を掴んだリツの手をそっと離す。
僕は黒い人狼の傍に行き、その手に僕の手を乗せた。
僕の後ろから、ロウの悲痛な声が聞こえる。
「ルカ…さま…っ!ダメ、だ…っ」
「ロウ…、元気で…」
ロウに向けて小さく呟く。
「案ずるな。そいつは無事に青蓮家まで送ってやる。おまえら、白蘭と黄麻は程々に痛めつけたら止めろ。ただし、そこに倒れている青蓮と赤築には手出しするな。丁重に家まで送ってやるんだ」
黒い人狼の彼が、黒狼の群れに命令すると、ロウを見つめる僕の肩を抱いて歩き出した。
すぐに僕達の後ろに、一匹の大きな狼が付いて来た。
「主、私の背中に乗せて行きますか?」
「いや、いい。俺が連れて行こう。青蓮 ルカ、おまえの気が変わって暴れたら困る。悪いが、少し眠っていてくれ」
「え?なに…」
彼を見上げた僕の顔に、霧のようなモノがかけられた。途端に僕の頭の中に靄がかかって、意識が薄れていく。
「あ…いや…、ロ、ウ…」
ーーもう少し、ロウを見ていたかったのに…。
瞼を閉じた拍子に、目尻から涙が零れ落ちた感触がした。
完全に意識が途切れる瞬間、「やっと手に入れた」と言う、静かな低い声が聞こえた。
ロウの上を飛び越えて向かって来るハルトの尖った爪が、僕の胸に触れた瞬間、黒い狼がハルトに体当たりした。
ハルトが数メートル飛ばされて、地面に身体を強打する。でもすぐに、唸り声を上げながら身体を起こした。
「ってぇ…っ、てめぇっ、二度も邪魔しやがってっ。ぶっ殺す!」
今度は、黒い狼に突進しようとしたハルトの動きが、ピタリと止まる。
ハルトだけじゃなく、この場にいる黒い人狼以外の誰もが、緊張に身体を強張らせる。
シロウがキョロキョロと辺りを見て、掠れた声を絞り出した。
「な…、なんだ?おまえら…」
いつの間に集まったのか、中庭の周りを、無数の黒い狼が取り囲んでいた。
「青蓮 ルカ!」
よく通る声に呼ばれて、弾かれたように振り向く。
僕を射抜くように見る彼の目を見つめ返すと、僕ははっきりと言った。
「あなたと取引をします!だから…ロウを助けてっ」
「承知した」
彼がニヤリと笑って片手を挙げる。それを合図に、周りにいる黒狼達が、一斉に姿勢を低くして身構えた。
「あ!待って…っ。ロウを助けて欲しいけど、白蘭と黄麻は殺さないでっ。それに…、赤築の人狼は、僕の友達だ。だから手を出さないで…っ」
「おまえ…甘いな。こんな乱暴な奴らを許すのか?それに、そこの赤築家の人狼は、友達と言いながらおまえを騙したのではないのか?…ふむ、まあいい。俺はおまえが一緒に来てさえくれればいいのだ。しかしそうか…、心根の優しいおまえだからこそかもしれんな…」
そう言って、彼が僕に向かって手を伸ばす。
「ルカっ!行っちゃダメだっ!俺のこと、嫌いで話してくれなくなってもいいから、どこにも行くなっ」
「リツ…、リツを嫌いになんてならないよ。ふふ、大丈夫。離れていても、僕達は友達だ…」
「ルカ…っ」
リツに笑って、僕の腕を掴んだリツの手をそっと離す。
僕は黒い人狼の傍に行き、その手に僕の手を乗せた。
僕の後ろから、ロウの悲痛な声が聞こえる。
「ルカ…さま…っ!ダメ、だ…っ」
「ロウ…、元気で…」
ロウに向けて小さく呟く。
「案ずるな。そいつは無事に青蓮家まで送ってやる。おまえら、白蘭と黄麻は程々に痛めつけたら止めろ。ただし、そこに倒れている青蓮と赤築には手出しするな。丁重に家まで送ってやるんだ」
黒い人狼の彼が、黒狼の群れに命令すると、ロウを見つめる僕の肩を抱いて歩き出した。
すぐに僕達の後ろに、一匹の大きな狼が付いて来た。
「主、私の背中に乗せて行きますか?」
「いや、いい。俺が連れて行こう。青蓮 ルカ、おまえの気が変わって暴れたら困る。悪いが、少し眠っていてくれ」
「え?なに…」
彼を見上げた僕の顔に、霧のようなモノがかけられた。途端に僕の頭の中に靄がかかって、意識が薄れていく。
「あ…いや…、ロ、ウ…」
ーーもう少し、ロウを見ていたかったのに…。
瞼を閉じた拍子に、目尻から涙が零れ落ちた感触がした。
完全に意識が途切れる瞬間、「やっと手に入れた」と言う、静かな低い声が聞こえた。
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